最年長エース、バウティスタ アグートが旬のフルカチュを破る スペインが決勝へ進出/ATPカップ
【映像】フルカチュを撃破したバウティスタ アグート

 2022年のスタートとともに始まった男子プロテニスの国別対抗戦『ATPカップ』も、いよいよクライマックスに突入した。ダイナミックな世代交代を象徴する大会になるかと思いきや、まず決勝進出を決めたのは30代が主力のスペインだ。その主役は16カ国のエースの中で最年長の33歳、元世界ランク9位のロベルト・バウティスタ アグートだった。

【映像】フルカチュを撃破したバウティスタ アグート

 今が9位のホベルト・フルカチュを擁するポーランドとの準決勝。ファンを痺れさせた2時間44分のエース対決の最後のポイントは、この日何度も見せ場を作った真骨頂のパッシングショットだった。
「この試合のことはいつまでも忘れないと思う。どっちが勝ってもおかしくなかったけど、今日は僕たちが勝つ日だった。これがテニスなんだ」

 7-6(6) 2-6 7-6(5)。196cmのフルカチュが放ったエースは26本で最速225km。183cmのバウティスタ アグートはたったの1本だ。ウィナーの数も64本のフルカチュに対して半分に満たない31本だったが、勝負どころの粘り強さと正確さでベテランが勝利を引き寄せた。
 
 残念だったことは、ポーランドのナンバー2、カミル・マイクシャクがコロナウイルスに感染して出場できなかったことだ。世界ランク117位とはいえグループラウンドで3勝をあげ、注目されていた。

 急きょナンバー2シングルスに起用されたのは、ここまでダブルスで2勝を挙げていたヤン・ジーリンスキ。ダブルス・ランキングは96位という25歳だが、シングルスではツアーレベルの試合を戦ったことがない。世界ランク20位のパブロ・カレーニョブスタがわずか53分で先勝したのは至極当然の結果だった。

 こうしてダブルスを待たず決着はついた。スペインの決勝進出は、初開催の2020年以来で2年ぶり。3年連続出場のバウティスタ アグートは2年前もフルに戦い、チームは決勝で敗れたが、個人成績は6戦6勝だった。ただし、ナンバー2として。

 2年目、ラファエルナダルが出場しなかったためエースを務めたが、3試合戦って1勝2敗だった。若手のステファノス・チチパスやマッテオ・ベレッティーニに敗れ、チームも準決勝で敗れた。エースとしての力不足を露呈した前回から2つ歳をとったが、ランキングは6つしか落としていない。そして、23歳のキャスパー・ルード(8位)、25歳のクリスチャン・ガリン(17位)など若い格上を次々破ってきた。

 ナダルのようなカリスマ性や派手さはない。しかし、強力かつ安定感抜群のショットやメンタルの強さにはますます磨きがかかり、玄人を唸らせる。

「2年前は準優勝だったけど、今度は勝つ」とエースが堂々と宣言し、スペインは明日のロシアとカナダの準決勝の結果を待つ。

 その準決勝のカードだが、これはまた目が離せない。ナンバー2はデニス・シャポバロフ(14位)とロマン・サフィウリン(167位)、ナンバー1はフェリックス・オジェ アリアシム(11位)とダニール・メドベージェフ(2位)。まさかの次の感染者が出るなど突発的なことが起こらない限り、オーダーは間違いなくこうなる。

 少々心配されているのがメドベージェフの体力だ。初戦で足に痙攣を起こし、腹筋にもずっとテープを貼っている。それでもここまで全ての対戦で単複を戦うフル出場。「ちょっとテニスやりすぎ」と冗談めかしたが、オーストラリア戦では勝負がついてもなおダブルスをプレーした。決してダブルスが得意とはいえないのだが、その積極性は意外なほどの“チーム愛”から生まれている。 

 痙攣しても止めなかった初戦の日、こう言っていた。

「ここでは自分のためにプレーしているんじゃない。ロシアのため、国のために戦っている。たとえコートで死ぬことになったとしても、僕は勝ちにいくだろう」

 それはエースとしての使命感だけでなく、純粋にチーム戦の喜びを感じているからでもある。

「いつも個人のツアーでも僕はよくロシアの選手の試合を見るんだ。テレビの前で1ポイントごとに叫んだり立ち上がったりしないけどね。ここではみんなやってる。楽しいよ。コートで感じるエネルギーが特別で、ここでプレーするのがすごく楽しい」

 癇癪持ちで、かつてはよく観客も敵にまわしていた“悪童”だった。今でもそのキャラをときどき覗かせるものの、こんなにチャーミングで頼もしいリーダーだ。明日もありったけのエネルギーが注ぎ込まれるだろう。

文/山口奈緒

【映像】フルカチュを撃破したバウティスタ アグート
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