もう「牌が混ざっていない」と言わせるもんか 麻雀・全自動卓誕生から44年 メーカーが2ミリの閃きで完成させた会心作と苦悩の歴史
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 麻雀をリアルに楽しむ人であれば、既に触れたことがない人の方が少ないのでは、と思われるほどに普及した「全自動卓」。1976年に最初の全自動卓が世に出てから、もう44年になる。当時の麻雀ブームの後押しもあり、多くの雀荘に導入されたが、その時からユーザーに言われてきたのが「牌が偏っている。混ざっていない」というものだった。革新的ではありながら、手で混ぜるよりも偏ると言われ続けてきた長年の課題を克服したのが、業界最後発にして、今や最大手である大洋技研。10月19日に発表した最新機(AMOS REXX III)では、牌の撹拌率を高めるだけでなく、自動で手元に配られた牌の上下を揃えるということにも成功した。この画期的な卓をどう作り上げたのか。また、この卓にたどり着くまでの苦労の歴史とは――。

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 麻雀に縁がない人のために、まず先に「全自動卓」について説明する。基本的に4人で遊ぶ麻雀は、34種類×4枚=136枚の牌を使う。プレイヤーはまず牌を十分に混ぜ、それぞれ17枚を2段に積み(牌山)、準備を整える必要がある。ただ、この作業には多少なりとも技術が求められ、また一方で行き過ぎた技術によって意図的に偏った並びを作る“イカサマ”も可能だ。極端に言えば、最初に13枚ずつ取り合う「配牌」の時点で、あと1枚くれば超高打点の役をアガる状況を作ることもできる。台の中で牌をかき混ぜ、牌山を作るところまでをしてくれるのが全自動卓だ。準備の時間を大幅に減らすだけでなく、イカサマ防止にも役立つことから、当時としては実に画期的だった。

 全自動卓より前に、麻雀牌の製造・販売を行っていた大洋技研が、最初の卓を作ったのは1988年。今から32年前だ。世に最初の全自動卓が出てから12年後のこと。14社あったメーカー(現在は2社)のうち最後発だった。もともとはユリア樹脂を用いたボタンの製造・販売、ここから派生して麻雀牌を手掛けていたが、卓の開発など完全にゼロからのスタート。当時を知る大洋技研・エンジニアリング部の大野統括部長は「初めての試みでしたからね。トラブルもあったし回収もした。そもそも牌が出てこないとか、普通の動きをしないとかよく先輩から聞きました」と回想した。

 それでも徐々に開発の経験、実績から、次々と新しいシリーズ機の開発に成功する。まずは自分の持ち点を表示する機能。次に相手も含む4人の点数を表示できるようにした。当初は金属製の点棒を抵抗値で読み取り、何点分の点棒が箱の中に入っているかを計算していたが、汚れやサビによる誤認識も多発した。そこで読み取りに影響が出ないようにと、点棒にICチップを組み込んで解決した。相手の点数が瞬時にミスなく分かる。相手の点を取り合うゲームにおいて、非常に重要な項目がストレスなくできるようになった。

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 その後も、技術はさらに進む。大きな進歩は自動配牌。13枚ずつ配られた状態で、卓の中から築牌と配牌が同時にせり上がって来るようにした。またドラ表示も可能にした。ただ、全自動卓の誕生からずっと言われてきた牌の偏りをなくす「撹拌率」の向上は、永遠の課題だった。

 ここで全自動卓が、どうやって牌山を積むかという基本的な説明をする。ボタン操作をすることで、卓の真ん中が開かれると、そこには洗濯機のドラムのように牌を落とすところがある。ここがゆっくり回転しながら牌を仕分け、1枚ずつベルトコンベアのように端から並べていく。17枚並んだら1段下げて、今度は上段に17枚。これで1人当たり17×2枚の山が完成する。

 機械の知識がある人であれば気づくかもしれないが、ドラムに落とした順に牌が積まれてしまっては、たとえ中でかき混ぜるとしても、意図して偏りを作りやすくなってしまう。例として、不要牌として捨てられていた牌を先に落とし、手牌にあった有効牌を後に落とすと、捨てられやすい字牌が下段に、それ以外が上段に偏るということも起こりうる。極端な例ともなれば、自動配牌の場合、前回の形のまま上がってくることもあった。上級者ともなれば、自分の手牌や他社の捨て牌の状況だけで、相手の手牌が透けるほど読めるが、こんな偏りが意図的に作られたとしたらゲームとして成り立たない。実際、トップレベルのプロ雀士からも改良を求める声は根強かった。

 大野統括部長も、この課題克服には頭を悩ませた。「仕組みが理解できる人は『ここに入った牌は、ここに積まれますよね』と分かってしまうんです。プログラムで牌を並べる順をランダムにすることもしました。しかし撹拌率の問題は払拭できなかったです。ドラムがもっと大きければいいんですが、卓のサイズの関係上、そこまでスペースがない。どうしても先に落としたものはいくらかき回しても先に積まれるんですよ」。本当に混ざってほしいのは、ドラムの端に固まった牌と、中央にある牌。ただ今から約2年前、全く別の発想から撹拌率を高める技術の開発に成功することになる。

 きっかけは「牌の上下を揃えること」だった。自身も麻雀ファンである伊藤勝則社長が社員と楽しむ際に、気になったことがあった。自動で配られた牌は、上下関係なく並んだ状態で出てくる。丸い形のピンズ、竹を模した棒状のソウズはまだいいが、漢字で表現されるマンズ、字牌は上下が逆だと非常に見づらい。その結果、牌を順番に並べる理牌という作業において、いちいち上下を揃えるにも時間がかかるのだ。技術担当の西端秀紀室長に、この上下をどうにかならないかと指示を出したところから、開発が始まった。「牌の上下を判別するのに、画像を認識する方法を考えたんですよ。ただ一瞬で画像を認識する機能はコストに合わないし、牌にマークを入れるという案にも違和感がありました」(大野統括部長)と、苦悩は続いた。それでも諦めずに開発を続けて、見つかった時には「それはもう、すごかったですよ!」と社員が大興奮したのが、牌に埋め込まれている磁石の位置をずらすことだった。

もう「牌が混ざっていない」と言わせるもんか 麻雀・全自動卓誕生から44年 メーカーが2ミリの閃きで完成させた会心作と苦悩の歴史
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 全自動卓に用いられる牌には、もともと磁石が入っている。中心にあったものを、上方向に2ミリほどずらすことにした。その上で、牌を並べる部分に「関所」のようなポイントを設け、上下が正しく拾われたものはそのまま通過、逆になっているものは跳ね除けてドラムに戻すことにした。伊藤社長いわく「これが3ミリもずれていると、牌を持った時に違和感が出る」という微妙な差。ただ、この機能によって先にドラムに落とされた牌であっても、上下が逆であればドラムの中央に逆戻り。エンジニアリング課・古田晃基さんの言葉を借りれば「立体的、3Dに混ぜることが可能になった」ということだ。ドラムの中に落とす順番に依存しない牌山の形成。ユーザーの希望を叶える全く別の理由で開発を進めて来た結果、大きな成果を同時に得ることにもつながった。前作から採用した、ドラム内のかご状の装置との相乗効果で、撹拌率はさらにアップ。この上下整列機能を知ったプロ雀士からは「これはすごい」と驚きの声が相次いだという。

 長年の課題を克服し、麻雀をプレーする上での初期準備は、ほぼ全て自動化することに成功した。ただメーカーとしては、リアルな麻雀ファンを増やすためにさらに次を考え、目指している。古田さんは「みなさんが考えるし、それに応えるものとしては牌譜(手牌と捨て牌の記録)ですよね。画像認識にするか、牌にICチップを入れるのか、などクリアする課題はたくさんあるし、なかなか進まないんですが、ここまで来たら牌譜が読めるようにしたいんです」と熱っぽく語った。牌の状況が把握できることで、一般の利用者だけでなく、テレビ放送などでもいち早く状況を説明することができるようになる。具体例で言えば、リーチをかけた瞬間に、どの牌で待っているか、牌山にあと何枚アガリ牌が残っているかも分かるようにしたいのだ。

 実はこの全自動卓が挑戦している機能、利用者も多いゲームアプリであれば実現できているものが非常に多い。それでもリアルな世界でのファンを増やすために、わずか2ミリ磁石をずらすというアイディアを生むために、2年をかける。大野統括部長は「雀荘に行きにくい方が、少しでも足を運んでもらえるように。今はもう全自動卓で初めて麻雀を打ちました、という時代でもありますからね」と微笑んだ。人々を楽しませるためのメーカーの矜持が、この全自動卓には詰まっている。

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