患者と家族の関係性にも影響? 日本が突出して多い精神科の「医療保護入院」「身体拘束」
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 世界的に見ても多いといわれる日本の精神科病院の入院者数。その半数近くを占めるのが、精神保健指定医がその必要性を認め、本人が拒絶をした場合でも家族等の同意があれば強制的に入院させられる「医療保護入院」だ。

【映像】医療保護入院した当事者が生出演

患者と家族の関係性にも影響? 日本が突出して多い精神科の「医療保護入院」「身体拘束」

 大学生の時に統合失調症との診断を受け、3回の医療保護入院を経験した(最長は半年間)、現在は精神障害当事者会ポルケで活動する堀合研二郎氏(41)は、退院も医師と家族の合意が必要であるため、親を恨んだこともあったという。
 

患者と家族の関係性にも影響? 日本が突出して多い精神科の「医療保護入院」「身体拘束」

 「入院したくないのに入院させられるし、退院を決めるのもお医者さんで、それがいつなのかも教えてくれない。親に対しても、“こんなところに俺を送り込むのか”と恨みに思った。“10年以上入院している人だらけだ”といった情報が入ってくると、自分もそうなるのではないかという恐れを抱き、不安で仕方がなかった。もちろん、医療提供者たちはよくやってくれていると思うし、僕も感謝していることもたくさんある。一方で、嫌なことは嫌だということだ」。

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 精神科医療の問題を長期連載、『ルポ・収容所列島 ニッポンの精神医療を問う』にまとめた『週刊東洋経済』の風間直樹編集長はこう話す。

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 「病院経営という視点に立てば、積極的に受け入れるメリットがあるわけで、逆に断るインセンティブはないわけだ。また、医療保護入院は“家族は常に患者の側に立つ“という前提の下に成り立っている制度でもある。取材の中で感じたのは、第三者の目が入らないので、子どもの親権を奪うため、あるいは親の財産目当てで家族が悪用したケースがあった。しかも刑事事件のように裁判所の令状があって拘束されるわけではなく、期間の制限も無いため、結果的には本人の意思は完全に追いやられ、無期懲役のようになってしまう可能性もある」。

■身体拘束「患者としては辛い」

患者と家族の関係性にも影響? 日本が突出して多い精神科の「医療保護入院」「身体拘束」

 日本の精神科医療では、「身体拘束」の問題も指摘されるところだ。うつ病を患うあかねさん(看護学生、20)は約1年半前、症状が重く食事が取れない状態が続いたこと、そして自殺未遂を起こしたことを理由に、3回の医療保護入院を経験。さらに院内で自殺を図ろうとしたため、4日間の身体拘束を受けた。

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 「入院したくないという意思は伝えたが、命に危険があるということで、親の許可で入院させられた。医師や看護師たちは親身になってくれたが、閉鎖病棟では許可が降りないと外出もできず、空調が整っていることで季節を感じられない。そこにストレスを感じた。身体拘束の時には胴体、両腕、両足を固定されて寝返りが打てなかったので深く眠れなかった。オムツを穿かされ、食事やトイレの様子も見られたので、恥ずかしかった。

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 命を救うのが医師の仕事だし、私の場合もやむを得なかったと思う。逆に私の大切な人が死のうとしていたら、強制的にでも、と思うだろう。また、人手が足りていないということもあって拘束が必要になる場合もあると思う。それでも人権を侵害されてしまう行為なので、やっぱり患者としては辛いものだ」。

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 風間氏は「本来、身体拘束は行える場面が法的に限られているが、精神科は他と比べものにならないくらい医師の裁量が大きく、バランスが悪い状態にある。エコノミークラス症候群になって亡くなったケースも少なくない。命を守るはずの身体拘束が、時に命をも奪うということだ」と話す。

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 「諸外国では身体拘束がかなり抑制されているし、日本を代表するような精神科病院で、非常にゆとりのある病院では“ゼロ”に向けてチャレンジしているというようなことはある。一方で重い症状の患者がいて余裕のない病院では、身体拘束や薬、隔離室を使い、“安きに流れる”ところも出てきてしまう。根本的な発想の転換をする必要があるのではないかと私は感じるし、やはり第三者の目などを入れていかないと、凄惨な虐待行為があっても表に出てきにくい」。

■「地域で支えるという考え方も必要だと思う」

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 細木数子氏の娘で、精神疾患の患者を抱える家族から相談を受けることもあるという細木かおり氏は「家族の身を守るため、あるいは本人が自殺してしまわないか心配だ、といったケースもあるし、疲れ果てた家族が命を絶ってしまうケースもあると思う。医療従事者としても“何かあったら家族に責められてしまうかもしれない”という不安を抱えながら一生懸命にやられている現場も多いと思うので、こういう報道によって“精神科はダメだ”とならないよう、きちんと見極めないといけないと思う」と懸念を示した。

 また、リディラバ代表の安部敏樹氏は「身体拘束については数日以内に再び検査をしなければ継続できないといったルールを定めることによる介入も可能だと思う。しかしそれによる新たな手間がかかってくることを考えれば、根本にあるのは医師や看護師の人手不足だと思う」とコメント。

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 慶応義塾大学の若新雄純特任准教授は「僕の友人も、ほとんど説明を受けないまま、親の求めに応じた医師に医療保護入院をさせられてしまったことがあった。この問題に限らず、医療サービスにおいては十分な説明が大事だと思う。そして“第三者の目“という話があったが、僕が育った街の精神病院は山奥にあって、祖母からはよく“連れて行くぞ”とブラックジョークのように叱られたものだった。逆に言えば、地域の人でも、それくらい院内の実態が分からないということだと思う」と指摘した。

 風間氏は「言葉を選ばずに言うと、今の日本の精神医療は本人だけが不幸だ。家族も病院も自治体も、一見すると上手く回っているように見えて、実は個人の人権をどう考えるのか、という問題がある。たとえば統合失調症については、今では薬でかなり症状を抑えられるようになっているのに、閉鎖病棟に入ってしまうので、我々の中には“イメージ”しかなくなってしまう。たとえば地域にグループホームを設置するとか、地域の目を閉鎖病棟に入れていくといったことが欠かせない」とコメント。

患者と家族の関係性にも影響? 日本が突出して多い精神科の「医療保護入院」「身体拘束」

 堀合氏は「まずは家族だけに背負わせてしまう。そして家族の手を離れると、今度は病院だけに背負わせてしまう。そういった構造があると思うので、医療従事者だけが頑張るということのないよう、地域で支えるという考え方も必要だと思う」と話していた。(『ABEMA Prime』より)

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