再犯率を下げるには“受刑者に応じた指導”が大事? 「拘禁刑」創設から考える刑務所の在り方
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 13日の国会で、インターネット上の誹謗中傷への対策を強化するための「侮辱罪」の厳罰化を盛り込んだ改正刑法が成立した。この改正では、1907年の刑法制定以来初めてとなる刑罰の種類変更も実施される。それが、これまでの懲役と禁錮を廃止し、「拘禁刑」を新たに導入するというものだ。

【映像】「拘禁刑」を作る必要性(※解説パート 2分45秒~)

「現行法のもとでは、懲役受刑者は一定の時間を必ず作業に割くこととされている。今回の拘禁刑の創設によって、個々の受刑者の特性に応じて作業や指導などを組み合わせた柔軟な処遇が可能となる」(古川禎久法務大臣)

 拘禁刑の導入について「個々の受刑者の特性に応じた処遇が可能になる」と説明した古川大臣。その背景にあるのが、高止まり傾向にある再犯率の改善だ。

再犯率を下げるには“受刑者に応じた指導”が大事? 「拘禁刑」創設から考える刑務所の在り方

 刑務作業が義務付けられる「懲役刑」と作業の義務がない「禁錮刑」を一本化し、受刑者の特性に応じた指導や教育プログラムを実施する。拘禁刑の導入によって、“懲罰”の意味合いが強かった刑罰から、“更生”を図るための取り組みを推進する方針へとシフトチェンジすることになる。

 また、今回の改正刑法で「被害者の心情を受刑者がより理解し、自らの罪を見つめなおす取り組みも強化する」と古川大臣は説明している。

「“被害者の視点を取り入れた教育”の時間数を増やして受刑期間全体を通じて働きかけを行うことや、職員による個別面接を通じて被害者等から聴取した内容を受刑者に伝え、被害者等の心情を考えさせる時間を設けることなどを検討している。いずれにしても、受刑者が自身の犯した罪と真摯に向き合って真の反省に繋がるよう、悔悟の情と改善更生の意欲を持つことができるように各種取り組みを一層推進していきたい」

再犯率を下げるには“受刑者に応じた指導”が大事? 「拘禁刑」創設から考える刑務所の在り方

 このニュースについて、犯罪学に精通し、元法務官僚で刑務所など現場での実務経験もある龍谷大学法学部の浜井浩一教授と中継を繋ぎ、話を聞いた。

――日本の刑務所の「懲役刑」と「禁錮刑」の違いについて教えてください。

「明治以来、刑法に『懲役刑』が課されていた。懲役刑は読んで字のごとく“懲らしめの労役”。だから、刑務所では懲役刑に処された場合、刑務作業が義務付けられる。 強制労働かというと議論が分かれるが、受刑者は拒否することができない。刑務所に入ってきて訓練を終えたら、各工場に行って1日8時間、週5日働く。それ自体が刑罰になる。作業報奨金は支払われるが、給料は支払われない。一方で、禁固刑というのは政治犯を想定して作られた もので、懲らしめの労役がない刑罰のこと。刑務所の中に入り、その間自由を奪われるという刑罰。実際に自由を奪われてずっと居室にいるというのは苦痛以外の何物でもないので、多くの禁固刑の受刑者が『請願作業』といって『働かせてください』とお願いをする。そうすることで、懲役刑の受刑者と全く同じ扱いになる。今の日本には政治犯はほとんどいないので、いわゆる“過失犯”が圧倒的に多い。その方々も1日ただ居室に座っているのは苦痛なので、作業に出るという形になる。ただ、一度作業に出たいと請願してしまうと、後から止めることができない。実態としては懲役刑も禁固刑も、刑務所の中での過ごし方はほぼ同じになっている」


――なぜ「懲役刑」と「禁錮刑」を一本化させた「拘禁刑」を作る必要があったのでしょうか。

「請願作業をするということもあり、実質的に懲役刑と禁固刑の差がなくなってきた 。それに加えて、2008年ごろから政府全体が再犯防止に取り組む中で、刑務所の中でも懲らしめるための労役をするのではなくて、矯正教育をして再犯率を下げていこうということが行われていた。そうした中で、明治期に作られた『懲役』という名前が時代にそぐわなくなってきた。また、日本の刑務所では高齢受刑者が増えている。犯罪全体が減っているので、受刑者の数も減っているが、高齢受刑者の数は増え続けている現状がある。70~90歳のおじいちゃんやおばあちゃんが、万引き等の犯罪を繰り返すことによって刑務所に来ている。この人たちも懲役刑になるので労働しなければならない。刑務所が認知症などでちゃんとした労働ができない人たちに対しても懲役刑を執行しなければならないというのは、現場サイドとしては相当矛盾がある状態。法務当局には、そこを解消する意味もあったと思う。成人年齢が引き下げられたときに、18~19歳の人たちに対して今の刑務所では十分なことができないなどのさまざまな要因によって拘禁刑に切り替わってきた」


――拘禁刑になっても刑務所内での労働は変わらないのでしょうか?

「執行までに3年の猶予をもらっているのもあるが、今の日本の刑務所は刑務作業を中心に運営されている。 日本は少ない職員で多くの受刑者をコントロールすることができる“安上がり”な刑務所を作っている。その最大の要因は、懲役刑に処された受刑者に刑務所のために働いてもらうことだ。例えば刑務所のメンテナンスであったり、受刑者の作業報奨金の計算であったり、図書や部品の管理であったりということを刑務作業として受刑者にやってもらう。 これによって刑務所が成り立っているところもあるし、その作業自体が受刑者にとって最も有益な作業となる。自分で考えて行動できる作業になっているので、役に立つ作業として人気もある。もし全ての刑務作業の義務化をやめた場合には、新規採用で人を雇わなくてはならないのでコストが増大する。だから現状を維持しつつ、それをより社会復帰に近いものに変えていくのがベストだと思う」

「明治以降、長い間淡々と刑が執行されてきた。懲役刑の刑務作業が社会復帰にどれだけ役立ったかというと難しいところがあるが、少なくとも刑務所の規律を維持するという意味では非常に効果があった。法務省時代に受刑者にアンケート調査を取ったところ、80%くらいの受刑者が刑務作業に対して肯定的だった。なぜかというと、時間が早く過ぎるから。彼らはとにかく早く刑務所を出たいから、時間が長く感じるのは一番の苦痛になる。それを刑務作業がいろいろな意味で補ってきていた部分があり、これを急に辞めてしまうのはかなり難しい。刑務作業の在り方は保安重視なので、受刑者がお互い黙々と作業に費やすことができるようにしている。そこを変えていくことが社会復帰には必要だと思う。しかし、刑務官には心理的な抵抗があると思う。 刑務官の意識改革が大事」


――ノルウェーには“世界一受刑者に優しい刑務所”がありますが、一方で課題もあるのでしょうか。

「ノルウェーのハルデン刑務所を紹介すると外形的な環境に注目が集まりやすいが、実際に私が訪問して感じたのは“受刑者と職員の関係性”。日本の少年院の教官と生徒との関係性に近いところがある。ハルデン刑務所は重警備刑務所で殺人犯がたくさんいるが、同様の関係性を築いている。特に、職員の意識が違う。ノルウェーの刑務官は刑務官になるために、2年間矯正大学校で学び、卒業しなくてはならない。そこで専門的な知識を身につけた上で、さまざまなインターンを経て現場に勤務する。多くの刑務官はしみじみ『本当にこの仕事に就いて良かった』と言っている。刑務官には、変わっていく受刑者を体験してもらいたい」


――日本の社会には、まだ刑務所や受刑者に対する厳しい目があるかもしれません。どうやって意識を変えていったらよいのでしょうか。 

「ノルウェーの刑務所も、元々“世界一受刑者に優しい刑務所”だったわけではない。1960~70年代にはかなり厳罰化していたが、そこで再犯率が急激に上昇する経験を経て、どうしたらいいのだろうと考えた。ノルウェーの刑務所のコンセプトは『受刑者は必ず社会に戻ってくる』。どのような隣人になって社会に戻ってきてほしいかをテーマに刑務所の在り方を考えていった結果、現在の状況に行き着いている。日本社会でも受刑者は毎日のように仮釈放・満期釈放されているが、多くの人が気がついていない部分もある。重いスティグマを持っているのでなかなか就職先も見つからない。あるいは就職できてもそこに定着できないので再犯率も高い。その辺を変えていくためには、社会の中で生活できるように(環境を)整えていくことが大事。そのためには人々の意識改革が何よりも重要だ」

(『ABEMAヒルズ』より)

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