今回のカルロス・ゴーン容疑者逮捕の背景をめぐって、日産とルノーの経営統合をめぐる様々な思惑があったことが伝えられている。今年3月には、海外メディアが「ルノーと日産の合併」「ゴーン氏が交渉を動かしており、合併後の会社の経営の指揮をとるだろう」と報じていた。
背景にあるのは、ルノーの株式の15%を握る筆頭株主であるフランス政府の思惑だ。さらにルノーは日産株の44%を握る。自動車産業アナリストの中西孝樹氏は20日、「ルノーの利益の半分以上、時価総額のかなりの部分は日産の保有価値から出ている。だからルノーの価値というのはある意味で日産の価値と言ってもいいぐらいだし、日産を切り離してやっていくのは難しい。フランス政府が喜ぶのは、言ってみれば日産と一体化してしまうこと」と話す。そのためか、マクロン大統領は今年までだったゴーン容疑者のルノーCEOの任期を4年間延ばす代わりに、日産との経営統合を求めたという。
24日に放送されたAbemaTV『みのもんたのよるバズ!』に出演した経済ジャーナリストの井上久男氏は「日産とルノーの問題になぜ両国の政府が出てきているかというと、国益の問題に絡んでくるからだ。自動車産業は部品メーカーも含めて非常に裾野が広いので、雇用や税収にも影響してくる。フランス側は日産を自分たちのコントロール下におこうとしてきた。マクロン大統領は経済産業大臣の時、株式を2年以上保有すると議決権が2倍になるという法律"フロランジュ法"を作って関与を強めようとした。また、ルノーのトップは事実上フランス政府が指名してきた。ゴーン容疑者の前のシュバイツァーCEOもフランス政府の元官房長官だし、日産に来ていたルノー出身の財務担当の元役員にはフランスの元財務官僚もいた。だから日産としてもフランス政府が間接的に攻めてきていると思っていた」と話す。
「1999年、ルノーからの8000億円が入っていなければ日産は確実に倒産していた。私は朝日新聞で日産担当だったが、倒産の発表があった時にいつでもリリースできるよう、予定原稿を作っていた。それだけの危機だった。実はこのとき、ルノーは2000億円しか出せなかったので、フランス政府が裏書きして6000億円を調達した。だからフランス政府には"助けたじゃないか"という思いがある。ところが日産にも言い分がある。配当だけでもすでに1兆円を超える額を返しているし、日産にしてみればルノーの価値はなくなりつつある。しかし2015年、経済産業大臣だったマクロンが日産への経営関与を強めようとした時にはゴーンが跳ね返している。その時はどちらも矛を収めたが、今年2月にゴーンのルノーCEOの任期が切れることになった時、大統領になったマクロンは再任の条件として"ルノーと日産の関係を不可逆的なものにするということを突きつけた」。
そんな中、9月に行われた日産の取締役会では、マクロン大統領の要請を受けて経営統合を模索していたゴーン容疑者が「ルノーとの提携は今のままでいいのか」と切り出し、議論を始める方針を決定した。日産の役員は日経新聞の取材に対し「これはゴーンさんが仕掛けたワナ。議論を始めるという言質をとって一気にルノーとの経営統合に動こうという考えではないか」とも答えている。
一方、英『フィナンシャル・タイムズ』は「ゴーン氏はルノーと日産の経営統合を計画していたが、取締役会が反対し阻止する方法を探っていた」と報道、「ゴーン氏を追放するための陰謀の薫りがする」(『ル・モンド』)、「西川社長はゴーン氏を失墜させたブルータス」(『レゼゴー』)、「日本人は恩知らずか?」(『フィガロ』)とフランスメディアも厳しい見方を示している。このような"クーデター説"について、西川社長は19日の会見で「権力が1人に集中したと。それに対してそうではない勢力からクーデターがあったと。そういう理解はしていない」と否定している。
井上氏は「本能寺の変だ。最初からクーデターは意図していなかったと思うが、結果としてクーデターになった。グレッグ・ケリー容疑者が悪いことをするための知恵袋だとすると、西川社長は本業の知恵袋だった。そもそもケリー容疑者は"謎の役員"と言われていて、日産社内でも見たことのある人はほとんどいない。普段はアメリカに住んで牧場経営しているので、3~4か月に1回しか来ない。本業は全くやっておらず、ゴーンの裏の仕事をやっていた。また、志賀さんも月に1回程度しか来ないが、ゴーンさんも関係が良い。つまりケリー、ルノー出身の2人、そして志賀さんがゴーン派。西川社長は側近中の側近だったし、非常にいい関係だったが、社長になってからはゴーンとの方針に微妙なずれが出始めた。そのきっかけが今年2月のゴーンが再任後の経営統合に関する方針転換だ。今後さらに日産とルノーの関係がこじれれば、どちらにとってもいいことはない。少し難しい話だが、日本の会社法上、ルノーは約44%日産の株を持っているが、日産もルノーの株を15%持っている。これを10%買い増せばルノーの議決権が消えて支配力がなくなる。もしルノー側が強硬手段で来た場合、日産としてはそういうこともできる」と話す。
一方、日本では日産の専務が総理官邸を訪問した。菅官房長官は「色々な国際的な問題があるので、そうした中でお手伝いできることがあれば、という思いだ」とコメント、世耕経産相も22日、「今後のアライアンス(提携)のあり方については、これは関係者が合意、納得したうえで進めることが重要だというふうに思っている」とフランスの財務相に釘を刺している。
元経産官僚で維新の会の足立康史衆議院議員は「フランス政府はルノーの筆頭株主で直接支配しているが、経済産業省と日産に関係はないし、日本政府ができることはほとんど建前だが、裏でできることはある。万博開催地の投票があったので、世耕さんがパリに行っていたが、"大阪万博、勝った"とやった前日にはフランス政府とバチバチやってきた。経産省の万博部隊もパリに入っているが、自動車の関係者も入っている。日本政府とフランス政府との攻防が始まっている」と話す。「日本の産業は電機と自動車でやってきたが、すでに電機は壊れている。今まで内燃機関でやってきたのが電気自動車になっていく中、次に自動車が倒れたら日本が倒れる。トヨタも大変な危機感を持っている。そんな自動車産業自体が大激変の真っ只中なのに、ルノーと日産でチャンバラをやっている場合ではない」。(AbemaTV/『みのもんたのよるバズ!』より)