スポーツの人気は高まっているのか?
槙野智章氏(以下、槙野):昨年を持ちまして17年間のプロサッカー選手を引退し、現在はヴィッセル神戸のエバンジェリストとしてチームをPRする活動を行っております。スポーツ業界のことなど語っていきたいと思いますので、よろしくお願いします。
山田陸氏(以下、山田):ABEMAを担当しております山田と申します。本日、本当に貴重な機会をいただいたので、スポーツ産業とマーケティング業界の発展に向けて、 そこに繋がるキーワードというのを、色々深掘らせていただけたらなと思っています。よろしくお願いいたします。
本日、お話しさせていただきたいテーマは3つございます。
まず1つ目は、スポーツの人気について。2つ目は、スポーツを宣伝やマーケティング に活用する価値がどれぐらいあるか。3つ目は、スポーツ産業の発展に向けて何をしていくべきかをお話ししていきたいと思います。
槙野さんからご意見いただきつつ、恐縮ながら私も意見をお伝えできたらなと思っております。では早速ですが、ここ数年、スポーツの人気についてどう感じていますか。
槙野:昨年行われた『FIFA ワールドカップ カタール 2022』、そして野球のWBC、バレーボール、バスケットボール、ラグビー…とスポーツに対しての関心は高まっているなと。スタジアムに足を運ぶ方たちもかなり多くなってきているという印象を持っています。
スポーツに関心を持っている層は減少傾向に
山田:では実際のデータを見ていきたいと思います。2022年までのデータなので、2023年の分は入っていないのですが、5年ぐらいで見ると、まだ減少傾向にあります。
スポーツに関心を持っている層というのは、確かに増えて来たように思えますが、2022年までで言うと下がっている。加えて、野球とサッカーで見てみると、試合中継を見る頻度というのが、2022年まででいうとあまり増えていない。そして、2013年から2022年までで見ると、実はファンの人口が減っていることがわかります。
槙野:やっぱり、まず1つはコロナも影響として出ているのかなと思います。また、各ジャンルのスポーツやチームが色々な工夫をしなければいけないと思うので、既存ファンを大事にすることはもちろんですが、新規ファンを獲得するためのチャレンジが足りていないということが、このグラフを見てわかると思います。
山田:競技ごとのファン数の増減について、2021から2023年のデータで見てみると、サッカーや野球、バスケットボールは上がっています。 やはり、競技レベルが向上しているスポーツが、伸びて来ている印象を受けます。
槙野:メディアの露出というところもあるのかなという風に思っています。 実際に、テレビ朝日さんが今、スポーツの中継にものすごく力を入れていて、「ABEMA」さんも(スポーツ中継への注力を)やっていただいております。
テレビ朝日さんが仰っていたのが『スポーツ業界、赤字覚悟でやっています』ということ。『赤字覚悟ではあるけれども、色々な方たちにスポーツを見ていただきたい、知ってもらいたい、感動を与えたい』ということを仰っていたので、やっぱり発信する、放送する場を増やしていかなければならないと思います。
ファンになるきっかけは「無料で見る機会」が大きい
槙野:やっぱり無料だから見るという方が多いと思うんですよね。
実は、スポーツを見る環境というのはあるんですよ。「ABEMA」以外でも、「DAZN」「SPOTV NOW」「Lemino」など、色々なところが増えて来ているので。無料で見ることができても、その情報が届いていないということも問題ですね。
山田:ファンになるきっかけを調べてみたところ、サッカーも野球も、他のスポーツも、地上波や動画の配信サービスで無料で見る機会というのが、きっかけとしては1番大きいというデータもありました。
槙野さんが仰る通り、メディアできちんと無料での観戦機会を作るというのが、この業界において1つ大事なポイントであると思っています。
スポーツコンテンツが持つポテンシャル、マーケティングへの活用価値とは
山田:続いてのテーマは「スポーツコンテンツが持つポテンシャル」についてです。マーケティングや宣伝活動において活用する価値とはどんなところにあるのか、深掘っていけたらと思います。
少し話が逸れるのですが、槙野さんに伺いたかったのが、元々チームに所属していた時は、槙野さんにとってそのチームのスポンサーってどんな存在でしたか。
槙野:まずはスポンサーさんがどういうことをしているのかというところを知ることからスタートしました。シーズン初めに、どういう企業なのかというのをちゃんと説明をするチームもありました。逆に何も説明がなかったチームというのもありました。
商品を選ぶ時に、自分のチームのスポンサーをしてくれている企業さんのところで買いたいと思うようになり、選ぶようにはなりましたね。
山田:プレイヤーの方でもそうだと思うので、ファンの方も同じだと思います。
次に、事前にいくつかの企業さんに『何をどう感じて、なぜ(スポンサー契約を)継続しているのですか』とうかがってきました。ブランド認知の向上については、スポーツマーケティングは実はコストパフォーマンスが高いとか、スポーツ自体の価値というのを感じられている企業さんが結構いるようです。例えば、人の心を動かすとか、勇気を与えるとか、そこに価値を持たれている企業さんも結構いるのかなと思います。
また、サッカーのファンとファンじゃない方の双方にサッカー大会のスポンサー企業A社に対してのイメージを聞いてみたところ、ファンの方は他の商品より価格が高くてもこの企業の商品を優先して購入している。ファンの方のほうが2倍近く高い。こういうエンゲージメントが獲得できているというのが、やはりスポーツにおいてスポンサーを続けるメリットだと感じます。
山田:プレイヤーの皆さんがスポンサーに対しての感謝だったり、いわゆるエンゲージというのはすごくあるんだなと思いましたけど、それはファンにとっても同じようにあると言えます。
槙野:スポンサーをしていただいているチームのウェアを着る時は、メディアの前で見せ方というのはすごく気にして動いていました。例えばヒーローインタビューの時、上半身までしか映らないんです。スポンサーのロゴがあるズボンやスパイクがどうやったら見えるかなと思ったら、靴脱いで靴紐結んで、映るように持ってインタビューを受けることもありました。
スポンサーさんへの訪問や挨拶などをしていく中で、これだけお金を出資してくれている、これだけチームをサポートしてくれている、応援してくれているとダイレクトに聞いた時に、プレー以外でも返すところがあると考えながらやっていました。
山田:次は、消費者が何を見て企業や商品に興味を持つかというニールセンによるデータですけれど、まずは「知人からの薦め」が1番。ですが、「インフルエンサーによる広告/ブランドについての意見」よりも高いところに「スポーツイベントでのブランドスポンサーシップ」というのがあり、消費者にとって興味関心を抱く大きなきっかけになっています。
槙野:僕もやっぱりプレイヤーとして長く居たので、あのチーム、あの競技はあの企業がスポンサーなんだというイメージはすぐ沸きます。
実際に、住宅のスポンサーがいたら『そこで家借りたいな、家建てたいな』と。今でも引っ越しする時は、引っ越し業者のスポンサーがいたらそこにお願いするとか、 今までの繋がりを持ちながら生活していますね。
今後のスポーツ産業の発展に欠かせないものとは
山田:では最後のテーマにいきますが、これまでの話を踏まえて、今後のスポーツ産業発展に向けて、槙野さんは何が大事だと思いますか。そして、どんなことをしていきたいと思いますか。
槙野:これは、永遠のテーマと言いますか、1つの大きな課題だと思うんですけれども、まず1つは、新スタジアムの建設。これに尽きると思いますね。今、サッカーだけじゃなく、色々な競技 の新しいスタジアムやアリーナの建設というのは、かなり急速に進んでいます。
山田:実際、北海道もすごく上手くいっている。
槙野:エスコンフィールド北海道ですね。お風呂に入りながら、サウナに入りながら、野球の試合見るだとか。 バーベキューしながら、試合観戦をするだとか。今までになかったようなやり方を考えていますよね。
山田:スポーツのスタジアムの建設というのは、確かにポイントになりそうですね。
槙野:そこの中で1番大事になるテーマがトイレらしいです。 スタジアム建設において、トイレをいかに綺麗にするか、広くするか。メイクを直せるとか、女性が過ごしやすいかを大事にしているそうです。
山田:スタジアム建設以外は何かありますか。
槙野:あとは、地域の方たちとの向き合い方だと思います。 新規のお客さんをどうやって獲得するかという時に、チームや選手が街に出向いて関係性を保つという。そこが明らかにスポーツ業界は足りていないなと思います。
山田:待っているだけじゃなくて、チームや選手側からきちんと出ていく。確かにそれは新しいですね。
槙野:スポーツ産業発展に向けて、スタジアムの建設もそうですけれど、商店街や街の方たちとの向き合い方とか取り組み方、「まちおこし」じゃないですけれども、そういうことはやはり今後やっていかなきゃいけないと思います。
山田:僕も色々考えてみたのですが、スポーツはエコサイクルにしていかないといけないと思っています。
今までは、テレビ局や大手の広告会社が負担をすることで、なんとかスポーツコンテンツの無料視聴機会を作るケースというのが多かった。でも、スポンサーが増えたことによって、無料視聴の機会が増えるとなればスポンサーへの感謝の声がたくさん集まると思います。「ABEMA」でもテレビ朝日さんのおかげで、『FIFA ワールドカップ カタール 2022』を最後まで生中継することができたのですが、 そのときもスポンサーへの感謝がすごく集まりました。
そうすることで、スポーツのファンが増えて、プレイヤーの人口が増えて、強い選手が生まれる。強い選手が生まれると、さらにその個人も含めたチームに対してもスポンサーが増えるという。こういうサイクルを作っていくことが大事だと考えています。
槙野:スポンサーの皆さんのサポートが間違いなく必要になってきます。 選手たちもそれに対してしっかりと向き合ってプレーすることはもちろんですけれども、そこの発信の場があるかないかで、 新規ファンの獲得も変わるのかなと思います。
山田:槙野さん、本日は色々なお話をありがとうございました。
槙野:ありがとうございました。
スピーカー
サッカー元日本代表/ヴィッセル神戸エバンジェリスト 槙野智章氏
株式会社AbemaTV/株式会社サイバーエージェント 山田陸氏
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