推しファンから作られる「エンタメブランド価値」から紅白を考える

 以下は、「推しエンタメブランドスコープ」の2023年1月~10月までのデータをもとに作成した、司会者を含む出場歌手の「推しファン」が作るエンタメブランド価値(GEM指数)のランキング。

 「推しエンタメブランドスコープ」では、市場におけるコンテンツファンの広がり(推しファン人数※)と深さ(支出金額と接触日数で測られる関与度)から、エンタメブランドの価値を測る総合指標「GEM指数」を算出している。

『乃木坂46』が今年の紅白を引っ張る?

 まず、音楽や特定の分野を問わず、その人にはまっている「推しファン」から作られるエンタメブランド価値(GEM指数)をみてみる。 紅白歌合戦出場者の中では『乃木坂46』のGEM指数が圧倒的に多くTOPとなった。『乃木坂46』は総合ランキングにおいても上位に位置し、歌手・アイドルグループでは総合1位の『Snow Man』に次ぐ8位にランクインする「推され度合い」を誇る。出場歌手のなかでファンの熱量を最も集めるのは『乃木坂46』となりそうだ。

 続いて、『Stray Kids』『SEVENTEEN』、同じ坂道グループの『櫻坂46』がランクインしており、「推しファンの熱量」はこういったアイドルグループがけん引することが予想される。なお、6位には、今年初出場となる『すとぷり』がランクイン。『すとぷり』は動画配信サイトやSNSなどを中心に活動し、注目を浴びている6人組のエンタテイメントグループだ。

司会の有吉弘行は老若男女の支持を集める

 続いて、紅白歌合戦出場者の“推しファン”の特色をみてみる。以下は、横軸に女性割合、縦軸に推しファンの平均年齢を取って散布図に配置したもの。右に行くほど推しファンの女性割合が増し、上に行くほど平均年齢があがっている。

 こうしてみると、女性若者層、女性年配層とも、それぞれに人気の出場者がいることが分かる。一方、男性に人気のタレント・アーティストをみると、平均年齢がどちらかに偏ったタレント・アーティストはあまりおらず、それぞれの平均年齢は全体の平均値に集中している。

 なお司会の有吉弘行は、女性割合56.2%、平均年齢42.7歳で中央に位置しており、「老若男女問わず人気もの」で、総合司会としてふさわしいファンの構成比といえそう。

男性ソロアーティストが「忠実な長年のファン」を引き付け

 では、「ファンの忠誠度が高い」タレント・アーティストは誰なのか。ここでは、その人の存在がもはや“人生の一部である”とまで答える「信者」の割合を横軸に、平均ファン歴を縦軸においてみる。

GEM Partnersが2023年NHK紅白歌合戦出場者の「ブランド価値」と「リーチ力」を分析

 まず、信者割合が高く、ファン歴の長いタレントとして『さだまさし』『藤井フミヤ』が突出している。懐かしい曲を聴くことを楽しみにしているファンの存在がうかがえる。

 一方、ファン歴は必ずしも長くはないが、すでに高い割合の信者を集めているタレント・アーティストとして、初出場の『キタニタツヤ』『すとぷり』が突出している。これらのタレント・アーティストの推しファンは、「特にものすごく熱量の高いコアファン」の含有率が他と比べて高いといえそうだ。こうしたアーティストの出演の際には、人気度に比してSNS・ネットにおいてコアファンが特に熱を帯びて盛り上がるだろう。

「音楽・アーティスト」としてのリーチ力

 ここまで音楽に限らない様々な分野での「推しファン層」のデータをもとに、司会者、出場歌手をみてきたが、紅白歌合戦は「音楽番組」。普段からどのぐらいの人々が出場歌手に接しているのか。また、その接触の特色はどのようなものか。

 「エンタメリーチトラッカー」は、日次で調査を行い、人々がどのようなエンタメに接しているかを、映像、マンガ・書籍、ゲーム、音楽・ラジオにわたって調査し、週次で集計しているデータをもとに「人々がどんなエンタメにどのぐらい、どのように(メディアタイプ、サービス)接しているか」を示す「リーチpt」で理解できるダッシュボード。調査は7月より開始しており、7月から11月12日までのデータをもとに棚卸をする。

リーチ力は『YOASOBI』が圧倒的

 以下は、2023年の紅白歌合戦の出場者に関して、本サービス調査開始となる7月からの音楽に関するリーチptの合計ランキング。出場者のリーチ力は『YOASOBI』が圧倒的で、2位に入った初出場の『Mrs. GREEN APPLE』の倍以上となっている。「推しエンタメブランドスコープ」のGEM指数では、1位だった『乃木坂46』はここでも6位と上位に入った。「コアなファン層」の「推し度」だけでなく、多くの人に楽曲がリーチしていることがうかがえる。

リーチ層の男女割合は紅白ともによいバランス、ただし「シニア女性」にリーチしているアーティストが少なめ

 続いて接触者の属性をみてみる。まず、男女比では紅組アーティストは男性が多めが多く、逆に白組は女性が多めのアーティストが多くなった。特に、白組の男性アイドルグループである『すとぷり』『BE:FIRST』『JO1』『SEVENTEEN』『Stray Kids』は女性割合がほぼ9割となっている。ただし、それぞれ逆の比率のアーティストも存在しており、リーチ層の男女比はそこまで偏っていないとみられる。

 年代別構成比でも、「若者中心」「シニア中心」とばらついているが、白組の若者層多めの『すとぷり』『SEVENTEEN』『Stray Kids』『Mrs. GREEN APPLE』『キタニタツヤ』はいずれも初出場であり、こうした新しい人気のアーティストにより若い視聴者層に訴求する意図がうかがえる。

 「推しエンタメブランドスコープ」で行ったように、横軸にリーチ者の女性割合、縦軸にリーチ者の平均年齢を取って散布図に配置すると以下の通りとなる。アーティスト数としては、「男性シニアにリーチ」「バランス型」「女性若年層にリーチ」のアーティストとなっている。「男性若年層」エリアには『乃木坂46』、「女性シニア層」エリアには『藤井フミヤ』の存在が際立っている。

デジタル×若者に強いアーティストののべリーチ数が多め

 音楽アーティストに接するとき、Spotifyのような定額制音楽配信サービスで接している割合を横軸に、そのアーティストに接している人の平均年齢を縦軸に取ると以下の通りとなる。 

 こうしてみるとシニア層では定額制音楽配信サービスでの接触割合が低く、逆に若者層の割合が高くなると接触割合が高くなる。また、バブルの大きさがのべリーチ数を示しているが、リーチ数が大きいアーティストは右下の「デジタル×若者」ゾーンに集中している。

 紅白歌合戦はテレビ放送ですが、デジタルに慣れ親しんだ若者層に向けても様々な取り組みをしている。出場者の中でリーチ力の高い『YOASOBI』『あいみょん』などが、こうした新しい楽しみ方で音楽に接する人々を引き付けることになりそうだ。

 勝つのは白組? 紅組?

 このように、家族がそろうことが多い大みそかの高視聴率番組として、“推しファン”という観点でも“音楽アーティストのリーチ力”という意味でも、老若男女バランスよい出場者であり、特に初出場のアーティストによって若者層に訴求しようとしていることがうかがえる。

 紅白は歌合戦であり最後に勝敗が付くわけだが、仮に普段からリーチしている人、推しファンの量で決まるのだとすると、どちらが勝つことになるのか。推しファンが作るエンタメブランド価値を示す「GEM指数」と、音楽/アーティストとしての接触量を示すリーチptの紅組・白組の合計は以下の通り。

 推しファンから作られるブランド価値では紅組、白組はほぼ同じとなった。紅組は『乃木坂46』と『櫻坂46』という坂道グループの存在感が突出。白組は、男性アーティスト・アイドルグループで初出場となる『Stray Kids』『SEVENTEEN』『すとぷり』がTOP3を占めた。

 一方の音楽アーティストとしてのリーチ力の合計では、『YOASOBI』『あいみょん』『Ado』がけん引する紅組が白組を大きく引き離した。

 紅組、白組、どちらが勝つのかは、投票者が全体の数としては少ないコアな人だけでなく、ライトな人もいるということを考えると、コア層での投票が5分5分となる。一方、ライト層の票は紅組に多く流れるとすると、紅組が今年は優勝するのではと予想する。もちろん、ファンかどうか、普段から接しているかどうかにかかわらず、当日の素晴らしいパフォーマンスが評価されて番狂わせになるという展開も期待される。