文部科学省認可の株式会社立のデジタルハリウッド大学(DHU)では、在学生に加え一般も対象にした特別講義『海外原作の映像化は、ヒットコンテンツの鍵となるか』を、2023年12月に開催。その特別講座の内容がレポートとしてまとめ、公開された。

<開催レポート>

 2023年12月14日、特別講義「海外原作の映像化は、ヒットコンテンツの鍵となるか」を開催した。

 Netflixの実写ドラマ『ONE PIECE』や、『梨泰院クラス』の日本版ドラマ『六本木クラス』など、人気の原作は国境を超えて映像化されることがある。話題性の高さや海外展開のしやすさから、海外原作を日本で映像化する動きは近年活発になっており、近い将来、DHU生が海外原作の映像化に携わる可能性は大いにある。

 今回の特別講義では、海外原作を積極的に活用することで、日本から世界的なヒットコンテンツを作れないか考察した。登壇したのは、インド・サウジアラビア・韓国のエンターテインメント業界と接点がある有識者3名と、同大学教授の高橋 光輝だ。諸外国の事例を検証し、海外市場や日本コンテンツの可能性について解説した。

【インド】ヒットの鍵は、占い・ボリウッド・クリケット・宗教

 最初に登壇したのは、同大学の講師で株式会社電通の渡辺哲也氏。渡辺氏は、同社の国際事業統括局にて海外事業やM&Aを担当。経済産業省やBSフジと協力し、インドの子ども層をターゲットにした「ジャパコン・キッズTV」の運営、関連商材の販売促進事業などに携わり、インド市場を肌で感じてきたという。

 インドは、日本の10倍以上の人口がいる大国。結論として渡辺氏は、インド産の原作を日本向けにローカライズするより、日本産の原作をインド向けにローカライズする動きの方が活発であると紹介した。

「昔からインドで人気のコンテンツには共通点があります。それは、占い・ボリウッド・クリケット・宗教というジャンル、いずれかに属していること。クリケットやヒンドゥー教、イスラム教などを題材にした作品は特に多く、それらは日本で身近でないためヒットしづらいんです」

 一方で、野球ではなくクリケットのスターを目指すインド版『巨人の星』や、「クリケットに挑戦でござるの巻」のようなエピソードがあるインド版『忍者ハットリくん』など、現地の視聴者に受け入れられやすい形でリメイクをし、日本企業がインド市場に挑戦していると言う。

 加えて渡辺氏は、「単に日本の作品を現地で放映するだけでなく、インドの企業と組んでキャラクター商品を視聴者に購入してもらえるような仕組み作りも重要」と話した。

【サウジ】アニメ好きの皇太子がエンタメ領域で日本との積極的な協業を指示

 続いて登壇したのは、サウジアラビアとの関係が深い、アニメプロデューサーの平澤直氏。

 サウジアラビアは、「サウード家のアラビア地方」が由来となっているほど、サウード王家が絶大な力を持つ君主制国家。これまでサウジアラビア政府は、宗教上の理由で大衆の娯楽活動を制限してきたが、近年、非石油産業貿易の拡大を主目的とする「ビジョン2030」を発表した。中には「国内における文化・娯楽活動への支出を、総家計支出の2.9%から6%に引き上げる」という明確な目標や、エンターテインメント領域への積極的な投資、規制緩和に関する内容が記されており、アニメやゲームに関心のあるムハンマド皇太子の力が大きく働いているそうだ。

 そして「ビジョン2030」発表後、皇太子直轄のミスク財団の子会社「マンガプロダクションズ」、日本の東映アニメーション、平澤氏が代表を務めるARCHなどによって『ジャーニー 太古アラビア半島での奇跡と戦いの物語』が制作された。

 このプロジェクトにおいて注目すべきは、サウジアラビアの若手クリエイターが日本に派遣され、熟練のアニメーターによる研修を受けた点だ。

 『ジャーニー』という作品を通じて、若手アニメーターが成長し、技術を自国に持ち帰ってサウジアラビアのアニメ産業発展に貢献する。このように海外のクリエイターに対する技術移転を積極的にすることで、平澤氏は「日本の技術は、基軸通貨ならぬ“基軸表現”になりうる」と主張。サウジアラビアは日本アニメにとって発展途上の市場だが、いつか日本アニメの面影を残した大作が生まれる地になるかもしれない。

【韓国】ヒット原作の源泉「ウェブトゥーン」

 実業家のカン・ハンナ氏は、著書『コンテンツ・ボーダーレス』でも触れていた、韓国産の原作が日本に与えた影響について、実例を交えながら紹介。

 『冬のソナタ』や『イカゲーム』のような韓流・韓国ドラマ、少女時代やBTSのようなK-POPなど、2000年代から現代に渡り、根強い人気がある韓国のエンターテインメント。韓国のエンタメといえば、この2大ジャンルを思い浮かべる人が多いかもしれないが、もう1つ忘れてはいけないジャンルががウェブトゥーンだ。

 Web上で閲覧できる、スマホで読みやすい縦型Cartoon(マンガ)。略してウェブトゥーン。2000年代に生まれた韓国発祥のコンテンツであり、『梨泰院クラス』や『ムービング』などの大ヒットドラマは、ウェブトゥーンが原作だ。「ウェブトゥーン」という言葉は日本では馴染みがないかもしれないが、「ピッコマ」や「LINEマンガ」などのアプリは、韓国の企業が運営するウェブトゥーンサービス。日本のマンガ市場は、韓国に支えられている側面もある。

 ではなぜ、韓国でウェブトゥーン市場が拡大したのか。「ウェブトゥーンの特徴として、まずアマチュアの作家にも広告収益が分配されます。一般的に印税と言えば出版社:作家=9:1で、この割合は日本も韓国も大体同じ。しかしウェブトゥーンの場合、プラットフォーム:作家=3:7という割合で収益を分配しているプラットフォームがあります。また、映像化する際もプラットフォームを運営する企業がクリエイターをサポートする仕組みが整っており、クリエイターがきちんと稼げる市場なんです」と、カン・ハンナ氏はウェブトゥーン市場の実態を紹介した。

いくら稼いだらヒットコンテンツ?

 ここからは、渡辺氏、平澤氏、カン・ハンナ氏、高橋氏の4名でトークセッション。日本を基点にして、インド・サウジアラビア・韓国、そしてさまざまな国と地域でビジネスを展開する3名が、コンテンツビジネスに関して議論を深めた。

 たとえば、そもそも制作陣は何をもって大ヒットと定義するのか。電通で幅広いジャンルのTV番組制作に携わってきた渡辺先生は、「配給元が、どのタイミングで収益を上げたいかによってヒットの定義が異なる」と話す。

「映画の場合は興行収入という分かりやすい指標がありますが、TVの場合は評価指標がさまざまです。たとえば『名探偵コナン』のTVシリーズは視聴率が1桁台ですが、劇場版の興行収入は盤石です。また『プリキュア』シリーズも視聴率が1桁台ながら、関連商品の売れ行きがすさまじい。何を目的にするかで、ヒットの定義は変わります」

 また、カン・ハンナ氏は「わたしが考えるに、どんな規模のプロジェクトでも黒字であれば大成功。5億円の売上!でも実は10億円以上の費用をかけていました、では成功とは言えません。また、『イカゲーム』のようにシーズン2の制作が決まったものはヒットしたと言って良いですよね。単発で終わらせるのではなくシリーズが連続するようなIPを、韓国の企業は生み出そうとしています」と解説した。

積極的な技術移転によって、現地にスターが生まれる

 最後に、高橋氏から「サウジアラビアの例のように、制作ノウハウの継承や共同制作プロジェクトがもっと増えても良いんじゃないか。こうしたプロジェクトは自然に増えるものなのか、それとも何かしら日本側からアプローチがないと簡単に増えないのか、平澤さんはどのようにお考えですか」と質問があった。

「日本側から能動的に、共同制作プロジェクトを企画していくのが望ましいと思います。これまで日本産コンテンツの多くは、現地のファンによって引っ張り上げられた受動的な歴史があります。そして今は、海外出身の日本アニメファンの方が制作サイドになり、“日本と一緒に仕事がしたい”と声をかけてくれる事例が増えているんです。これから10年15年は大変重要な時期になると考えており、このタイミングで大事なのが、日本の技術を惜しみなく世界中へ拡散していくこと。日本人の手が届かないエリアにまで、日本風のアニメを作ってくれるローカルスターが生まれれば、さらに大きなチャンスを日本が掴めるはずです」

 今後の日本のアニメ産業に関する平澤氏の考察があり、特別講義「海外原作の映像化は、ヒットコンテンツの鍵となるか」は終了した。