CTV広告が抱える課題

セルビー健三氏(モデレーター):Ken氏は、現在GumGumにてCTV(コネクテッドTV)領域におけるリッチメディア広告サービスの開発を牽引されていますが、このようなプロダクトを開発しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

GumGum CTO Ken Weiner氏:数年前、家族と自宅で映画を見ようとした際の出来事がきっかけです。Z世代の息子が2人いるのですが、彼らが観たい映画は一般的なストリーミング・サービスでは配信されておらず、CTVで探したところ、Pluto TV(※注:米国の無料ストリーミング動画配信サービス)というプラットフォームに辿り着きました。

*GumGum CTO Ken Weiner氏

PlutoTVは、いわゆる「FAST(Free Ad-supported Streaming TV/無料広告型ストリーミングテレビ)」と呼ばれるプラットフォームの一つです。FASTは、アメリカでは人気のビジネスモデルで、企業が大量のコンテンツを集め、それを広告付きで無料提供することで、視聴者は料金を支払うことなく、さまざまな番組を楽しむことができます。私たちが観たかった映画もこのプラットフォームで見つかったのですが、そこで直面したのは、子供たちが「広告に耐えられない」と強く不満を訴える様子でした。

そもそも映画は、広告を入れることを前提に作られていません。Pluto TVでは15秒や30秒といった広告を無理に作品の途中に挟むしかなかったため、会話の途中で突然広告が流れ出し、物語のテンポが乱されてしまうのです。

視聴中にこのような中断が何度も繰り返され、さらに同じ広告が何度も表示されたり、2〜3分間も広告が続いてしまうと、物語への没入感はすっかり失われてしまいます。

大人でもイライラしてしまうのに、特に最近の若い世代にとっては、なおさら我慢できるものではありませんよね。息子たちも私に「なぜこんなことを我慢しなきゃいけないのか」と必死に文句を言っていました。私はこの経験を振り返り、新世代に向けてCTVに広告を取り入れるより良い方法があるはずだと考えました。

日本におけるCTV広告の今

セルビー:電通デジタルの小野寺さんは、日本におけるCTVのデジタルプランニングは十分であるとお考えでしょうか。また、戦略を練る際にCTVを使用される理由を教えていただけますでしょうか。

小野寺(電通デジタル):不十分だと思います。これは、「ABEMA」や「TVer」等のCTV自体がコロナ禍を経て、ユーザーの利用・接触時間が増え、コンテンツも拡充してきている中で、メディア(プラットフォーム)としてまだ成長過程にあること。また、広告主側もブランドマーケティングやコマースマーケティングなど、それぞれのKPIやコストの掛け方も違いがある中で、これからもチャレンジが増えてくるメディア(プラットフォーム)だと考えているからです。

*株式会社電通デジタル Global Center・Manager 小野寺信行氏

その中でCTVの取組みとしては、「ABEMA」とは「FIFAワールドカップカタール2022」を始め、スポーツコンテンツへのスポンサード配信等でご一緒しました。10代から30代にかけては、テレビよりもデジタルメディアへの接触時間が多いという現状を踏まえ、ユーザーはこうしたメガコンテンツやスポーツコンテンツをCTVかつマルチデバイス環境で視聴する機会も増えていると思います。このようなモーメントやアテンションを捉えることで得られるブランド・エクイティは、従来のテレビが提供してきた価値をさらに進化させた新たな付加価値だと考えています。ここ (このようなファクトや付加価値) は、広告代理店の立場としてもしっかりと理解をした上で、クライアント(広告主)様のマーケティングコミュニケーションの中にどのようにはめ込んでいくのか、それによって得られる投資対効果についても提示していかねばなりません。KPIの策定も必要になります。こうしたことをクライアント(広告主)様との協業する中でディスカッションを通じ、チャレンジをしていくべき領域であると考えております。 

セルビー:「ABEMA」は非常にチャレンジ精神があるというイメージを抱いていますが、現状についてどのようにお考えですか。

綾瀬(ABEMA):「ABEMA」はサービスコンセプトとして「TV for the future(新しい未来のテレビ)」を掲げて運営しているのですが、広告に関しても同じように「新しいテレビの広告体験とは何か」を常に考えながらチャレンジしています。

*株式会社AbemaTV ビジネスディベロップメント本部 シニアプロダクトマネージャー 綾瀬龍一氏

特にCTVはユーザー規模も増加傾向にあり、マーケティングチャネルとしても非常に存在感が増してきている中で、「ABEMA」においてもCTVでの動画視聴を意識した広告体験の開発には注力しています。

その際に、まず大事にしているポイントとしては、ブランディングを目的とする広告主に対して、どのような場所であるべきかということです。

従来の地上波CM(TVCM)はまさにそういったブランド広告主が多く利用するプラットフォームですが、その背景には「リーチ」と「安全・信頼」の2つの要素が大きいと考えています。

一方で、いまのCTV広告は、主要動画サービスを合わせると数千万規模のユーザーにリーチできる場所になりつつあり、かつデジタルの強みを活かして、効率よく広告を配信したり、効果計測がしやすかったり、KPIドリブンでの運用といった効率性が魅力に捉えられていると思います。

しかし、ブランディングを目的とした広告で考えると、現在のCTVの広告プランニングにおいて、従来のTVCMの価値である「安心・安全」という部分が実際どのくらい重要視されているのかには疑問を抱いています。「ABEMA」としては、この「安全・安心」な広告体験の提供をするために様々な取り組みをしていますが、新しい広告チャレンジについてもこの観点は大事にしたいと考えています。実際にメディア選定する立場の小野寺さんから見て、いまの「ABEMA」の印象についてはどうでしょうか。

小野寺(電通デジタル):「ABEMA」の特長は、メディアとして非常に巧みにマネタイズされている点だと感じています。プロコンテンツを中心として、安心・安全な環境を提供していることはもちろん、コンテンツを活かしたコンテンツスポンサードのようなメニューや、Home Sponsored 1dayジャック、SNSとの連動性、更にはプログラマティックによる在庫買付等、”コストエフィシェンシー(効率性)とコストエフェクティブネス(費用対効果)” を両輪でバランスよくコントロール・体現されていて、まさに「新しい未来のテレビ」だと思います。さらに、レポーティングやBLS(Brand Lift Survey)調査にも対応いただき、オンオフ統合企画・メニューの開発にもご協力いただくなど、非常にチャレンジングな印象を受けています。

セルビー:現在「ABEMA」が行っている取り組みについて具体的に教えていただけますか。

綾瀬(ABEMA):不適切な動画広告体験を減らし、ブランドメッセージを届ける場所(プラットフォーム)としてどうあるべきかについてはサービス開始当初から意識してきました。ここで示す「ブランド広告に不適切な動画広告体験」について、みなさん一度は必ずユーザーとして体験したことがあると思いますし、その体験によって決してポジティブな印象を抱くことはなかったと思います。「ABEMA」では、新しい広告フォーマットを作る際には、こういった残念な体験でユーザーを置き去りにしないよう、受け入れられやすい体験フォーマットとは何かを常に考えるようにしています。

セルビー:「ABEMA」は国内OTT史上初となるスプリットスクリーン型広告「ABEMA Live Screen Ad」をリリースされています。また電通デジタルは、この新しいフォーマットにいち早くチャレンジしたということですが、お二人にこの広告商品の実現過程と得られた示唆について教えていただけますか。

小野寺(電通デジタル):「ABEMA」で生中継されたゴルフ大会で「ABEMA Live Screen Ad」を活用し、広告を配信しました。広告によってライブコンテンツが中断されないかたち (ユーザーのコンテンツ消費を疎外しないかたち)で、かつライブコンテンツに合わせた広告クリエイティブのメッセージを考慮し、効果的に訴求しました。

綾瀬(ABEMA):「ABEMA Live Screen Ad」を実施したいくつかの案件でブランド調査をした結果、広告認知やブランド認知など主要な指標でかなりのアップリフトを確認することができました。このフォーマットの特徴としては、ライブ中継に集中した状態で広告表示され、広告の「注視率」が高いというデータもあります。だからこそ高い広告効果が得られたのだと考えています。

アメリカのCTV広告トレンド

セルビー:アメリカにおいても、スプリットスクリーン型広告のような新たなフォーマットが既にいくつかリリースされていると思いますが、同様の効果はあったのでしょうか。

Ken(GumGum):私たちは、視聴体験を損なうことなく広告を表示できる「スクイーズバック広告」をはじめとした新しい広告商品をリリースしています。※注釈:画面を分割・縮小して表現される広告フォーマットには“squeezeback ads”や“split screen ads”などいくつかの呼称がある

これまでテレビ広告といえば、スポンサーシップモデルが主流で、ブランドが番組のスポンサーとなり、その番組内で広告を流す形が一般的でした。しかし、この方法だと、番組を見ているすべてのユーザーが、同時に同じ広告を視聴することになりますよね。私たちは、このような固定的なアプローチから脱却し、よりダイナミックで柔軟性のある広告市場を創造しようと考えました。つまり、ユーザー一人ひとりに合わせたパーソナライズド広告を配信できる、より「ユーザー・アドレサブル」な広告体験を目指しているのです。

また、こうした広告は、デジタル広告で一般的なリアルタイム入札を通じて、プログラマティックに購入できる仕組みが理想です。そこで私たちが開発したのが、サーバーサイド広告挿入ソリューション(SSAI)です。この技術は、従来のリニア広告(例えばプリロールやミッドロール)とは異なり、画面上にオーバーレイとして広告をシームレスに挿入することを可能にします。

SSAIを使用することで、各広告枠をDSPを通じて、リアルタイムに「プログラマティック・バイイング」できる仕組みを実現しました。これにより、CTVにおける広告配信に新たな柔軟性と効率性をもたらすと考えています。このような統合型の広告ソリューションは、ユーザーにとっても「広告を見せられている」という煩わしさを軽減できるため、好意的に受け入れられる可能性が高いです。

私たちは、この仮説を検証するため、複数のリサーチ会社と共同でユーザー調査を実施しました。その結果、オーバーレイ広告やスクイーズバック広告は、従来の広告と比べて純粋想起率が大幅に向上することが確認されたのです。特にユーザーからは、オーバーレイ広告の方が従来のインストリーム型広告よりも「4倍記憶に残りやすい」との評価が得られています。さらに、アテンションタイム、つまり「注視度」においても、通常のテレビ広告と比較して30%も高いことが確認されました。

CTVの新しい武器「スプリットスクリーン型広告」のさらなる可能性

セルビー:本セッションで紹介していただいたスプリットスクリーン型広告は、広告主にとってどんなメリットが期待できるでしょうか。また、CTV業界においてどんな進化が期待できるでしょうか。

綾瀬(ABEMA):広告主にどのような価値を提供していけるかという点では、特にZ世代などの若年層を中心としたCTV視聴者に対して受容性の高い広告体験を提供することで、結果的にブランドメッセージが伝えやすい場を提供していける点にあると思います。

従来のテレビCMに慣れてきた世代ではなく、デジタルネイティブ世代が増えてきた中で、従来型の視聴を遮るインストリーム型広告に対する嫌悪感や、ネガティブな印象が増してきているデータもあります。

そのような環境の中で引き続きブランドのメッセージをユーザーに届けていくためには、受容性の高い新しい広告体験が必要になってくると思うので、「ABEMA」としては「ABEMA Live Screen Ad」などを活用してもらい、さらにアップデートをしながら、よりブランド広告にとってな価値のある場所を作っていきたいと考えています。

日本におけるGumGumとABEMAの新しい取り組み

セルビー:最後に、本日の重大発表として、ABEMAとGumGumが共同でコンテクスチュアルオーバーレイ広告のPoCを実施予定とのことですが、このプロジェクトに対する意気込みをお聞かせください。

Ken(GumGum):日本の大手ブランド広告主や代理店、そして日本でトップクラスのプレミアムストリーミングサービスである「ABEMA」と協力し、今日ご紹介した先進的なフォーマットを日本市場で展開できることを大変楽しみにしています。

特に、コンテキストターゲティングは視聴者と広告を最適にマッチングさせる上で非常に重要な役割を果たします。ウェブ広告では、テキストをもとにコンテンツの意味を解析するのが主流ですが、動画においては、映像、音声、登場人物の表情、さらにはシーンごとの感情の変化まで理解する必要があります。日本市場では特に、お笑いやバラエティといった独自のコンテンツ形式が多く存在し、それぞれの場面における微妙なニュアンスを捉えることが不可欠です。

GumGumでは、日本特有のこれらの要素をAIモデルに組み込み、シーンごとの雰囲気や感情の変化を深く解析できる精度の高い文脈理解技術を活用することで、日本市場でも「視聴体験を損なわず、むしろ楽しさを増幅させる広告体験」を提供したいと考えています。視聴者にとっては自然な形で広告を受け入れやすくなるため、結果として広告主にとっても高いエンゲージメントを実現できると期待しています。

綾瀬(ABEMA):いま、まさにGumGumと一緒にコンテクスチュアルオーバーレイ広告のPoC実施に向けて、いくつかの広告主と話をしているところです。Kenが説明したようなリアルタイムに解析をしながら、広告買付をしてさらにSSAIによってシームレスな広告挿入をするという一連の技術連携にはまだ至っていないですが、まずは広告体験としての可能性を確認するために、より簡素な方法で、シーンに適した製品をオーバーレイ広告で表示するというPoCにチャレンジする予定です。

将来的には、数千・数万の番組コンテンツに対して、さらにシーン単位で好きなコンテキストを選択し、広告主が買い付けられるような世界観になるととても素晴らしいと考えています。

Ken Weiner氏
GumGum

Chief Technology Officer 
CTOとして参画し、エンジニアリングおよびプロダクトチームをリード。The Mindset Platform™の開発を主導し、コンテクスチュアル、クリエイティブ、アテンション技術を統合した先進的な広告プラットフォームを構築。

小野寺 信行氏
株式会社電通デジタル

Dentsu Digital Global Center/Manager
Dentsu Innovation Initiative Connect
2019年、電通デジタルに参画。参画後から一貫してグローバルアカウントマネジメントに携わる。現在は、新設組織の「Dentsu Digital Global Center」(DDGC) にて、マネージャーとしてチームを率いながら、Dentsu Inovation InitiativeのメンバーとしてグローバルプラットフォームのR&Dを推進中。

綾瀬 龍一氏
株式会社AbemaTV

Business Development H.Q./Senior Product Manager
2009年、サイバーエージェントに入社。メディア事業「アメーバブログ」の広告営業を経て、プログラマティック広告マネタイズ責任者、ディスプレイ広告/動画広告のプロダクトマネージャーを担当。2019年より新しい未来のテレビ「ABEMA」の動画広告のプロダクトマネージャーを務める。

「ABEMA」はテレビのイノベーションを目指し"新しい未来のテレビ"として展開する動画配信事業。

ニュースや恋愛番組、アニメ、スポーツなど多彩なジャンルの約25チャンネルを24時間365日放送。CM配信から企画まで、プロモーションの目的に応じて多様な広告メニューを展開しています。

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