退職を余儀なくされる当事者、対応に悩む現場…日本社会は「発達障害グレーゾーン」の理解促進を
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 自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、学習症(LD)など、「発達障害」の傾向があるものの、「発達障害」とは診断されない、いわゆる「グレーゾーン」とカテゴライズされてしまう人たちがいる。

・【映像】発達障害の"グレーゾーン"当事者の苦悩

 自身も発達障害の特性があるというハタイクリニック院長の西脇俊二医師(精神科)は「ASD、ADHDなどには診断基準があるので、そこに当てはまらなければ“該当しませんよ”ということになる。正式な診断名ではないものの、それによってかなりの人たちが“グレーゾーン”として診断から抜け落ちてしまうことになる」と説明する。

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 当事者たちを取材してきたフリーライターの姫野桂氏は「“発達障害”という診断が下されないことで、自分の怠慢、努力不足なんじゃないかと悩んでしまう人も多いようだ。グレーゾーンというものがあるというのを知らない人も多く、相談しづらかったり、理解してもらえなかったりすることもある」と指摘する。

 こうしたことから、職場でも“仕事が出来ない人”というレッテルを貼られたまま、退職を余儀なくされるケースもあるという。

■「サポートがないので不安」

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 「前々から気になっていることがあり、心療内科に行った。発達障害のうち、ADHDとASDの"傾向がある"と言われた。いわゆる"グレーゾーン"と言われるものかなと思っている」。

 幼い頃から“自分はどこか人と違う”と感じることがあったという、がりさん(23、仮名)。「太っている子に“太ってるね~”とか、思ったことをそのまま言ってしまったためにトラブルになることがあった。ちょっと目に入ったものが気になってしまって、それをどうにかしないと、次に進めないということもあった」。

4月からは新社会人として働き始めたが、電話営業でのコミュニケーションの難しさからクレームに繋がることも多く、わずか3カ月で退職を余儀なくされた。そこで心療内科を受診した結果が、発達障害のうち、対人関係が苦手で強いこだわりがある「自閉スペクトラム症(ASD)」と、注意力が散漫で、好きなこと以外は集中力がないなどの「注意欠如・多動症(ADHD)」の“傾向がある”ということだったのだ。「発達障害だと診断されれば様々なサポートもあると思うが、グレーゾーンには特に何もない。また問題が生じた時にどうすれば、という不安がある」。

■「“メモを取るな”と言われミスを連発」

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 「人の話を聞いて頭の中でまとめ、自分なりに考えをアウトプットするということが難しい。簡単な短文だったらすぐに覚えられるが、長くなればなるほど難しい」。

 山田さん(26、仮名)も、グレーゾーンの一人だ。やはり小学生時代から、周囲の人たちとは何かが違うという思いを漠然と抱いてきたが、親や教員などに相談することもなく過ごしてきたという。4年前に大学を卒業、2年前に心療内科を受診したところ、「発達障害の傾向がある」と指摘された。

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 職に就くもうまく仕事がこなせず職を転々。ある職場では、言われたことをすぐに忘れてしまうためメモを取ろうとするも禁じられ、ミスを連発。退職に追い込まれた。「発達障害だと診断されていれば、理解があって面倒見の良い会社で職を得られたかもしれないが、グレーゾーンは有利に働くこともないと思い、ずっと黙ってきた。発達障害とは認められず、周りからも理解されないという状況はても苦しい」。

 今年5月からは、Uber Eatsの配達員をしながら就職活動を続ける。「それまでの職場に比べて人との関わりが少ないし、上司や同僚からの指示を聞かなくても済むのが気楽だ。今後は何にかしら自己表現ができる、創作系の仕事に就ければと考えている。やはり“メモなんかとるな”と言わず、しっかり教えていただける環境と、なにより発達障害、発達障害グレーゾーンという人間がいることを理解してほしい」。

■医師も悩む「診断」の難しさ

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 タレントの池澤あやかは「私もADHDの傾向があり処方された薬を飲んでいるが、病院によって診断に差が出るんじゃないかなと感じている」と話す。実際、グレーゾーンについては、診断する医師の側は現状に課題も感じているようだ。

 ランディック日本橋クリニックの院長・林寧哲医師(精神科)は「発達障害だと診断するのはちょっと冒険かなというような、非常に微妙な方もいるので、迷うところはある」と明かす。

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 現在、発達障害の診断にはアメリカ精神医学会の精神障害の診断と統計マニュアル「DSM-5」、およびWHOが定める総合医学全般の国際基準「ICD-10」が用いられている。

 前出の西脇医師は「それぞれの改訂の時期が違うので内容にずれもある。また、これらの診断基準に医師が当てはめる際に曖昧さが出てしまう。加えて、日本には発達障害に詳しい医師が少ないことも問題だと思う。そもそも自閉症スペクトラム障害という言い方自体、連続体、つまりグレースケールで濃さに違いがあるということだ。以前、広汎性発達障害という言葉もあったが、これも自閉症かどうか曖昧な人や支援が必要な人のためにできた言葉だった」と話す。

■サポートによって適職が見つかる可能性も

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一方、当事者の就労移行支援事業を手掛ける株式会社Kaienによれば、ASDの人にはルールやマニュアルがしっかりしている経理・財務・法務・情報管理や、専門分野の知識を活かせる職場、ADHDの人には自分の興味を発信できる職種や専門分野に特化できる職種などに適性があるという。

 また、西脇氏は自閉スペクトラム症の特性の一つ、興味の限局性、いわゆる“こだわり”について「“かなり変わった人”ということになってしまいがちだが、周りの人がサポートしてあげれば、才能につながりやすい面もある。僕が以前デンマークで会った少年は、眼鏡にこだわりがあり、高校生で本を出版、学会にも出席する権威になっていた。サポートによって、こだわりがエネルギーとなり、良い方向にいく可能性もある」と話した。

■難しい職場の対応

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 ドワンゴ社長で慶應義塾大学特別招聘教授の夏野剛氏は「例えば上司が“君、発達障害なんじゃないの?”と指摘することは、人によってはハラスメントになってしまう可能性があるので絶対にできない。企業側とすれば、あくまでも自己申告してもらわなければ対応のしようがないというのが現実ではないか。また、“グレーゾーンだ”ということになれば、“この仕事は無理かもしれない”と判断されてチャンスを失ったり、評価に先入観が入ってしまったりことにも繋がってしまう。非常に難しい問題だ」と指摘。

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 依存症の問題に取り組む元経産官僚の宇佐美典也氏は「自分では気づけなかったとしたら、周りからの指摘が必要になる。“依存症なんじゃないの”と指摘することがパワハラにつながるという意見もあるが、体調が悪そうな人に“風邪ひいてるんじゃない?病院行ってこいよ”というような感覚にならなければ、指摘ができなくなってしまう。企業には障害者の雇用義務もあるので、発達障害と診断されれば就職しやすくなるという利点もある。ただ、そのために必要な産業医や現場の救済の仕組みが、日本ではまだうまく機能していない」とコメント。

■乙武氏「“発達障害っぽい”が失礼だと思われない社会に」

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 作家の乙武洋匡氏は「以前は“障害という診断は受けたくない”、“養護学校には行かせたくない”と考える親御さんも非常に多かった。しかし障害者の法定雇用率が定められてからは、“グレーソーンであるならば特別支援学校に通えた方がいい”と考える親御さんも増えてきている。問題は、発達障害に対する差別意識があるということだと思う。例えば例えば他人に“A型っぽいですよね”と言われても、ほとんどの人は失礼だとは思わないだろう。しかし、“発達障害っぽいよね”というのは“失礼だよ”とか“ハラスメントになるよ”となってしまう。発達障害がそのように捉えられていることこそ問題ではないか」と訴えた。

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 西脇医師は「欧米では1960年代から自閉症のための小中高校がある。そこで社会に適応するための教育を行ったり、得意なことを伸ばす教育を行ったりしている。そういう学校が日本にはないという現状もある」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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