安倍前総理は今の自民党に危機感も?「本気で高市氏を推すのは、派閥に戻ってきた時だ。今の本命は別だ」元産経新聞政治部長・石橋文登氏
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 来週17日の告示日が迫る自民党総裁選。岸田文雄前政調会長に続き、高市早苗前総務大臣がきのう出馬を正式表明。「日本経済強靭化計画、いわゆる“サナエノミクス”の3本の矢は、金融緩和、緊急時の機動的な財政出動、そして大胆な危機管理投資・成長投資だ」として、「アベノミクス」をバージョンアップさせた経済政策などを訴えた。

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 安倍前総理をよく知る、元産経新聞政治部長のジャーナリスト・石橋文登氏は「安倍路線の継承をあそこまで打ち出すと、それは安倍さんも“頑張れよ”と言って支持をするのは当然といえば当然だ」としつつも、「勝たせるために本気で動くことはないのではないか」との見方を示す。

 「もともと岸田さんの宏池会は自民党の中でも比較的リベラルな派閥だし、河野さんがいる麻生派だって、もともとは宏池会なので、麻生さんだけがググッと右を向いているものの、あとの人たちはリベラル。そして石破さんは“反安倍”の頭目みたいなものだ。

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 もちろん最低賃金の引き上げ、働き方改革、成長戦略など、安倍さんがやってきた経済政策というのは非常にリベラルなものだった。ガチガチの保守路線では絶対に経済は成長しないということが分かっていたし、自民党に欠けている、健全で良識的な民間企業の労働者層、いわば旧民社党系と手を組みたいという思いがずっとあったからだ。その意味では、他の候補とも実はそんなには変わらない。それでも、このままでは自民党を推しているコアな保守層の受け皿がなくなってしまうという考えもあった。産経新聞の読者の皆さんは高市さんを好むと思うし、もし出てこなければ、“やはり自民党は総リベラルになったのか”ということになってしまっていただろう。

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 そこで党員票のバランスを取ろうと、先週の段階でも推薦人が集まっていない状態だった高市さんを一気に激励し、下支えをしたということだ。これがいわゆる“支持表明”と言われている部分の実態だ。ここから先、安倍さんが高市さんを勝たせるために先頭を切って動き出すかというと、それは“はてなマーク”というよりも、そのようなことはしないのではないか」。

 その上で石橋氏は、安倍前総理の“本命”は岸田前政調会長だと予想する。

 「高市さんは閣僚経験もあり、政調会長までやった人ではあるが、総理として、どんなスタッフで、どうこの国をどう動かしていくのか。孤高の人で群れないので、仲間がいない。だからさっぱり分からない。本当にこの人は準備していたのだろうかとさえ思う。仮に高市さんが負けたとしても安倍さんの求心力低下にはつながらないが、本気で推して議員票が50票くらいしか集まらないとなると“何だよ、安倍さんは力がないじゃん”となってしまう。

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 安倍さんは総理を7、8年やって、自分が思っていることの10のうち3つくらいしかできなかったのではないか。それが現実だが、それでも一つずつ動かすのが政治の力だ。その意味では河野さんでは危なっかしい。岸田さんはまあまあやるだろうけど、頼りない。高市さんはハテナマークが多い。 靖国神社の参拝は政策ではないが、保守派が喜ぶことを言っても実現できなかったらなんの意味もない。そういうことを考えているのだろう。

 安倍さんの戦略は、常に右側の岩盤の3割をガッチリ固める。左の1割が何を言おうと、言われれば言われるほどその3割が固まる。そういう論理で動く人だ。左にウイングを伸ばすと岩盤が崩れてしまうという矛盾を自民党はずっと抱えているし、実際、それで6回の国政選挙に勝ってきた。それでも自分の内閣で5年間も外務大臣を務め、政調会長として党の政策の取りまとめも任せた岸田さんだ。何となく歯切れの悪い人ではあるが、誠実さはものすごく買っている」。

■「高市さんを勝たせようと動き出すのは、安倍さんが派閥に帰ってきたときだ」

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 一方、週内にも出馬表明するとみられている河野太郎行政改革担当相も安倍前総理と会談、出馬の意向を伝えたとされる。河野氏は「それぞれいろいろな方にお目にかかっているが、会話の中身は差し控えたい」と述べているが、高市氏支援を打ち出している安倍前総理との会談には、どのような意図があるのだろうか。

 石橋氏は「岸田さん、高市さん、そして河野さんは安倍政権で主要閣僚を務めているし、特に岸田さんと河野さんは外務大臣をやった。つまり安倍さんが最も大事にしている外交安全保障の路線では実は大差ないということだ。そんな中で、なぜ安倍さんが河野さんに不信感を抱いているかといえば、皇統の問題と、原発の問題があるからだ」と話す。

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 「河野さんが総理大臣になったら、皇統についてはいわゆる“男系維持”という路線で動いているところをひっくり返されてしまうのではないか、そして原発についても、小泉進次郎さんと一緒になって“全ての原発を止める”などと言い出しかねない。そんなことをしたらアベノミクスも日本経済もふっ飛んでしまうということだ。河野さんの方もその疑念に気づき、安倍さんに近い人に接触しては“誤解がある、皇統の話は無理して動かさない、原発の話についても必要なのは分かっているから急には止めない、決して私は無茶なことはしないから、支持しろとは言わないが理解してほしい”と釈明して回っている状況だ。

 そして、“闇将軍”とまでは言わないが、今の自民党内で一声掛けたら何十人と動かせるような力を持つ実力者は安倍、麻生、菅の3人だ。彼らが考える総裁候補の優先順位を考えると、さきほども言った通り、安倍さんは高市さん、岸田さん、河野さん。麻生さんは、岸田さん、河野さん、高市さん。菅さんは、河野さん一推しだ。いずれも石破さんはダメだということで一致しているので、石破さんと連携すれば彼らを敵に回してしまう。それは避けたいから、石破さん側から秋波を送られても(河野さんは)会おうともしない。

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 一方で、自分が政権を取ったら安倍さんの協力は不可欠だし、逆に言えば、もう取ったつもりになっているのではないか。実際、明らかに頭一つ二つ出ているし、二階さんも実力者ではあるが、二階派としては勝ち馬に乗ろうと動き出しているので、そこに力を借りにいく必要もない。むしろ河野さんは頭を下げにいくとマイナスが大きいと思っているのではないか」。

 こうした状況を踏まえ、29日に行われる開票の行方について石橋氏は「基本的には岸田さん、高市さん、河野さんの3人に絞られるだろう。河野さんが過半数を取れず、決選投票になったら、勝ちそうな方に議員票を束ねて動く可能性がある。岸田さんが勝ちそうだったら、岸田さんに乗せるという動きが出る可能性がある」と分析した。

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 「実力者として3人の名前を挙げたが、今は党内の派閥が機能していない。菅さんを降ろしたのも、総裁選と衆院選がくっついてしまっているために、このままでは勝てないという若手の動きがあったからだし、派閥で誰も推してはいない河野さんがリードしているのも、4割強いる衆議院議員の3回生以下が河野さんだったら勝てると踏んで流れているからだ。

 特に若手の多い麻生派(志公会)の中では、みんな河野さん。“うちの派閥から出ているのになんで止めるの?”となっている。一方で、河野さんは非常に癖のある性格なので、甘利明さんなど、上の世代は岸田さん。麻生さんは派閥内を制御できず、動けなくなっているのが現状だ。だから派閥の動きとして注目しないといけないのは、決選投票になるかどうかだろう。

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 細田派(清和政策研究会、清和研)についても、会長の細田さんは“別荘の管理人”みたいな状態でオーナーは安倍さんのような感じだが、派閥単位でも100人近くいるし、それ以外にかなりの数の“安倍別働隊”みたいなのがいる。それでも安倍さんに“推せ”といわれても、そこまで動かないのは、やはり安倍さんも高市さんも、清和研を出てしまっているからだ。その意味では、本当に安倍さんが高市さんを勝たせよう、河野さんを潰そうと動き出すのは、安倍さんが派閥に帰ってきたときだろう」。

■「このままでは、とてもじゃないけど自民党が持たないという思いがあると思う」

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 一方、野党に目を向けると、立憲、共産、社民、れいわの4党がきのう、衆院選に向けた共通政策をまとめた。

 石橋氏は「与野党ともに国民にすごく見透かされている状態だと思うが、自民党に関しては支持がどんどん“消極的支持”になってきていて、“共産と組むような立憲民主には入れられない”ということで勝ち続けているような状況だと思う。4党の枠組みに入っていない国民民主や維新が、例えば橋下徹さんが出てくるような、何かドカンとしたものがあると、河野人気で自民党は勝てる、ということすら吹き飛んでしまう可能性がある。そのぐらい自民党というのは足腰が弱っていると見ている。

 安倍前総理も、自民党の立て直しが急務だと思っているのはないかと思う。例えば数年後、台湾海峡が非常に危険な状況になっている可能性がある。その頃に政権与党として踏みとどまっていられるかが大事なところだ。総理を辞めて自民党に戻ってみたら、あまりにもメタメタ。

 菅さんだってパーフェクトではないし、いかんところもいっぱいあったが、ものすごい失策もなかったと思う。むしろ菅さんがアメリカからワクチンを持ってこなかったら、デルタ株で一体何人の高齢者が亡くなっていたのか。その点では、正直言って菅さんが続投した方が安定して良かったのではないかとさえ思っている。にもかかわらず、自分たちが選んだ総理を降ろしてしまう。こういう状態の政党だったら、とてもじゃないけど持たないという思いがあると思う」。

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 慶應義塾大学の夏野剛・特別招聘教授は「誰が誰を支持するとか、そういうことを言ったとか、そういうのは一時的なものなのであって、国民が置かれている環境、特にコロナ禍やデジタル革命に立ち遅れている中で、どういう人が国政を預けるリーダーにふさわしいのかという議論がもう少しほしい」とマスメディアの報道の苦言を呈する。

 「日本は過去25年間の政策があまりうまくいっていない。成長率で見ても、日本の成長率は4~5%というのに対し、アメリカは165%だ。コロナ禍で色々なことが起きたのを奇貨として、今まで通りでいいのか、それとも違う方向でいくのかみたいな話になっていいと思うが、そういう議論にもならない。目先の選挙を勝つためのウケ狙いのことがいっぱい並んでいるような感じが与野党ともにある。

 そして僕もそうだったが(笑)、そもそも論でも具体論でも、過激なことを言うとものすごく炎上してしまったり、非難されてしまったりする風潮があると感じている。だからお互いに遠慮して、フワッとした感じで政策論が語られているのではないか」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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