香港デモが米中貿易戦争の”最前線”に…台湾独立を後押ししたいトランプ大統領の思惑も?
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 逃亡犯条例改正をめぐるデモや衝突で混乱が続く香港。2014年の香港民主化デモ“雨傘運動”のリーダーとしても知られている黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏と、"民主化運動の女神"とも呼ばれる周庭(アグネス・チョウ)氏が逮捕から一転、即日保釈された。

 2人は記者たちに「私は6月21日の無許可の集会に参加した容疑で逮捕された。はっきりと分かったのは、中国政府および香港政府は恐怖を広めて香港市民に今後、社会運動や民主化運動に参加させないよう脅かしている」「香港民主化のために懸命に戦う香港市民を応援してほしい」(アグネス氏)、「僕とアグネスはそこまで厳しく卑劣な扱いはされておらず、逮捕者の中で幸運だと思う」「緊急措置として軍を派遣しても解決にならない。私たちは逮捕されようとも訴追されようとも、戦い続ける」(ジョシュア氏)とコメントした。

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 日本語も堪能で、6月に来日した際には活動への支持を訴えたアグネス氏は、20日に行われたテレビ朝日の取材に「今すごく思っているのは、普通の200万人のデモとか穏健な方法だけではなく、急進的なデモも必要と思う。市民の支持をとれることもすごく重要だと思います。でもデモだけじゃ政府は何もプレッシャーを感じられない」とも語っていた。

 香港の対岸に位置する中国本土の深センに武装警察が集結。暴動鎮圧訓練を行っていることに対しては、怒りや不満に加え、不安さえ抱くようになったという。「私たちのように知名度がある人たちだけでなく、参加者みんなのプレッシャーが半端ない。仲間が自殺したこともあったし、政府側が民意を無視したまま色んな暴力行為をすることも、無力感がすごくありました。100万人が出て行っても、200万人が出て行っても、先週も170万人が出て行っても、政府も全然聞こえないふりする」。

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 一方、デモの主催者団体は、31日に予定されていた抗議行動を警察が認めなかったため、中止を発表している。30日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、香港デモと、圧力を強める当局の思惑について専門家に話を聞いた。

■「アグネス氏らが拘束されたとしても、意志を継ぐ人が必ず出てくる」

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 6月に香港のデモを取材した高千穂大学の五野井郁夫教授(政治学)は香港のデモについて、「目的も統一されていて、ネット上で情報、映像等を共有し、ある種"スイミー"のように、魚の群れがきれいに形を作るように行動している。もちろんジョシュア・ウォン氏やアグネス・チョウ氏のようにスイミーの"目"になるシンボルはいるが、たとえ彼らが拘束されたとしても、その意志を継ぐ人が必ず出てくる。つまり、シンボルはいるがリーダーはいない。むしろ、みんながリーダーだと考えている。2003年には"50万人デモ"があり、やりきった結果、行政長官を更迭に追い込んだ。そういう成功経験もある」と話す。

 「他方、デモは長引けば当然効果が薄れていく。2014年の雨傘運動は長引く中で、さほど成果は出せなかった。それで今回は、もう少し押せば何らかの譲歩が引き出せるのではないかという意図もあると思う。それを狙って短期決戦型でやっているが、長引いてきた。これから会社や学校をボイコット、サボタージュをするということになっていくと考えられる。映像で見る限り、6月に比べて香港政府の武力介入が本格化し、ピリピリしている感じだとは思う。やはり香港政府というか、中国政府はどうにかして市民たちに暴れてほしいと思っているのだろう。デモを行っている人たちの中には過激な人たち、暴力を使っている人もほんのごく一部いるが、政府の手の人だろうと思われる人たちが"白色テロ"という形でけしかけたり、暴徒化したふりをしたり、ということが起きていると考えられる」。

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 デモを支援する勢力については「ジョージアやウクライナなど、東欧や中欧のカラー革命の際には、アメリカがグローバルな戦略の中で民主化の名のもとに権益を広げようとしたと中国政府は捉えていた。雨傘運動の時にも、全米民主主義基金(NED)というところがお金を出していたという話があった。今回、どれだけのバックボーンあるかと言われれば、2014年の失敗も踏まえて120~150くらいの団体が共同で回すという形でやっている。学生の団体、学者の団体から、職能団体まで、NGO的なものでやっている。NEDの関与はまだ確認できていない」との見方を示した。

 また、五野井氏は「2014年も、2017年に劉暁波が亡くなった時の追悼デモ、あるいは今回、香港行政長官の林鄭月娥(キャリー・ラム)が表明したときも、"我々は一国二制度をこれからも維持していきたい。そして、香港の自由というものをしっかりと確保していきたい。そのために戦っている"と言っていた。やはり逃亡犯条例のように中国政府が融通無碍に人を引張り、半年、1年と拘束できるというのは許せない。香港の法の支配、それこそイギリスから引き継いでいるコモン・ローの伝統をしっかりと守っていくということで、非常に長期的な戦いになるだろう」と話した。

■中国政府が武力を使ってしまえば"アメリカの勝ち"

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 中国問題グローバル研究所所長の遠藤誉氏は「統制の取れた平和的なデモをやっていたにもかかわらず、中国の中央テレビであるCCTVの報道によればデモが6月以来29日時点で1000人が逮捕されたと言っている。ただ、武装警察の訓練などはデモンストレーションだ。武力を使う気は無いし、使ったら中国は100%負ける。しかしプレッシャーを与えることによって、暴動的なデモを起こしてくれればテロ指定ができるし、法治を乱したということで、コアになっている人たちを捕まえ一網打尽にできる。今回、そのために2人を保釈し、泳がせている。しかし、デモ団体の方が北京政府よりも一枚上手だった」。

 その一方、「2014年の雨傘運動がなぜ成功しなかったかと言えば、NEDがバックに付いた一派とそうではない一派、そして台湾など、様々なベクトルがあって、それらが一つのところに向かわず、派閥争いまで生じてしまった。今回はそういうことをなくそうということで努力はしているが、200万人まで至るとなかなか統制は難しい。そして今回、中国政府はNEDというよりもトランプ政権そのものが裏で動いていると考えている。民主化運動のジミー・ライという人物がペンス副大統領と会っている証拠写真があると主張していて、私も見た。つまり、米中貿易戦争の最前線が、実は香港なんだという形で分析することもできるかもしれない。そうであればこそ、天安門事件の時のように市民に武力を使ってしまえば、中国は全ての西側諸国から見放されてしまうので、それを恐れている。逆にアメリカは"武力はいけない"と言ってはいても、実はやってほしい。そうなれば中国側についているアフリカ諸国やらヨーロッパ諸国がアメリカ側についてくれるからだ」。

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 香港のデモを"反暴力集会"として連日伝え続けているCCTVの報道には、"命は短い"ということを表す「秋の蝉の鳴き声、夕暮れに沈む陽」という、宋代の詩を引用した意味深な一文や、"混乱は法と正義の審判によって終わるだろう"という言葉もある。ただ、講談社特別編集委員の近藤大介氏は、来月1日に建国70周年の記念式典があるため、それまでは中国政府は鎮圧に動かないのではないかとの見方を示している。

 遠藤氏は「次の80周年記念が10年後だと考えると、習近平主席としては自分の力を見せられる最後の機会だと位置付けられる。中華人民共和国が建国されてから最大の軍事力をみせる軍事パレードを行うことを宣言しているし、香港を放っておいた状況でやるとは考えにくい。本来は31日をターニングポイントにして勝負するつもりだったが、デモの主催者側が非常に賢明な判断をしたので、戒厳令のような形でデモを禁止し続け、我慢できずに反発してきた時にバッとやろうと考えているのではないかと思う」との見方を示し、「見落としてはならないのは、来年が台湾の総統選挙だということ。中国としては絶対に台湾独立派に政権を取らせたくないし、習主席は台湾にも一国二制度を実行すると言っている。それに対して香港市民は一国二制度がどれくらいひどいものかということを見せることによって、台湾独立派がんばれよ、と言いたい。そこにアメリカ、トランプ大統領が絡んでくるということだ」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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