今回のライブに対して野田洋次郎(Vocal/Guitar/Piano)は、「いつもとはガラリと形も空気も違うライブになると思いますが、オンラインで楽しんでもらえる最大限の挑戦をしようと思っています。ライブを思いきり楽しんでもらうのと共に、RADWIMPSと一緒にこれまで歩んできてくれたその歴史を、一緒に目一杯祝いたいと思います」とコメント。その言葉通り、彼らのキャリアを振り返ると同時に、オンラインならではの演出を含めたRADWIMPSの最新モードをいち早く体感できる貴重なステージが繰り広げられた。

「RADWIMPSへ メジャーデビュー15周年おめでとうを伝えよう!」の呼びかけに応え、ABEMAのコメント欄には開演前から「15周年おめでとうございます!」「今までも愛してたけど、これからも愛してるよ!」「昔からずっと心のバンドです、本当におめでとう」「このためにプロジェクター買っちゃった!」「ライブ会場に匹敵するバクバク!!」といった言葉がずらり。幅広い年代のファンが「RADWIMPSの15周年をお祝いしたい!」という思いと、ライブへの大きな期待を抱えて開演を待ち望んでいた。

 19時過ぎ、ついにライブがスタート。オープニング映像は、新宿、渋谷などの東京の夜景、そして、(マスクをして)都会で暮らす人々の姿。さらに「15th Anniversary Special Concert」というタイトルが映され、会場に足を運んだ観客から大きな拍手が巻き起こる。1曲目は「タユタ」(アルバム「アルトコロニーの定理」収録/2009年)。濃いブルーの光で包まれたステージにスポットが当たると、そこにはメンバーの野田洋次郎(Vocal/Guitar/Piano)、桑原彰(Guitar)、武田祐介(Bass)の姿が。繊細なギターフレーズ、神聖なイメージのメロディが鳴り響き、視聴者からは「鳥肌やば…」「美しい」というコメントが次々と寄せられる。<今 想い出が光る前に僕を見て/震えたその手だけは繋いで>という歌詞も印象的。このフレーズをコロナ禍における感情と重ねるオーディエンスも多かったのではないだろうか。

 野田の演奏によるピアノのイントロから始まったのは、映画「天気の子」のために制作された「グランドエスケープ」(アルバム「天気の子 complete version」収録/2019年)。無数の小さなライトが光を放ち、レーザーライトが空間を彩る。カメラが会場の真ん中に置かれたステージを真上から捉えると、そこにはまるで宇宙空間のような映像が。ステージの床面全体がLEDになり、映像、照明、カメラワークを含め、まさに“オンラインならでは”の演出が実現していたのだ。ハンドマイクを持った野田は、観客席に視線を送り、一体感を生み出していく。「夢に僕らで帆を張って 来るべき日のために夜を越え」のパートではメンバー全員が頭上でハンドクラップを行い、オーディエンスに手拍子を求める。真っ白いライトのなかで歌われた「僕らの恋が言う」「「行け」と言う」というラインによって、会場には早くも大きな感動が渦巻いた。

 「横浜、いけるかい?!」という野田の呼びかけ、ツインドラムによるアグレッシブなビートに導かれたのは、「ギミギミック」(アルバム「RADWIMPS 4~おかずのごはん~」収録/2006年)。野田と桑原のギターフレーズ、武田のファンク系のベースが絡み合い、客席の観客も笑顔で手を挙げ、身体を揺らし始める。メジャーデビュー翌年に発表された人気曲に対し、視聴者からも「懐かしくて泣けて来る」といったコメントが。15年のキャリアのなかで鍛えられたアンサンブルとともに初期の名曲を体感できるのも、今回のライブの醍醐味だ。

「こんばんはRADWIMPSです。15th Anniversary Special Concert、みなさんようこそおいでくださいました」「1年ちょっとぶりのライブ、今日は初めての試みばかりで。声が出せないし、エネルギーの交換が難しいかもしれないけど、僕らはいまだからこそやれるライブをやろうと。この特別な瞬間をみなさん自身も楽しんでもらえたらと思います」「配信でご覧になってくれてる方々も、会場の空気を味わいながら一緒にライブを作っていけたらと思います。最後までよろしくお願いします」

 野田の心のこもったMCの後は、今年リリースされた新曲「新世界」(「夏のせい ep」収録/2020年)。ノスタルジックな旋律とともに、2020年の空気を反映した歌詞が広がっていく。ラップ/ポエトリーリーディングを取り入れたボーカル、エレクトロニカの意匠を感じさせるサウンド、雨や水滴をモチーフにした映像が融合し、聴覚と視覚を気持ちよく刺激する。

 続く「シュプレヒコール」(シングル/2012年)では、<今日も世界のあちらこちらで/述語と主語がやりあってんだ>という歌詞がステージ床面LEDに映し出され、“生演奏によるリリックビデオ”と称すべきパフォーマンスが実現。ドラムのフレーズに合わせてレーザーが色を変え、<いよいよ三次世界戦争だ>では爆撃を想像させる映像、そして、<ほら 白と黒がやりあってんだ>ではモノクロの照明が作られるなど、音、歌詞、ビジュアルが完全にリンクしていた。野田、桑原、武田は自由に動き、全方向のオーディエンスと積極的に目を合わせ、コミュニケーションを取っている。視聴者から「会場と配信が一体になれる!!」というコメントが寄せられていたが、会場の観客、配信の視聴者の両方に強い没入感を与えるステージングは、まさに圧巻だった。

「拍手以上に楽しんでるよって人……半々くらいか。もっとがんばります。初めての配信ライブ、緊張するね」(野田)

 ライブ中盤でも、驚くような演出、エンターテインメント性に溢れたステージが続いた。野田のアカペラからはじまり、観客の手拍子、武田のベースが加わることで心地よいグルーヴが生まれた「パーフェクトベイビー」(アルバム「×と〇と罪と」収録/2013年)では、野田がなんとバランススクーターに乗って広いステージを移動し、歌いながら嬉しそうな笑顔を見せる。

「どうですか、いまのところ、みなさん楽しんでますか?」「拍手以上に楽しんでるよって人、こうやってみて(と身体を揺らす)。……半々くらいか。もっとがんばります」(野田)

 というカワイイ(?)MCを挟んで披露された「NEVER EVER ENDER」(アルバム「ANTI ANTI GENERATION」収録/2018年)では、ステージ床面全体に立体的な映像が映し出され、エレクトロ的なサウンドと重なりながら、この日いちばんの高揚感へと結びつける。客席を指さし、手拍子を要求し、「飛び跳ねろ!」と煽る野田をはじめ、メンバーのテンションもさらにアップ。エンディングでは野田がピアノの前に座り、「心のなかで歌ってください」「配信のみなさんは家で好きなように歌ってくれ」と呼びかけ、視聴者からは「ウォーーーーー」という“合唱”が数多く寄せられた。

ダンサーたちと映画「天気の子」のストーリーを想起させるステージを披露 豊かな創造性を改めて証明

 RADWIMPSのアンセムの一つである「おしゃかしゃま」(アルバム「アルトコロニーの定理」収録)では、ライブバンドとしてのポテンシャルの高さを存分に発揮。強烈なファンクネスを感じさせるリズム、エッジの効いたギターフレーズ、ヒップホップの素養を反映させたボーカルが絡み合い、観客の体の動きもさらに激しくなる。「アレンジかっこよすぎ」という視聴者コメント通り、原曲よりもアップデートされたサウンドも鮮烈。そう、彼らの音楽は観客の前で演奏することで、さらなる進化を続けているのだ。野田の指揮のもとで行われるベース、ドラム、ギターのソロ合戦も楽しい。さらに言葉遊びと官能的なフレーズが楽しい「G行為」では、吉開菜央(ダンサー、コレオグラファー、映像作家)が演出する大勢のダンサーが登場。歌詞の世界観に合わせたスリリングなパフォーマンスで、妖しい楽曲のムードをさらに際立たせる。1曲ごとに異なるイメージが生み出され、見ていてまったく飽きることがない。

 ここで映画「天気の子」の劇伴として制作された「花火大会」が聴こえてくる。ダンサーたちによるコンテンポラリーな振り付けにより、映画「天気の子」のストーリーを想起させるステージは、このバンドの豊かな音楽性を改めて証明していたと思う。この後、カメラはシックな雰囲気の部屋にいるメンバー3人を映し出す。まずは桑原が「15周年ライブ、オンラインでご覧のみなさん、会場にお越しのみなさん、ありがとうございます!」と挨拶。

「大丈夫」の歌詞にファンからは「泣きそう」と共感の声

 続いて武田が「本来、今年はいろんなところでたくさんのライブを計画していて。コロナの影響で中止になり、今、ここにいます」「ツアーで各地に届けようとしていた思いをこの2日間ですべて出し切るつもりでここに来ました」とこのライブにかける意気込みを言葉にした。

 そして「ライブでは初めてかな」(野田)という言葉とともに披露されたのはアコースティック・バージョンの「大丈夫」(アルバム「天気の子 complete version」収録)。野田はアコギ、桑原はマンドリン、武田はウッドベースを演奏。オーガニックな雰囲気の音のなかで<君を大丈夫にしたいんじゃない 君にとっての「大丈夫」になりたい>という言葉が響き渡り、オンラインの視聴からも「泣く」「泣きそう」と強いリアクションを引き出した。

 オルガンの音色から始まったのは、フォークロア的な色合いの「やどかり」(シングル「マニフェスト」収録/2010年)。ハンドマイクを持った野田は“部屋”から移動し、そのまま歩いて横浜アリーナのステージに戻る。ステージには暖かな太陽をモチーフにした映像が映され、ダンサーのエモーショナルな振り付けを伴って、朗らかな雰囲気を作り出す。手持ちのカメラによる躍動感のある映像も印象的だった。

「ネガティブな考えになってしまうのは、コロナの思うツボ」(野田)

 再びピアノの前に座った野田は、「ちょっと喋ってもいいですか?」と、ゆっくりとオーディエンスに向かって話し始めた。目まぐるしく日々の状況が変わるなか、なかなか一つの正解が見えてこない。ポジティブな言葉、ネガティブな言葉が溢れ、気持ちを真っ直ぐに持っていきることさえ難しい。そんななかでも我々ミュージシャンは、希望に目を向けて生きて生きたいと思っている。愛している日々が戻ってくることを信じて――。

「ネガティブな考えになってしまうのは、コロナの思うツボ。だったら、いましかできない表現をしようと、今、たくさん曲を作って、いろんな曲をため込んでます。みなさんも、普段ではやれないことをやってみてほしい。コロナを見返すように新しい冒険や挑戦をすることで、世の中が、世界が、ちょっとでも前に進むと思っているので」

 真摯で切実な言葉に続いたのは、「棒人間」(アルバム「人間開花」収録/2016年)。愚かで愛おしい人間に対する思いを綴ったこの曲は、RADWIMPSというバンド、そして、野田洋次郎というソングライターの奥深い表現に直結していた。ダンサーが踊る影、本物のダンサーの振り付けを組み合わせた演出も素晴らしい。

 無数のムービングライトによる空間演出が、命の儚さと尊さを描き出す歌詞と重なる「螢」(アルバム「RADWIMPS 3 ~無人島に持っていき忘れた一枚~」/2006年)の後は、「告白」(アルバム「人間開花」収録)へ。<君の未来に 僕の姿を 見るようになったのはいつからだったでしょう>と、どこまでも純粋な愛の在り方を綴ったラブソングだ。ちょうどABEMAのコメント欄では、「今日、入籍しました!」という視聴者へのお祝いの言葉が飛び交っていて、「おめでとう!」「『告白』、すごいタイミング」「好きな人が幸せでありますように」「私もこの曲、結婚式で使ったよ」「RAD好きと結婚したい」などの言葉が並んでいた。コメ欄を通し、リアルタイムで得られる視聴者同士のつながりも、配信ならではの楽しみ方だ。

 無数の小さな光が舞い降り、「君の名は。」サントラ音源がゆったりと響いた後、ライブは後半へ。切ないメロディと疾走感に溢れたバンドサウンドが一つになった「トレモロ」(アルバム「RADWIMPS 3 ~無人島に持っていき忘れた一枚~」)、野田と桑原が向き合ってギターをかき鳴らし、メロコア的なビートが炸裂する「ます。」(アルバム「RADWIMPS 4 ~おかずのごはん~」2006年)など、初期の楽曲を次々と放ち、観客の興奮をさらに引き上げる。“二人が出会った奇跡”を高らかに歌い上げたラブソング「ふたりごと」(シングル/2006年)では、「この歌でRADWIMPSめっちゃすきになった」「青春ど真ん中」というコメントが多数。幅広い年齢層のファンを持つRADWIMPSの音楽は、リスナーそれぞれの人生に寄り添い、日々を彩っている。そのことを改めて実感できるシーンだった。

コロナ禍にファンとの約束「必ず生きて、会いましょう。笑い合いましょう。大声で叫び合いましょう」

 ここで再び、野田が観客に向かって話しかけた。

「もどかしさもあるだろうけど、僕らの精一杯のライブ、この空間を楽しんでもらえてますか?」「RADのライブはみんなの声と熱気、飛沫、すべてが混ざり合って、跳ね返り合っていて、日本一、世界一のお客さんと思ってます」「声を出さなくてもみんなの近くまで届ける表現をしたいと思って、多くの人の協力のもと、この日を迎えました」「改めて、今日やって良かったと思いました。逆境だからこそ生まれるものを今年グツグツと煮込んで、それが来年以降、芽を出すと心から信じてます」「下を向きそうなこと、後ろ向きになりそうなこともあるでしょうけど、必ず生きて、笑い合いましょう。大声で叫び合いましょう」

デビュー曲「25コ目の染色体」披露にファン歓喜「いつかここのチャットにいるみんなで…」

 この日、もっとも大きな拍手が巻き起こるなか、「今日のライブ名目は、デビュー15周年。僕らのデビュー曲を最後にやります」と「25コ目の染色体」(シングル/2005年)を披露。ムービングライトが染色体の二重らせん構造を形作り、エモーショナルな旋律と愛する人に向けた強く、真っ直ぐな気持ちを込めた歌詞が広がり、ライブ本編は終了。「こんな状況でも、ラッドに出会えたから、この時代に生まれて良かった、ありがとう」「何度も辛い時期救われました。ありがとう」「いつかここのチャットにいるみんなでLIVE行って大声出す」などのコメントも心に残った。

 アンコールも見ごたえ十分。観客の拍手とスマホのライトに迎えれたメンバーは、横浜アリーナを1週。笑顔で手を振る姿からは、オーディエンスに対する温かい思いが伝わってきた。

 ステージに戻った野田は、「スペシャルゲストを呼んでいいですか。初めて一緒に演奏させてもらいます。緊張するな」とAimerを呼び込む。演奏されたのは、野田がAimerに提供した「蝶々結び」。人と人との繊細で美しい関係性を描いたバラードナンバーだ。Aimerと野田がサビのフレーズで声を重ねる瞬間は、この日だけ特別な場面だった。

 最後もライブアンセムを連発。レゲエ調のビートを取り入れた「いいんですか?」(アルバム「RADWIMPS 4 ~おかずのごはん」ではダンサーが自由に踊り、野田が「心のなかで歌ってください!」と呼びかけ、<いいんですか いいんですか>という合唱の音源が会場全体を包み込む。そして「DADA」(シングル/2011年)では再びステージに歌詞が映し出される。爆発的なバンドグルーヴと攻撃なボーカルはもちろん、会場全体の雰囲気、ステージの上からの映像、メンバーの表情を間近で捉えるカットなどをバランスよく見せるカメラワークも絶品だった。

「よくできました!」と笑顔で叫んだ野田。「また必ず、ライブで、生で会いましょう!」と語りかけ、15周年ライブの初日は幕を閉じた。

ライブ2日目、双方を楽しんだファン「昨日会場にいたけどオンラインもやばい!」

 11月23日(月・祝)に行われた2日目の公演も、前日と同じく「タユタ」からスタート。まるで雲海のようなステージのうえで野田洋次郎は、美しいファルセットを響かせ、一瞬にして会場の雰囲気をRADWIMPSの色に染め上げる。さらに「グランドエスケープ」で圧倒的な解放感を生み出した後は、初日には演奏されなかった「DARMA GRAND PRIX」(アルバム「×と〇と罪と」収録)へ。激しく打ち鳴らされるドラムに続き、ギターを鳴らしながら「さぁ今日はどちらでいこう 全部世界のせいにして/被害者ヘブンで管巻くか 加害者思想で謝罪大会」というフレーズを歌い上げる野田。そこに強靭でしなやかなバンド・ブルーヴが加わり、会場の興奮度は一気にアップ。光と影を効果的に使ったライティングも、楽曲のシリアスな雰囲気にピッタリだ。武田のスラップ・ベース、桑原の速弾きギターがぶつかり合う間奏も「カッコいい!」のひと言。コメント欄には「この曲AAGT(『ANTI ANTI GENERATION TOUR』)で聴いたとき盛り上がりハンパなかったな」「昨日会場にいたけどオンラインもやばい!」などの言葉が並んでいた。

 最初のMCでは、海外で視聴しているファンに向けて英語でも挨拶。

「僕らが一緒に音楽を共有する空間を持てたということを何よりの誇りに思うし、これをステップとして、未来に向かって、さらに前に向かう一つのきっかけにしたいと思います」「コロナでできないこと、やれないことがいっぱいあって、もどかしさでいっぱいですけど、そこで後ろばっか向いてるとコロナの思うツボで腹が立ってしょうがないから、コロナがイラっとする、むかつくくらい、今日は思う存分みんなで楽しみましょう」

 という言葉を挟み、「新世界」「シュプレヒコール」を披露。カメラワーク、映像の切り替えが前日とは違っていて、新鮮なイメージを放つ。メンバーの生き生きとした表情も印象的。緊張感に溢れた初日のステージも最高だったが、少しリラックスして、ライブという場所を楽しんでいる2日目の雰囲気も素晴らしい。

 野田がバランススクーターに乗った「パーフェクトベイビー」では、視聴者からの「かわいいw」「これ乗る練習したのかな」といったコメントが並び、客席に向けて「飛び跳ねろ!」と叫んだ「NEVER EVER ENDER」では会場の観客が楽しそうに手拍子しながらジャンプ。会場で観ているオーディエンスと、オンラインを視聴しているファンに対する“どちらも思い切り楽しんでほしい”という行き届いた配慮も心に残った。

 横浜アリーナの会場に設置された“部屋”から届けられたアコースティック・コーナーでは、「素敵なセットを作っていただいて、今回だけで取り壊してしまうのはもったいない。では、ちょっとだけ懐かしい曲を」(野田)と「お風呂あがりの」(シングル「記号として/‘I’Novel」収録/2015年)」を披露。アンプラグド的なサウンド、ノスタルジックな旋律、<愛された実感と 求められた喜びを/胸いっぱい吸い込んで眠りにつきたいんだ>という歌詞がゆったりと広がり、心地いい感動へとつながった。

「コロナ前後から、世の中がギスギスしていると感じていた。優しい人が生き続けられるような世界であってほしい」

 続く「やどかり」で約50名のダンサーとともに多幸感に満ちた空間を作り出した後、野田はこんなことを語った。

 今年予定していたワールドツアーが中心になり、人生で初めてと言えるほどの大きな失望を味わったこと。コロナ前後から、世の中がギスギスしていると感じていたこと。人々の言葉、態度、ネットの言葉を含め、人が目を背けられないような言葉や思いがはびこっていて、世界が窮屈になっていることーー。

「10年前、15年前から思っていますが、世界は優しい人がいるから成り立っていると思っていて。そんな優しい人が生き続けられるような世界であってほしいと、心から願っています。それはきっと、今を生きている僕たちが、そんな空気を、そんな雰囲気を、そんな世界を作っていけると思っています。優しい魂で溢れることを、きれいごとと言われようが、みなさんと作っていきたいです」

 そんな言葉の後に演奏された「棒人間」は、少し震えていた野田の歌声も含め、すべてのオーディエンスの心を強く揺さぶったはず。「損することが損だと思わない強さが欲しいね」「みんな負の面を持ってるって気づける曲」「自分がまず自分を一番愛そう」といったコメントからも、そのことがはっきりと伝わってきた。

 ライブ後半で演奏された「有心論」(シングル/2006年)も、2日目の公演の大きなポイント。水色のテレキャスの音色と<今まで僕がついた嘘と 今まで僕が言ったホント>というフレーズが聴こえてきた瞬間、楽曲の世界にグッと引き込まれる。さらに野田が弾くギターリフに対して手拍子が鳴り響き、サビのフレーズに入ると観客が一斉にジャンプ。「心のなかで歌ってください」(野田)という呼びかけとともに<息を止めると心があったよ そこを開くと君がいたんだよ>という合唱の音源が会場を包んだシーンは、まちがいなくこの日のハイライトの一つだった。ギターロック、ヒップホップなどを混ぜ合わせたミクスチャーサウンド、“君と僕”の小さいな関係を普遍的な物語に導く歌詞。RADWIMPSの初期の名曲であり、その本質をダイレクトに示す「有心論」が披露されたことは、15周年ライブの大きな意義だったと思う。コメント欄もさらに沸き立ち、「これ聞いてファンになりました」「愛されたい、愛したい。」といった言葉が並んでいた。

ゲストやスタッフを紹介。感謝の拍手が生んだ一体感

 ライブ終盤のMCでは、まず、サポートドラムの繪野匡史、森瑞希を紹介。さらにライブ制作のスタッフ、総合監督をつとめた映像ディレクターの谷聰志、ダンサーを演出した吉開菜央を紹介し、感謝の気持ちを込めた拍手が送られた。

「いつかもっと距離が近くなって、大きい声が出せるようになっても、こういう不思議な、いつもとは違うようなライブは観てみたいと思いますか?」「今日はとてもいいヒントと大きなお土産をもらった気がします」と今回のライブに対する充実感を口にした野田。「ライブではめったにやらない曲を最後に」と紹介された本編ラストの曲は、「バグッバイ」(アルバム「RADWIMPS 4 ~おかずのごはん~」収録)。繊細なアンサンブルから始まり、徐々にスケール感を増していくこの曲は、野田のコメント通り、ライブではあまり演奏されないレアな楽曲だ。大きな歯車をモチーフにした映像、壮大な世界観を描き出すメロディ、そして、生きること、夢見ること、愛することの本質を貫く歌詞。RADWIMPSのライブ表現の高みを感じさせる、本当に素晴らしいステージだった。

 ステージ床面のLEDにこれまでのRADWIMPSの写真が映し出され、オーディエンスの手拍子が鳴り響くなか、メンバーが再び登場。笑顔で手を振りながらステージへ向かう。

 アンコールの1曲目は、スペシャルゲストとして呼び込まれたハナレグミ(永積タカシ)とのコラボによる「おあいこ」。野田が書き下ろしたバラードナンバーを永積は、オーガニックな手触りと豊かな感情表現を備えたボーカルで描き出した。「昨日のAimerもそうなんですけど、“こんな声だったら、こんなことを歌いたいな”という思いが、人に曲を提供することで実現して。それが現実になって、そこで躍動することがこの上なく嬉しくて」という野田の言葉も印象的だった。

「楽しくてしょうがないから、もうちょっとやりますか!」「いつもだったら俺の声がかき消されるほど歌ってもらってるこの曲ですが、今日は心のなかで思い切り叫んで、次へのエネルギーにしていきましょう!」という言葉に導かれたのは「いいんですか?」。観客の手拍子に合わせて野田が歌い、レゲエ系のビートとともに“こんなに好きになっていいんですか?”という思いを込めたリリックが広がり、ほっこりした感情へと結びつく。桑原、武田も満面の笑顔。ライブという場所を全身で楽しんでいることが伝わってきた。

「やっぱりライブは楽しい。ミュージシャンがやるべきこと、“ミュージシャンってこうだよな”という当たり前のことを気づかされた――」  

 ここで野田は再び、観客と視聴者に向かって語り掛けた。

「やっぱりライブは楽しいな……。僕らミュージシャンは曲を作るのとライブをするのと、他に仕事がないんですよね。人生の半分が削ぎ取られたような気持ちで、この9か月間くらい、過ごしていました。どんどん世界も時代も変わっていくけど、根本の根っこの部分、ミュージシャンがやるべきこと、“ミュージシャンってこうだよな”という当たり前のことを気づかされて、それはそれでよかったなと思っています」

「僕らはたぶん、そのときどきの時代に反応しながら、人間に反応しながら、空気に反応しながら、これからもきっと音楽を作っていくと思います。たまには耳に痛いことを言うかもしれないし、でも、優しい心を持って、この世界にまだない、新しいメッセージを残したいと思っています。明日から16年目に向かうんですけども、きっといろんな世代の人たちがRADを通ってきてくれていて、それが嬉しくてしょうなくて。良かったらこの先も、RADWIMPSというものをよろしくお願いします」

 美しさと神聖さを同時に感じさせるピアノのフレーズが広がり、星の結晶のような小さいライトが眩い光を放つなかで披露されたのは、「スパークル」(アルバム「人間開花」収録/2016年)。時空を超えた愛を描いた歌詞、震えるような繊細さと大らかなスケールを共存させたメロディ。RADWIMPSの純粋性が込められたこの曲に対し、視聴者からは「美しすぎる」「最高のご褒美」「本当にすべてが綺麗」というコメントが数多く寄せられた。

 さらに「15周年、このような形で迎えることができて本当に嬉しいです」(桑原)、「15周年の記念の日、このような素晴らしいライブが出来たことを誇りに思います」(武田)、「次に会うときまで、必ず生きて、生き抜いて。どんなしんどいことがあるかもしれないけど、必ず再開して、でっかい声で叫び合いましょう」(野田)というメッセージとともにラストの「DADA」へ。何度も「飛び跳ねろ!」と叫び、観客も楽しそうに盛り上がりまくる。まるでライブハウスのような一体感は、「15th Anniversary Special Concert」の大団円にふさわしい光景だった。

 全方向の観客に丁寧に挨拶し、メンバーがステージを去った後、「夢番地」をSEにしてエンドロールが映し出られる。さらに「離ればなれの僕たちは、新しいセカイで再開することにした」という言葉に続き、まるでSF映画のような映像とともに「RADWIMPS ROLE-PLYAING MUSIC SHISEKAI」の文字が。次の展開への予兆を示唆しながら、ライブはエンディングを迎えた。

 デビュー15周年の集大成であると同時に、未来のビジョンをしっかりと見せてくれた「15th Anniversary Special Concert」。RADWIMPSの壮大にして繊細な音楽世界をたっぷりと堪能できる、まさに記念碑的な2日間だった。

■RADWIMPS 1日目セットリスト

タユタ

グランドエスケープ

ギミギミック

新世界

シュプレヒコール

パーフェクトベイビー

NEVER EVER ENDER

おしゃかしゃま

G行為

(花火大会)

大丈夫

やどかり

棒人間

告白

トレモロ

ます。

ふたりごと

25コ目の染色体

(アンコール)

蝶々結び(ゲスト/Aimer)

いいんですか?

DADA

■RADWIMPS 2日目 セットリスト

タユタ

グランドエスケープ

DARMA GRAND PRIX

新世界

シュプレヒコール

パーフェクトベイビー

NEVER EVER ENDER

おしゃかしゃま

G行為

(花火大会)

お風呂あがりの

やどかり

棒人間

告白

トレモロ

有心論

ます。

バグッバイ

(アンコール)

あおいこ(ゲスト/ハナレグミ)

いいんですか?

スパークル

DADA