HYDE、豊かな表現力と包容力で示した独自の世界観『ANTI WIRE』にファン感動「強くて優しくて美しかった……」

 全席座席指定のアコースティック・スタイルで行われた『HYDE LIVE 2020-2021 ANTI WIRE』。全公演、各自治体が設けた新型コロナウィルス感染防止のガイドラインを遵守し、出演者、スタッフに対しての定期的なPCR検査を実施するなど、考えられるすべての対策のもとで開催された。根底にあるのは「どんな状況であっても、オーディエンスと会える機会を失いたくない」というHYDEの強い決意だろう。

 配信のスタートは18時。開演前のBGMとしてユーリズミックス、カルチャークラブ、デペッシュ・モードなどの80年代のヒット曲が流れると「このSE企画、最高」「曲名教えて」と反応するファンのコメントが。コロナ禍中に開催しているツアーの生配信、しかも2021年最初のライヴ配信とあって、ファンの期待値も開演前からグングン上昇。「レントゲン(HYDEの1stアルバム『ROENTGEN』/2002年)の曲やるかな」「爆音で叫ぶし踊る!!」「HYDE愛を叫びましょう!」といった声が数多く並んだ。また、「手越くんファンです!昨日はありがとうございました」「手越くんファンの方も!一緒に楽しみましょう!」というやり取りも。このライヴの前日(2021年1月29日)ABEMAで生配信されたHYDEの特番に手越祐也が出演し、初対談が実現したことで、多くの手越ファンがこの配信ライヴを視聴していたようだ。さらに「Same here! Hyde love from around the world!」「6:66 start wait.」など海外からのコメントも。ワールドワイドな支持を得ているHYDEだけに、この日のライヴは世界中の注目を集めた。

 19時になった瞬間、画面には東京国際フォーラムの会場内の様子が映し出された。ステージに掛けられた幕には“6:60”の文字。開演時間の“6:66”(19時06分)に向けて、静かに時が刻まれる。ホラーテイストなBGMに切り替わると、これまでの20年間を振り返るような過去のライヴ映像が逆再生で投影され、オーディエンスの興奮も少しずつ上がっていく。「この時間至福ですよね」「泣きそう」「配信本当にありがとうございます」「会場にいる気分 うれしいですね」「HYDEさんのライヴがリアルタイムで家で見られるなんて!最高」「お家は声だせる嬉しい」「大画面にします! 楽しみましょう」とコメントを交わし合い、“大勢のファンと一緒に楽しみたい”というムードに誘い込まれる。

 スクリーンの時計が“6:66”を示し、ついにライヴがスタート。エキゾチックな雰囲気のリズムや声が鳴り響き、客席からは拍手が起こる。さらにドン!ドン!ドン!というドラムの音、アコースティック・ギターのストロークが重なり、HYDEの「カモン!」というシャウトを合図にステージの幕が切って落とされた。ドラム(ドラム缶を模したフロアタム)を叩いていたのは、HYDE自身。オープニングナンバーは「UNDERWORLD」。ゴシック的なイメージを想起させるサウンドとともに妖しいメロディがゆったりと広がり、一気に“ANTI  WIRE”の世界へと引きずり込まれる。“近未来の世界の裏路地”と称すべきステージセットも鮮烈。映画「ブレ―ドランナー」のようでもあり、HYDEが新曲「DEFEAT」を提供したアクションゲーム「デビル メイ クライ 5 スペシャルエディション」にも通じる舞台美術は、このツアーの世界観をビビッドに体現していた。

 続く「AFTER LIGHT」もアコギ、ピアノを軸にしたアレンジが施されていた。“ANTI WIRE”とは“コードレス”の意味。HYDE流のアンプラグドとも言える今回のツアーのコンセプトは、既存の楽曲をアコーティック楽器で再構築し、新たな表情や魅力を引き出すことにつながっていた。この曲ではHYDEが「C’mon, Tokyo! Singing!」と観客に呼びかけ、ハミングでメロディを奏でることを要求。声を出すことは禁じられているが、マスクを着用した状態で口を閉じたハミングであれば飛沫は飛ばない。ライヴに関する数多くの制限があるなか、それでもHYDEは「この状況で何ができるか?」という可能性を探り、実行し続けている。“ハミングでのシンガロング”もその一つというわけだ。この演出に対し、視聴者からは「(観客の)ハミングを聴いてるHYDEさん、素敵」「泣きそう」といったコメントが寄せられていた。

■HYDEがファンに呼びかける「この時代も、いつか笑って話せるように――」

 “アコースティック=静かで穏やか”という一般的なイメージを気持ちよく覆してくれたのが、「LOVE  ADDICT」だ。HYDEが2008年に立ち上げたロックユニット・VAMPSの1stシングルとしてリリースされた「LOVE ADDICT」の原曲は、エッジの効いたギターリフを軸にしたアッパーチューン。このツアーではアコギでリフを演奏し、オーガニックな音像とともに披露され、メロディの良さをしっかりと際立たせていた(バンドメンバーのコーラスも絶品)。HYDEはアコギを弾きながら、「鳴らしてごらん! 楽しもうぜ、TOKYO!」とオーディエンスを煽り、客席からはタンバリンや手拍子の音が鳴り始める。観客はそれぞれツアーグッズのタンバリンや各自で用意した鳴り物、ボイスレコーダーなどを持参。ここにも“声出し禁止、着席のなかで、どう楽しむか?”というHYDEおよびツアースタッフの意図が感じられた。会場のオーディエンスと同じく、配信ライヴの視聴者も「LOVE  ADDICT」の高揚感にすぐに反応。「ジャンプしたくなる」「モッシュしたいー」「あがる!」「家でノリノリ!」と盛り上がる気持ちを言葉にしていた。

「ようこそ、『ANTI WIRE』へ。今宵はね、たまりにたまった恨みつらみを全部吐き出していってください。出来る? TOKYO!」という挨拶から、12月にリリースされた新曲「DEFEAT」へ。前述した通り、アクションゲーム「デビル メイ クライ 5 スペシャルエディション」に提供されたこの曲は、超ヘビィなギターを軸にしたナンバーなのだが、『ANTI  WIRE』バージョンではジャズのテイストを交えてリアレンジ。

 鍵盤の流麗なピアノ、そして、ドラム、ベースのスウィング感たっぷりのリズムとともに官能的とも言えるボーカルが響く「DEFEAT」の演奏は、このツアーの音楽的なコンセプトを端的に示していたと思う。サビでは激しくシャウトするなど、多彩な表現で観客を魅了。「HYDEさん、日々進化してる」という視聴者コメントも納得だ。

 ここで最初のMC。

「改めまして『ANTI WIRE』へようこそ! よく来たね、みんな。大変だったかもしれないけど、最後まで楽しんでいって」

「声は出せないけど、いろいろ持ってきたんでしょ?(タンバリンの音や拍手が鳴りはじめる)。どんどん鳴らして。ボイスレコーダーで録音してきた人も鳴らしてごらん。楽しみましょう」

「今日は世界中の人が見てるからね。会場にいない人(配信を見ている人)は大声出して、爆音で聴いて。会場の人は、感染対策してるから安心して楽しんで」と、オーディエンスに対する心遣いが感じられる言葉を連ねた。

 さらに「次の曲を作ったときは、すごくつらかったんだけど、人生のいい勉強になって。ああいう時代がなかったら、天狗になっていたかもしれないし、調子に乗ってたかもしれない。今になってみると“良かった”と思えるし、成長できたのかなと。この時代も、いつか笑って話せるようになったらなと思います」と語り掛け、「HORIZON」へ。2003年にHYDEの5thシングルとしてリリースされたこの曲は、「もがくほど絡む有刺鉄線を連れて/引きずるように明日をつかむ」というフレーズに感情を揺さぶられるミディアムチューン。HYDEが話したように、もともとは彼自身の個人的な思いから生み出された楽曲だが、この曲に刻まれた“どんなに苦しい状況になっても、未来に向かって進んでいくべきだ”という強い意思――それを象徴しているのは、最後の「矢を放て」という歌詞だーーは2021年の現状ともしっかりとリンクしている。ドラマティックな旋律を濃密なエモーションとともに奏でるボーカルに対し、視聴者から「ヤバい全身鳥肌モード」「I  really  love  HYDE  voice」「世界はHYDEさんを通して1つになってる」などの感動コメントが数多く寄せられた。

■リスナーを元気づける楽曲、ポジティブなメッセージがファンに波及「きっと会えるよ。信じようね!」

「HORIZON」によって生じたシリアスな雰囲気を一気に変貌させたのは、「MISSION」だった。アコギが心地よいグルーヴを描き、16ビートの揺れるリズムが圧倒的な多幸感へと誘う。タンバリンを掲げたHYDEは「Dance with me!」と煽り、会場では椅子に座ったままオーディエンスが気持ちよさそうに体を揺らした。サビのパートではカメラ目線で視聴者にアピールする場面も。「「FAITH」(HYDEの3rdアルバム/2006年)の曲うれしいな」「ピースフルで自由になれる曲」など視聴者のテンションもさらに上がっていく。ハッピーな高揚感を目の当たりにして、逆に寂しさを感じたユーザーが「もう二度とHYDEさんに会えないのかな」とつぶやくと、すぐに他のファンが「きっと会えるよ。信じようね!」と励ます。こういうリアルタイムの“会話”も、配信ライヴの楽しさの一つだろう。

 その直後に放たれた「BELIEVING IN MYSELF」も、不安を感じているリスナーに対するエールのような楽曲だった。力強く突き進むビート、繊細なピアノのフレーズが織り成すコントラストなかでHYDEは、「痛みで立ち尽くしてた/まだ間に合う 諦めはしない」「先へ踏み出すよ/自分を信じていたい」といったポジティブな言葉を紡いでいく。「さっきまで踊ってたのに泣いてる」「勇気をもらえる曲」などのコメントからは、この曲に込められたメッセージが確実に伝わっていることが感じられた。音数を抑えることで、歌詞に刻まれた思いがまっすぐにリスナーに届けられるーーそれは間違いなく、アコースティックセットで行われた『ANTI WIRE』の魅力だった。

 これまでHYDEのライヴは基本的にスタンディングで、モッシュ&ダイブが繰り広げられる熱狂のステージが常だったのだが、着席による『ANTI WIRE』では、1曲1曲が丁寧に演奏され、トークもたっぷり。この日の2度目のMCでHYDEは、前日(1月29日)の誕生日とソロ活動20周年について話した。

「昨日ね、誕生日を迎えまして。(拍手が鳴りやまず、立ち上がってお辞儀した後)ありがとうございます。みなさんに祝ってもらえるのが、本当にありがたくて。昔は誕生日とか言ってなかったんですけどね。ファンの子も(誕生日を)知ってる子は祝いたくて、でも、“祝っちゃだめ”って言う子もいて、大変で。最近は、毎年ライヴをやるくらいになってしまいまして、強制的に祝わせるっていうね(笑)」

「ソロ20周年でもあるんですよ、今年。20周年、いろいろあったね。長かった気もするな。ちょうど昨日、配信があって、過去の映像を振り返ったりしたんですけど、見た?(再び大きな拍手)なんかね、やっぱり違うよね。子どもに見える、20年前って。クソガキ(笑)。でも、何て言うんですか、30歳くらいから良くなるんじゃない? 男って。ちょうどソロを始めた頃は、夢を見てたというか、追いかけた感じがしたね。覚悟がある感じ? 20年前の映像を見て、そういうことを感じました。“カッコつけてんな、こいつ”とかね。ああいうのって、何年経っても恥ずかしいもんですね。自分の過去の映像はあまり見たくないし、全部消去したいけど、いまの世の中、そうもいかないので(笑)。“こんなのどっから?”っていうのもあるしね」

「20年前、ロンドンで『ROENTGEN』というアルバム作って。初めてのソロのレコーディング、しかも馴れない外国で、不思議な高揚感がありました。怖さもあり、ワクワクもあり……。そのときの曲を聴いてもらおうと思います」と紹介されたのは、「THE CAPE OF  STORMS」。独特のサウダージ感をたたえたバンドサウンド、憂いに溢れたメロディライン、そして、愛を失った男の喪失感を嵐にたとえた歌詞がゆったりと溶け合い、大きな感動を生み出した。原曲がレコーディングされたのは20年前だが、技術、表現力を含め、大きく向上した“2021年のHYDE”が歌うことで、楽曲のポテンシャルがしっかりと引き出されている印象も。実際、コメントにも「歌が進化しまくり」「色気が増して今の方がいいかも」「20年前より豊かな表現力と包容力」というコメントが並んでいた(この曲が主題歌だった映画「下弦の月~ラスト・クォーター」に言及しているファンも)。特に最後のサビのシャウトは絶品。どんなに激しく叫んでも、決して豊かな歌心を失うことがないボーカルからは、シンガーとしての高いポテンシャルが伝わってきた。

 続く「LET IT OUT」では、アレンジの妙がたっぷりと体感できた。冒頭はシンプルな鍵盤のフレーズとHYDEのボーカルで構成。そこにパーカッシブなドラムが加わることで、少しずつ高揚感を上げていき、サビに入った瞬間に心地よいカタルシスを生み出す。原曲とはまったく異なるアレンジに「歌詞が同じ違う曲みたい」「音楽って可能性が無限大っていうのをHYDEさんが実証している」という感想が並んだ。卓越したテクニックとセンスを併せ持ったバンドメンバーとともに創り上げた『ANTI WIRE』のアレンジ、演奏はおそらく、HYDEの音楽世界を大きく広げることになるだろう。

 スパニッシュの風合いを取り入れた「MAD QUALIA」では、「一緒に演奏しよう」と(やや複雑なリズムの)ハンドクラップを要求。異国情緒のあるアコースティックギターと観客の手拍子、HYDEの歌による“セッション”、そして、「みんな上手だね」という言葉によって、客席とステージの距離を近づけた。一瞬のブレイクを挟んで、バンドの演奏に移行。テンポを上げ、激しくも切ないメロディとともに楽曲のスケールを広げていく演出も見事だった。

■美しいファルセット、豊かな低音、深みのある中音域…HYDEの奥深いボーカルがリスナーの心に深く刺さっていく

 この後は、『ANTI WIRE』ならではのディープな音楽世界へと突入。まずはバンドメンバーによるセッション。中東あたりを思い起こさせるエキゾチックな音響、鍵盤ハーモニカによる妖しい旋律によって、ライヴの雰囲気はゆったりと変貌していく。そのムードのまま、「SET IN STONE」へ。HYDEは再びパーカッションを打ち鳴らし、サイケデリックという概念を体現するかのようなメロディを歌い上げる。この楽曲がもたらす独特のサウンドは、今回のツアーのなかでも特出。「ANTIのなかでも特にバケた曲」というコメントもあったが、昨年行われたツアー「HYDE LIVE 2020 Jekyll & Hyde」で披露されたときよりも更なる発展を遂げたようだ。

 また、静寂なピアノを軸にした「ANOTHER MOMENT」では、HYDEの奥深いボーカルの表現を堪能することができた。美しいファルセット、豊かな低音、深みのある中音域をバランスよく織り交ぜながら、「Said we’d live forever」(僕たちは永遠に生きると言ったら)という痛々しいまでにロマンティックなフレーズを響かせるボーカルは、まさに圧巻。「声で泣ける」「アナモメがこんに儚い曲になるとは思わなかったよね」「心の傷ついたところを優しく撫でるようなアレンジ」などのコメントからも、リスナー一人ひとりの心にこの曲が深く刺さっている様子が感じられた。

 そして、ライヴ中盤のハイライトとなったのが「EVERGREEN」だった。2001年10月、HYDEの1stシングルとして発表されたこの曲は、20年に及ぶソロ活動のキャリアの起点となる、記念すべき楽曲。原曲もアコースティック・テイストのアレンジなのだが、このツアーでは、極限まで音数を抑えたピアノと歌を中心にした編曲により、愛する人に対する繊細な思いを描いた楽曲の世界を表現していた。特筆すべきはやはり、HYDEの歌の素晴らしさ。今にも崩れ落ちそうな感情をデリケートに映し出すボーカルに、「今聴くと余計にぐっとくるよ」「辛いこといっぱいあったけど浄化されてく」と自身の感情を重ねる視聴者も多かったようだ。滲んだグリーンの照明も、「EVERGREEN」のイメージをしっかりと際立たせていた。

 続く「WHO’S GONNA SAVE US」でも、歌と言葉の力を実感することができた。2019年、12年ぶりのソロシングルとしてリリースされたこの曲は、強いエモショーンを讃えたメロディとしなやかなリズムが見事に共存。“誰が僕等を救ってくれるのか”つまり、“他者の手を期待せず、自分は自分で守るしかない”というメッセージを含んだ歌詞も、いまの世情にぴったりと当てはまる。まるでいまの社会を予言していたかのような内容は、HYDEのクリエイティブの鋭さ、確かさを証明していると思う。

 鋭利なドラムソロによって、ライヴは後半へ。「よし、アゲてくぞ!TOKYO」「声を出せなくても、伝わってくるよ。心のなかのでっかい声が。叫んでくれ!」と煽りまくるHYDEも明らかにギアが一段上がり、声の凄みが増している。カメラ目線で「“スリー、ツー、ワン”ではっちゃけるぞ。Are you ready?」と叫びながら披露されたのは「LION」。凄まじいシャウトとともにステージに倒れ込んだと思いきや、タンバリンを激しく打ち鳴らしながらアグレッシブなパフォーマンスを繰り広げるHYDE自身も、このライヴを全身で楽しんでいるようだ。

曲が終わったと思った次の瞬間、再びシャウトし、「Oh No, Nobody’s safe now」というサビのフレーズを叫びまくる。この演出を何度も繰り返し、そのたびにライヴの興奮度が上がっていく。「楽しんでる?(大きな拍手が響き渡る)良かった、楽しんでるのは俺だけじゃなかった(笑)。」と笑顔で話す姿も印象的だった。

「アレンジして、これまでの印象と違う曲もいっぱいあると思うけど、こういうのもまた面白いよね。“え、これ何の曲?”って、しばらく聴かないとわからない曲もあると思うんだけど(笑)。アコースティックでアレンジしてると、上手くいくときもあれば、“原曲のほうがカッコいいね”ということもあって。じゃあ、どうする?ってメンバーとやっていくんだけど、それぞれが素晴らしい作曲家なので、アレンジがいっぱい出てきて。“それ、いいじゃん”の連続で、煮詰まることがない。スムーズというか、楽しいリハ―サルでしたね。僕が“ここから先はわかんねーな”と思っても、すぐにアレンジが進んでいって」

HYDE、豊かな表現力と包容力で示した独自の世界観『ANTI WIRE』にファン感動「強くて優しくて美しかった……」

■突然、配信モニターをチェックするHYDEにファンが反応「愛してる」「スペインから応援してます」…コミュニケーションが成立する場面も

 「激しいライヴもいいけど、演奏に集中したり、新鮮なアレンジも自分としては楽しいなって思ってます。配信で、世界中の人が見てくれてるしね。横にコメントを書いてたりするんですよね」とHYDEは配信のモニターをチェックしはじめた。すぐに「大好きです」「愛してる」「スペインから応援してます」などの言葉が並び、視聴者とHYDEのコミュニケーションが成立。それは言うまでもなく、配信ならではの貴重なシーンだった。

「次の曲も大人っぽいアレンジで気に入ってます」という言葉に導かれたのは、「KISS  OF  DEATH」。テレビアニメ「ダーリン・イン・ザ・フランキス」オープニング主題歌として中島美嘉に提供した楽曲のセルフカバーだ。オルガンと歌ではじまり、シティポップ、ソウルミュージックのテイストを交えた演奏に、コメント欄には「おしゃれなアレンジやな!」「素敵なアレンジ、この方が好きかも」という言葉が並んだ。間奏パートでは、鍵盤からはじまり、ベース、アコギとソロ演奏をつなぎながら、バンドメンバーを改めて紹介。4人のプレイヤーの質の高い演奏が『ANTI  WIRE』の基盤を支えているーーその事実をプレイを通して再認識できるシーンだった。

 ここからライヴはクライマックスへ。まずはライヴアンセムの一つである「DEVIL SIDE」だ。イントロはHYDEの口笛。ジャズ~ボサノヴァを軸にしたアレンジはとんでもなく上質でお洒落。「オサレアレンジなのにちゃんとロック」というコメントが示している通り、“HYDEのボーカルはあくまでもロック”というバランス、そして、“悪魔”をモチーフにした歌詞、洗練されたサウンドとコントラストも印象的だ。「あんなヘドバン激しい曲が…すご」「通常ライヴだとダイブ&モッシュ曲です」と視聴者も原曲とのギャップを楽しんでいた。

 野性味に満ちたパーカッションから始まる「REVOLUTION」もインパクト十分。「鳴らせ!鳴らせ!足でも手でも、みんなで鳴らそうぜ。全部出して、鬱憤を晴らそうぜ」と叫び、「Bang on, stomp everybody!」というバンドメンバーのコーラスが響くと、コメント欄には「もう我慢できない!」「会場のファンの方ノリノリじゃん 嬉しくなる!」という言葉が押し寄せる。これまでのライヴで、数えきれないほどの熱狂を生み出してきた「REVOLUTION」。今回のアコースティック編成では、汗でグチャグチャになるステージングはできないが、精神的な一体感と盛り上がりは、これまでのライヴと匹敵していると言っていい。

「HELLO」では、HYDEがカメラの至近距離でシャウト。ドラム、ピアノ、ベースによる編成によるオーガニックなアレンジによって、ナチュラルな高揚感を生み出していく。HYDEはめちゃくちゃ楽しそうな笑顔でステージを移動し、観客とコミュニケーションを取る。「こんなに楽しいHELLOは初めて」というコメントも心に残った。

 アコギを持ったHYDEが「楽しんでる?」と呼びかけた後で演奏された「I’m so happy」も、『ANTI WIRE』の最大のハイライトの一つだった。1996年にリリースされたL’Arc~en~Cielのシングル「風にきえないで」のカップリング曲として収められた「I’m  so  happy」は、ファンの間で根強い人気を得ている。作詞・作曲はもちろんHYDE。憂いと爽やかさを内包したメロディライン、「いつの日か生まれ変わるとしたら もっと/あなたのそばにいたい 誰よりも」という歌詞、そして、美しいしなやかさをたたえたボーカルが一つになったパフォーマンスは、今回のツアーの大きな成果だったと思う。

「I love you, I love you, I love you」というリフレインでは、HYDEの目が潤んでいるように見えた。この状況から逃げず、「可能な範囲で、最大限にライヴを楽しむためにはどうしたらいいか?」という問題と向き合ってきたHYDE。試行錯誤のなかで辿り着いた『ANTI WIRE』でファンに愛され続けている「I’m so happy」を届けることは、彼にとっても大きな達成感があったのではないだろうか。

■「コロナに感染しなくても、コロナ禍の社会に負けたら、コロナに負けたのと同じ」HYDEがファンに放った力強いメッセージ

 ここでHYDEは、改めてオーディエンスに向けて話しかけた。

「楽しんでますか? 残り少なくなりました。来るのが大変な人もいたと思うけど、安全にライヴをやる方法が何かあるだろうと思って、いろいろ考えた結果、こういうスタイルに辿り着きました。本当だったら、グチャグチャになるライヴをやってたと思うけど、それが出来ないなら出来ないで、別の方向で広げたいなって。こういうことがなければ、(アコースティック・スタイルで)アレンジすることもなかっただろうし、みんなでアイデアを出すことも、“これはこれか”という感じで楽しんで。みんなにも、息抜きじゃないけど……今日、楽しみだったんでしょ?」

「コロナに感染しなくても、コロナ禍の社会に負けたら、コロナに負けたのと同じ。このライヴも安全にやり遂げるし、またみんなと会えるライヴをやりたいと思ってます。みんなも自分を守って……家に帰るまでがHYDEのライヴだから」

 どこまでも真摯、どこまでも真っ直ぐな言葉の後で演奏されたのは、「GLAMOROUS SKY」。中島美嘉が「NANA starring MIKA NAKASHIMA」名義でリリースした2005年のヒットチューンだ。滑らかな鍵盤を中心にしたアレンジが、原曲の美しさ、純粋さを際立たせ、コメント欄には「HYDEさんでこの曲きけるの?!」「今までのライヴがフラッシュバックするような気持ち」という感激の言葉が並んだ。

 最後の楽曲は、デュラン・デュランの1993年の名曲「ORDINARY WORLD」のカバー。「この状況、コロナの世界が、普通の生活がいかに尊かったか教えてくれました。グチャグチャになるライヴも当たり前じゃなかったんだなって。いつ普通の世界に戻れるか、いまはまだわからないですけど、以前のような状況がまた戻ってくると信じて、魂を込めて歌いたいと思います」。そんな言葉に導かれたこの曲は、観客がスマートフォンのライトを掲げるなか、とてつもなく豊かな感動を生み出した。

 終演後、HYDEはステージの端から端まで移動し、観客に笑顔で挨拶。「楽しんでもらえましたか? こんな世の中ですけど、次に会えるのを楽しみにしてるし、そういう機会を作ろうと思ってるので、楽しみにしていてください。今日はどうもありがとうございました」と語り掛け、ライヴはエンディングを迎えた。

 視聴者からは、「強くて優しくて美しい世界でした」「心の底からありがとうHYDEさん」という感謝の言葉が多数。HYDEの豊かな音楽世界を心ゆくまで味わうと同時に、“次は生のライヴで会いたい”という気持ちを高めてくれる充実のステージだった。

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