博報堂買物研究所は、「いいモノを手に入れたい」という欲求、“物欲”に対して、「いい買物体験をしたい」という買物プロセスに対する欲求、“買物欲”の概念を2007年に発表。それ以降、モノの価値での差別化が難しくなる中、“買物体験での差別化”の重要性が高まっているという考えのもと、様々な研究活動を行っている。また近年、ECの普及やSNS利用の拡大、コロナ禍、物価高騰などの影響を受け生活者の買物環境は急激に変化しており、従来の枠組みでは生活者の買物欲を捉えきれなくなっている。

 そのような背景を受け、独自の定量Web調査やソーシャルリスニング、有識者インタビューなどから考察した「令和の“買物欲を刺激する20のツボ“」を定義、生活者の新たな買物潮流やそれらに対するマーケティングヒントなどについて提言した。

今後ニーズが高まるのは「LOVE&BOOST」系のツボ―生活者の“買いたい”という主体的意志に復権の兆し

 令和の“買物欲を刺激する20のツボ”は、買う時に感情『LOVE』と理性『REASON』どちらで商品を選ぶか、買う気持ちを増幅させる『BOOST』か維持させる『KEEP』か、という2つの軸で4つの象限に分類される。

・BOOST系のツボ
『LOVE&BOOST』:“買いたい”を“盛り上げる”(『偏愛性』『ストーリー性』など)
『REASON&BOOST』:“買ってもいい”を“盛り上げる”(『協調性』『限定感』など)
・KEEP系のツボ
『LOVE&KEEP』:“買いたい”を“維持”する(『損失回避』『フリクションレス』など)
『REASON&KEEP』:“買ってもいい”を“維持”する(『信頼感』『選択感』など)

“買物欲を刺激する20のツボ”一覧

 定量Web調査やソーシャルリスニングの結果をこの分類をベースに分析したところ、現在生活者からのニーズが高いのは『KEEP』系のツボだった。一方で、今後伸びていく兆しを見せたのは『LOVE&BOOST』系のツボということがわかった。「失敗したくない、なるべく省力化したい」「ネガティブな部分がないから“これでいいか”」という『KEEP』系の買物スタイルから、遠回りしながらも買物プロセス自体を楽しんだり、自分軸で買う、想いに魅かれるなど、 “これを買いたい”という『LOVE&BOOST』系の買物スタイルへの変化、つまり生活者の“買いたい”という主体的意志が復権する兆しがあるという。 

生活者の“買いたい”という主体的意志が復権した時代における3つのマーケティングヒント

 このように、これからは『LOVE&BOOST』系の主体的な意志を伴う買物スタイルが復権していくとみられる。そうした生活者のニーズ変化を捉えた企業のマーケティング活動の実現に向け、博報堂買物研究所は以下3つのヒントを提言。

1.ソウルを打ち出す 関係するツボ:「偏愛性」「利他社会性」「ストーリー性」
 ~根拠・理由だけでなく、信念・情熱を感じる体験「も」打ち出すことが重要~

 根拠や理由に納得して理性的に買うだけではなく、企業のソウル(他には提供できない企業「らしさ」や売場作りに込めた「信念・情熱」)を感じる買物体験の提供が差別化に繋がる。理念を体現する“一貫性のある買物体験”を提供することが今まで以上に重要になる。

2. 楽しめる買物プロセスの提供 関係するツボ:「過程充実性」「鮮度・体感」
    ~時には非効率を楽しめる体験「も」提供する~

 生活者は、効率重視の買物では味わえない、プロセス自体を楽しめる工夫がある買物を求めることもある。例えば、海外の市場での買物を完全に再現して、異世界感に没入できる体験や、ガチャガチャのように予測できない楽しさの提供があげられる。

3. 未来視点の提示 関係するツボ:「自己投資」「学習心」
 ~「今視点の損失回避」だけでなく「未来への投資性」を~

 目先の損得だけではなく、「どれくらい長く使えるか?」「それを買うと自分がどれくらい頑張れるか」など未来の姿を想像できる買物体験が重要だと考えている。