「無料」体験がテレビデバイスでも強みに

 「コネクテッドTV」とは、インターネットに接続されたテレビ端末のことを指す。スマートフォンを中心に視聴デバイスを問わないインターネットテレビだが、コネクテッドTVでの視聴体験も重要なテーマの1つとなる。では、「ABEMA」はどのようにしてコネクテッドTV領域をグロースさせてきたか。

 「ABEMA」のコネクテッドTV専門部署の責任者を務める徳山宗佑氏は「大きく3つのフェーズがあった」と語る。1つは、新型コロナウイルスが流行したタイミングだ。

 ABEMAは、国内のほぼすべてのテレビメーカーのリモコンに、ABEMAへ直接遷移できるボタンを搭載させてきた。リモコンのボタンには競合他社のサービスも多くひしめくが、「ABEMAの場合、無料で使えるサービスだったので、ログインが必要となる他社と比べて、ボタンを押せばすぐに視聴できたのが強みとなった」と徳山氏は話す。

 この視聴体験はメーカーからも好評となり、2018年ごろから仕込みを開始し、新型コロナが流行する前にほぼすべてのメーカーのボタンに搭載できていたことで、その後の「おうち時間」増加の時流にABEMAも乗ることができたわけだ。

 2つ目のターニングポイントは、ABEMAが2022年11月に開催された『FIFA ワールドカップ カタール 2022』(以下W杯)を全試合無料生中継したタイミングだ。ABEMAではこの1年ほど前から、コネクテッドTV部門の専門組織が立ち上がり、コロナ禍での成長を牽引していた。この頃から、ABEMAのコネクテッドTVの成長率は四半期ベースで35%を超えていたという。

 W杯期間はオンライン・オフライン両面でのコネクテッドTVのプロモーションを展開。家電量販店やコストコといった、大型テレビの販売店舗での訴求や、スマホでのABEMA来訪者に、そのユーザーが使っているテレビでの視聴方法をフォームに情報を入力することで簡単にわかる特別ページを構築するなど、幅広く施策を行った。特にスマホ来訪者向けの施策は現在も行われており、「“おもてなし”の施策が功を奏している」と徳山氏は効果を実感する。

 GoogleやAmazonといったセットトップデバイス(テレビに接続することで動画配信サービスなどを楽しめるデバイス)を持つ企業とも協業し、プロモーションを敢行。加えて、ABEMAのオリジナル番組に出演するタレントなどを起用したCMを活用し、スマホユーザー向けの訴求を展開。まさにABEMAの強みが活かされたマーケティング事例と言えるだろう。

 3つ目は、成長を続けるまさに“今”がそのタイミングだという。コロナ禍で一気に普及し、W杯で認知がさらに上昇した今、2024年4月からはコネクテッドTV部門の開発人員を当初の2倍に増強。格闘技や野球など、サッカー以外にも大画面で楽しめるスポーツコンテンツを数多く放送しているABEMAにとって、今後は「サービスの使い勝手が差別化要因となる」と徳山氏は話す。

 コネクテッドTV部門内に「使い勝手向上チーム」を作り、使いやすい体験を追求するデザイナーやエンジニアを20〜30名規模で専任させることで、素早いアップデートを目指している。

コネクテッドCTVならではの広告も好調

 コネクテッドTV向けの広告商品も好調だという。現在、ABEMAの広告在庫に占めるテレビデバイスの割合は約32%。市場予測でもコネクテッドTVの広告規模はさらに伸びていくとされている。

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 ABEMAのコネクテッドTVは、モバイルでの視聴者層に比べて35〜49歳の視聴者層が多く、「トレンドに敏感で、感度の高いユーザーが多い」(徳山氏)ため、特定の番組を視聴するためにサービスを利用するため、「能動的な視聴=注視度が高い」ことが強みだという。

 その結果、CMの完視聴率も高く、広告出稿者にとっても、伝えたいメッセージをしっかり届けられるメリットがあるといえる。300秒程度の長尺でのインフォマーシャルやミニコンテンツへの対応、特定の属性に向けたデモグラ配信など自由度が高い点もOTTならではの強みだろう。

 「プロコンテンツで完全編成されたCMチャンスに、スキップ不可でCMから離脱しないよう、限りなく地上波に近い形でユーザーに広告体験を提供できるのが特徴」と徳山氏は力説する。加えて、放送中の画面にL字で広告を表示させる「ABEMA Live Screen Ad」といった商品など、インターネットならではの手法も取り入れているという。

 大きな成長フェーズを経てなお、ABEMAのコネクテッドTV部門のポテンシャルは、視聴体験、広告体験いずれをとっても高いといえそうだ。

【登壇者】
徳山宗佑
2013年4月サイバーエージェント入社。Ameba事業本部に所属し、アメーバピグを中心としたアライアンス業務に従事。2022年より株式会社AbemaTVのABEMAマーケティング本部にて営業宣伝室兼CEグロース室長に就任し、CTV専門部署の責任者を務める。