広告品質の現状
モデレーター・友澤大輔氏(以下、友澤氏):インターネット広告は、2024年には日本の広告費の50%を超え国内最大の広告手法となっています。このデジタル広告の体験が今どうなっているのか、どんな課題と解決策があるのか。元代理店で現在はクオリティメディアコンソーシアム事務局長を務める長澤秀行さん、DoubleVerifyJapan株式会社マーケティングディレクター日本統括の中村晃さん、株式会社AbemaTV綾瀬龍一さんと、広告主でもある私テンプスタッフ友澤大輔が、代理店・メディア・テックベンダー・広告主それぞれの立場から議論していこうと思います。まずは広告品質の現状について、長澤さんに教えていただきます。
長澤秀行氏(以下、長澤氏):一般社団法人日本インタラクティブ広告協会(JIAA)が2022年11月に公開したデータによると、インターネット広告の信頼度はテレビ、ラジオ、新聞、雑誌の他メディアのなかで最低、信頼できると答えた人の割合はTVの半分程度にあたる23.1%で、その信頼度は年々減少傾向にあります。
なぜそんなにネット広告が信頼されないのか。調査によるとインターネット広告の嫌いな点のトップ3は、なりすまし詐欺広告に代表されるような騙すタイプの「広告内容」、コンテンツを見たいのに広告がいくつも表示されてコンテンツの視聴や閲覧を阻害する「フォーマット」、どのメディアを見に行っても同じ広告が追いかけてくる「ターゲティング」です。プロファイルターゲティングの仕組みはネットのメリットでもありますが、ユーザーからは嫌だという声が非常に多く挙がっています。
また今問題になっているのは、広告費を稼ぐために作られた「MFA(Made for Advertising)」と呼ばれる低品質なフェイク記事サイトがAIの登場により大量発生していて、そこにGoogleAdsから自動的に広告が配信されていること。捏造やフェイクでできた悪質なメディアでも広告が掲載されれば、当然そのメディアに広告費が入ります。
1日1200本以上のフェイク記事を生成しているサイトもあり、それらMFAに140社を超える大手ブランドが知らないうちに広告費用を支払っている現状があります。結果、米国では全広告露出の21%が無駄なものになっており、日本でもMFAによる広告費の損失額が100億円を超える規模にまで膨れ上がっていると言われています。
メディア品質の計測指標
友澤氏:MFAに代表されるような「低品質なメディア」による広告主の損失がかなり大きいものになっています。これらに対応するために代理店や広告主はどこに目を向けたらいいのでしょう。
中村晃氏(以下、中村氏):この問題を考えるにあたっては、広告掲載面と広告そのものの2つの面を分析する必要がありますが、私は広告出稿にあたり最終的なKPIの基盤となる部分は、メディア品質が重要になると考えています。
掲載面については、「フラウド」Bot(ボット)を使い広告が不当に多く表示されていないか、「ブランドセーフティ(スータビリティ)」不適切な面に広告が配信されてないか、「ビューアビリティ」実際に広告がデバイス画面に表示されているか、「ジオ」ターゲットが居住するエリアに広告が配信されているか、というアドベリフィケーション(広告検証)の4指標で品質を計測します。
一昨年頃からの傾向として、生成AIによっていろいろなコンテンツが作れるようになったりプログラミングも巧妙化しているという実態があります。弊社(DoubleVerify Japan)の研究機関によると、2023年からストリーミング詐欺のスキームと亜種が58%、ストリーミング・スキームごとの平均亜種数は269%も増加。特に「日本はモバイルアプリの数が多いため、非常にリスクにさらされていると言えます。
全米広告協会の調べによると、広告インプレッションの21%がMFAサイトに配信されており、広告費の15%がMFAサイトに流れていることが明らかになっています。日本においても2023年度のビューアビリティは49%、内訳としてディスプレイ広告は51%、動画広告は70%となっています。これは広告主が費用を投下したディスプレイ広告の半分がみられていないということを意味します。
ちなみに対策を取っているクライアントとそうでないクライアントを比較した場合、フラウドの観点でいうと約25%、ビューアビリティは約42%、ブランドスータビリティは約94%の違いが出ています。金額にすると、10億インプレッションあたりの損失額は、アドフラウドで約1630万円、ビューアビリティで約6,200万円、ブランドスータビリティは約9,250万円にも上ります。※1ドル135円換算
広告品質の3要素と課題
友澤氏:では逆に、メディアの立場からみた「広告品質」とはどのようなものでしょうか。
綾瀬龍一氏(以下、綾瀬氏):まず、広告品質は大きく3つに整理することができます。どういう広告をみせるかという「広告素材」、MFAやアドフラウドなどどこに掲載するかという「広告掲載面」、過剰なターゲティングやコンテンツ表示の阻害などユーザーが体感する「広告体験」。この「広告体験」が実はメディアにとって最も重要で、ユーザーにとっても最も直接的に広告の良し悪しを感じるところだと思います。
広告体験の理想は、広告の数が少なくてユーザーも見る/見ないを選択できる状態であることだと思いますが、市場的には広告単価の低下などによって、メディアとしてはユーザーが避けられないオーバーレイ広告やインタースティシャル広告などの広告単価の高い広告枠の追加をしないと収益性が維持できないというのが実情です。
このままだとコンテンツメディアにおける広告体験はますます低品質化して、広告主側にとっても出稿したい場所がなくなってしまうことに繋がります。参考データとして、動画サービスで広告を消すために有料プランを利用するユーザーの割合は最大手で37%という結果が出ています。4割近いユーザーが広告を消すためにお金を払っているその「広告体験」に、広告を出したいものでしょうか。
メディアプランニングの現場で、ユーザーがそのメディアでどのような広告体験をするのか、どのようにブランドメッセージが伝えられるのかがどれだけ考慮されているのだろうかというのを問題点として提議したいですし、業界全体でどうしたらユーザーが受け入れやすい「広告体験」作っていけるかというところも是非皆さんと議論したいと思います。
進む“広告コンテンツの低品質化”に解決策はあるのか?続きは⇒「悪いのはプラットフォームか広告主か」広告コンテンツの低品質化、その原因と解決策【ad:tech tokyo 2024】後編
◆モデレーター・友澤大輔氏(写真 左)
パーソルテンプスタッフ 執行役員CMO
様々なメディア企業等を経て2021年4月に東京海上ホールディングスデジタル戦略部のシニアデジタルエキスパート兼イーデザイン損保CMOに就任。一貫してデータを活用したマーケティング施策、また各種マーケティング施策のデジタル化の推進を通じて、顧客体験の変革を実践。またそうしたマーケティング施策を通じて組織変革や企業変革を実践する。
2024年4月から現職。
◆長澤秀行氏(写真 中右)
クオリティメディアコンソーシアム事務局長 株式会社BI.Garage特命顧問
1977年(株)電通入社、新聞局デジタル企画部長、インタラクティブコミュニケーション局長を経て、
2006年(株)サイバーコミュニケーションズ代表取締役社長就任。
2014年より、一般社団法人日本インタラクティブ広告協会常務理事
2017年より(株)デジタルガレージグループ顧問、2020年より現職
◆中村晃氏(写真 右)
DoubleVerifyJapan株式会社マーケティングディレクター日本統括
株式会社東芝にて営業部門および宣伝部門でキャリアをスタート。
アップル、アドビ、Twitterなど外資系企業にてマーケティング業務に従事しマーケティング部門責任者などを歴任。
◆綾瀬龍一氏(写真 中左)
株式会社AbemaTV ビジネスディベロップメント本部シニアプロダクトマネージャー
2009年サイバーエージェント入社、「アメーバブログ」広告営業を経て、プログラマティック広告マネタイズ責任者、ディスプレイ広告・動画広告のプロダクトマネージャーを担当
2019年より現職、「ABEMA」動画広告のプロダクトマネージャーとして広告メニューの企画開発やアドテクを活用したソリューション開発、CTVを中心とした新しい広告フォーマットの開発などに従事
(写真提供:ad:tech tokyo事務局)
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