※前編を読む→ 「なぜネット広告は嫌われるのか」広告コンテンツの低品質化、その原因と解決策【ad:tech 2024】
なぜ広告コンテンツの品質が低下したのか
モデレーター・友澤大輔氏(以下、友澤氏):広告にテクノロジーを掛け合わせることで価値を出すというのがアドテックの本来の目的なのに、善意の人だけに価値を与えるだけではなくなってしまった。善意ではない人たちにも価値を与えてしまったがために、MFA(Made for Advertising)のような「低品質なメディア」が生まれてきてしまったという現状があります。あらためて、なぜこのような状況になってしまったのか教えてください。
長澤秀行氏(以下、長澤氏):アドテックの進歩とプラットフォームの拡大を受け、これまでのメディアを指名して掲載する“手売り”の広告モデルからほとんどがGDNやYDAのアドネットワークを通じて広告を配信する運用型モデルに変わりました。
数十万といわれる配信可能サイトのなかをターゲティングして広告配信されるようになると、きちんと管理されたプロメディアだけでなく個人メディアや広告主にとってリスクのあるMFA、反社会的なメディアにまで広告が配信される可能性が出てきます。あまりにも多くのサイトに広告を配信するという仕組みに安全管理が追い付いていない現状があります。
友澤氏:アドネットワークはプラットフォーマーが儲かるための仕組み(AI)なので、活用しすぎると最適ではないところに露出してしまう。数年前まではMFAもなかったのでまあいいかと済ませていたところが、AIの発達で意図しないMFAサイトがどんどんできあがることになって大きな問題になっているという状況ですよね。
長澤氏:経済産業省の報告によると、Google広告での配信先を把握できている広告主は約2割。7割を超える広告主は自社の広告がどのサイトに載っているかを知らない無責任な状況が常態化しています。そこに短期的なKPIを優先するKPI過大主義、いわば「クリックが取れればMFAでも構わない」という成果報酬を強く求め過ぎる広告主や広告会社のマインドが拍車をかけているのではないでしょうか。私は「リスクを看過する広告主とそれをサポートしなければいけない広告会社」、本来は安全で信頼できる商品を提供しなければいけない立場なのに在庫の管理ができていない「プラットフォーマー」に問題があると考えています。
中村晃氏(以下、中村氏):基本はエコシステムなので私は全員に責任があると思いますが、一方で一番トリガーになるのはお金を持っている広告主のアクションになるのかなと。そのトリガーがきちんと機能すれば、代理店もプラットフォームもきちんと品質に向き合わないといけなくなります。また、プラットフォーマーを第三者的に評価する仕組みも重要になってきてると感じています。
綾瀬龍一氏(以下、綾瀬氏):同じく「全員」に責任があるのは前提として、率直なところでいうと「プラットフォーマーの存在」と「在庫が大きいが故にパワーバランスが崩れてきている」というのが原因かなと思っています。と同時にそのパワーバランスを変えていけるのは広告主なので、広告主の意識やリテラシー、代理店との向き合い方が変わると改善できるのではないかと期待もしています。
広告主の課題
友澤氏:なんとなく広告主に責任があると言われているのは感じているのですが(笑)、一方で広告主の立場としては、広告主がツールの導入や対策など、コストをかけてやるべきことなのか、という疑問も感じます。他のやり方はないものでしょうか。
中村氏:経産省のデータによると、広告品質の対策をとっている広告主は十数パーセントしかない。でも、情報漏洩などに備えたセキュリティ等ITインフラに対しては対策をとっていますよね。広告主は、それと同様に考えるべきじゃないでしょうか。あと、コストの面でいうと、メディアの品質をあげることでしょうか。良質なメディアには、良質なオーディエンスがいる。それを維持できれば顧客のLTVがあがる。メディア品質の問題は広告主にとってのサスティナブルなビジネスモデルに結びついていくわけですから、ここはマーケターがその目線で考えるべきだと思います。
綾瀬氏:広告主ではなく媒体社がコストをかけてツールを導入するのもありですが、媒体が提供するレポートを広告主が見ないのであればやる意味がない。広告主がそこに向き合う覚悟を持ったうえでコストを払ってみるくらいにならないと変わらないのではないでしょうか。
長澤氏:もともとマス広告には、広告は嫌われ者だから素晴らしい広告クリエイティブを質の高いプロフェショナル広告メディアのオブラートに包んでようやくみてもらえるものという考え方があり、広告効果を高めるためには、広告の受容性を高める必要がありました。しかしWEBメディアは、広告枠と人が切り離された状態になっています。「広告があるからメディアビジネスが成立しているが、そのために広告を我慢しなければならない、でも我慢しきれない」という現状は、マーケットの成長のために構造的に考え直さないといけないと思います。
友澤氏:では、広告主は具体的に何を変えるべきなのでしょう。
綾瀬氏:テクニカルな面でできることはたくさんありますが、敢えて意識の問題で言うと、社内でそのメディアの「広告体験」品質をテーマに議論したり、良質なメディアに出稿するというアクション自体を後押しするとか。業界内でもそういうアクションをしている広告主やマーケターが報われるための後押しがあるといいですよね。
中村氏:テクノロジーの問題はテクノロジーで解決できるので、まずツールを入れて対策をして欲しいというのがあります。それと、日本は米国に比べてもCPAに重きを置き過ぎているので、フルファネルで物事を考えようという機運が高まればいいなと。ファネルの上から下までのコンバージョンを、大局的かつ俯瞰的な視点でみる必要があると思います。
友澤氏:とはいえ、我々広告主としては明日から急にKPIをCPMやCPCに切り替えるのはなかなかハードルが高いんですよね。でも、だからこそ広告代理店が広告主と伴走してくれて、ビジネスゴールを一緒に考えて設計していくことができたらいいなと個人的には思います。
長澤氏:電通はこれまでも、JAROのように第三者でマス広告を管理して信頼を得る仕組みを作ってきました。ネットにおいてはJICDAQがようやく生まれ、第三者認証が始まったところです。これらを強く後押しするのは代理店の役割であり使命。今のようにネット広告が嫌われた状態では国内の広告マーケットが縮小してしまう可能性があります。そこを活性化していくためにはネットにブランド広告を出せる環境を作らねばならず、それをリードするのは電通のような大手代理店じゃないでしょうか。
綾瀬氏:今はプラットフォームが力を持ち過ぎていてコミュニケーションがないというのが課題。動画で言えば『ABEMA』を含めた国産のOTTやコンテンツメディアと代理店が密にコミュニケーションとり、どういう枠を作ることが望ましいのか、どういう広告体験品質を作れば広告主に提供しやすいのか会話が増えていくといいですよね。
中村氏:従来のKPIに加えて、アテンションなどの新しい指標も取り込むことでパフォーマンスが付いてくる。そうなると今あるこの問題は解決していくのではないかと思います。
友澤氏:まずは「対話しよう」ということのような気がしますね。広告主が代理店に何かを要望するときに、代理店はこの現状を理解したうえで提案すべきではないかと。また、広告主も広告費とは別にツールなどのテック費用を切り分けて計上することも必要な時代になっている気がします。テクノロジーの進歩が必ずしも良い方向に導いてくれるとは限らない、だからこそまず事実を共有し議論することから始めてほしいと思います。
◆モデレーター・友澤大輔氏
パーソルテンプスタッフ 執行役員CMO
様々なメディア企業等を経て2021年4月に東京海上ホールディングスデジタル戦略部のシニアデジタルエキスパート兼イーデザイン損保CMOに就任。一貫してデータを活用したマーケティング施策、また各種マーケティング施策のデジタル化の推進を通じて、顧客体験の変革を実践。またそうしたマーケティング施策を通じて組織変革や企業変革を実践する。
2024年4月から現職。
◆長澤秀行氏
クオリティメディアコンソーシアム事務局長 株式会社BI.Garage特命顧問
1977年(株)電通入社、新聞局デジタル企画部長、インタラクティブコミュニケーション局長を経て、
2006年(株)サイバーコミュニケーションズ代表取締役社長就任。
2014年より、一般社団法人日本インタラクティブ広告協会常務理事
2017年より(株)デジタルガレージグループ顧問、2020年より現職
◆中村晃氏
DoubleVerifyJapan株式会社マーケティングディレクター日本統括
株式会社東芝にて営業部門および宣伝部門でキャリアをスタート。
アップル、アドビ、Twitterなど外資系企業にてマーケティング業務に従事しマーケティング部門責任者などを歴任。
◆綾瀬龍一氏
株式会社AbemaTV ビジネスディベロップメント本部シニアプロダクトマネージャー
2009年サイバーエージェント入社、「アメーバブログ」広告営業を経て、プログラマティック広告マネタイズ責任者、ディスプレイ広告・動画広告のプロダクトマネージャーを担当
2019年より現職、「ABEMA」動画広告のプロダクトマネージャーとして広告メニューの企画開発やアドテクを活用したソリューション開発、CTVを中心とした新しい広告フォーマットの開発などに従事
(写真提供:ad:tech tokyo事務局)
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