日本郵便訴訟“不合理な格差”認定に「ここまで勝てると思わなかった」 “非正規格差訴訟”で明暗、残る課題
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 日本郵便の契約社員らが、正社員には与えられる扶養手当や夏期・冬期休暇などが認められないのは「不合理な格差」として是正を求めていた裁判で15日、最高裁判所は契約社員側の勝訴を言い渡した。

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 「不合理な格差」と認定されたのは、扶養手当、年末年始の勤務手当、祝日の賃金、夏期・冬期休暇、病気休暇の5件。これに対し、日本郵便は「速やかに労使交渉を進め、必要な制度改正に取り組みたい」(共同通信)とした。

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 一方、13日に大阪医科大学の元アルバイト職員の女性が賞与を求めた裁判、東京メトロの子会社の契約社員らが退職金を求めた裁判は、いずれも原告側の訴えを退ける判決になった。

 政府がいわゆる“同一労働同一賃金”を掲げる中、なぜ判決が分かれたのか。そして一連の判決は、非正規労働者のためになるのか。16日の『ABEMA Prime』は原告の1人を招き考えた。

■「正直ここまで勝てるとは思っていなかった」 一方で残る課題も

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 日本郵便訴訟の原告の1人で、千葉県の郵便局で13年間契約社員として働いてきた宇田川朝史さん(55)。2007年10月、千葉県の郵便局で時給制の期間雇用社員となり、ゆうパックの集配業務を行う。同僚の契約社員が脳梗塞で倒れ、リハビリをするも麻痺が残り、復帰できずに退職。宇田川さんは「会社から手当があれば、もう少し治療に専念できたのでは」と訴える。

 日本郵便社員の割合は、正社員が約19万3000人(51%)で、契約社員が約18万5000人(49%)。正社員の諸手当としては、扶養手当は月額1500円~1万5800円/人、年末年始の勤務手当は年末4000円/日・年始5000円/日、祝日給は年始勤務の賃金割増、夏期・冬期休暇は各3日、病気休暇は有給・年間90日まで(契約社員は無給・年間10日まで)となっている。

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 今回、5つすべてについて「不合理な格差」で違法だと判断され、訴えが全面的に認められた。宇田川さんは「これは率直にうれしい。正直ここまで勝てるとは思っていなかった」と安堵の表情を見せた。

 一方、労働政策について研究しているNPO法人POSSE代表の今野晴貴氏は「手当について、差別が不合理だと認められたことは非常に良かったと思う。ただ、他の裁判の結果で、賞与や基本給のところで差別が認められてしまったので、そこは非常に課題が大きいと思う。今回の郵政の裁判で賞与の方の差別も争っていたと思うが、最高裁判所ではそもそも審議の争点にしてくれなかった。今回判決が出ていないが、やはり郵政のところでも賞与は二審までの段階で差別を是正しないという結果になってしまっている。そこに切り込めていないという非常に大きな課題を抱えていると思う」と指摘する。

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 最高裁は13日、大阪医科大学の研究室で秘書のアルバイトをしていた女性が起こした訴訟と東京メトロの売店で働いていた契約社員らが起こした訴訟で、アルバイトに賞与を支給しないことと契約社員に退職金を支払わないことは「不合理な格差には当たらない」と訴えを退けた。「賞与(ボーナス)や退職金の支給目的は、正規としての職務を行える人材の確保などにある」としている。

 “同一労働同一賃金”をめぐり最高裁が下した判決。今野氏は「同一労働同一賃金という言葉自体、日本では特殊に使っているのでややこしい」と話す。「日本の同一労働同一賃金というのは、同じ仕事をしていたら同じ賃金にしなければならないという原則ではない。仕事の他にどんな配置転換があり得るかや、色々な会社の事情を総合し判断して同じように処遇しなければならないという話だ。つまり、仕事が同じでも色々な事情によって賃金に格差があってもいい。今裁判で争っているのは、どこまで格差が大きくても許されるのか。今回は色々な事情を判断した結果、出さなくてもいいという判断になったので、それはいくら何でもやり過ぎではないかという批判が出ている」。

■「“非正規雇用は楽”という常識すら通用していない」

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 雇用者5605万人のうち、正規雇用は3535万人(63.1%)で平均賃金は325万4000円、非正規雇用は2070万人(36.9%)で平均賃金は211万2000円(出典:総務省「労働力調査(8月)」、厚生労働省「令和元年賃金構造基本統計調査」)。総務省統計局によれば、平成元年に19.1%だった非正規の割合は、平成30年に38.2%と倍増した。

 望んで非正規雇用を選ぶ人が多いのか。今野氏は「統計上で見ると、正社員として働きたいものの非正規になっている人は多い。ただ例外はあって、もともと正社員の処遇が特に低い介護や保育などで、正社員だとサービス残業を強要されるから嫌で非正規になっているという人は現実にいる。だが、これは正社員の処遇がブラックだから非正規の方がマシと言っているだけ。ブラックか非正規か選べということ自体に問題がある」と指摘する。

 また、日本の正社員に対する企業の命令権限は強すぎるという。「正社員は断った場合に懲戒されて、それが有効になる可能性は実際にあるので、非正規の方が一見すると優遇されている。逆に非正規は簡単に解雇されたり、賃金が低かったりして、それと残業しなくていいこととはまったく割に合わない格差ではないかとずっと議論されてきた。非正規の差別がこんなに問題になる理由もそこにあって、“非正規雇用は楽”という常識すら通用していない。楽でもなく命令もガンガンされるのに、処遇だけがとんでもない格差のままだという背景も実際にある」とした。

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 格差がまかり通ってしまう背景として、会社四季報センター長の山田俊浩氏は「宇田川さんのやりがい搾取というか、日本郵便の仕事をちゃんと回さなければならないと正直に事業をやっている方がこういったものを生み出してしまう。本来であれば、もっと怒っていいのではないか」と投げかける。

 宇田川さんは「私は小包配達、ゆうパックの仕事を、現実に荷物を渡されて回っているわけだ。やってしまうからいけないという話は確かにあるが、目の前に荷物があって、それをボイコットして帰るということは労働者としてできない」との考えを示した。

 今野氏は「今議論されていることはものすごく重要な視点で、非正規で待遇が低いのに基幹化が進んでいて、重要な仕事をどんどん任されている。例えば、公務員などは部署によって8~9割が非正規ということが当たり前にあって、非正規がいないと回らない社会になっている。実際に皆ものすごく差別されているが、賃金が低くて生活ができなくても“やらなきゃ”となっているわけだ。そこに付け込んで処遇を改善しなくてもいいということがずっと続いている。世界を見ると、そういう状況にある人は実際にストライキをする。もちろん、医療などであれば人命に影響が出ないように制限を付けてやるが、とはいえそのまま我慢するとはならない。これは日本だけすごく特殊で、なぜだか分からないがとんでもない差別があっても皆我慢して頑張る。頑張るから変えようとしないということが続いている」と述べた。

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 また、「派遣業法を止めてしまえば解決すると思う」との意見に今野氏は「確かに派遣法は非正規を拡大した側面はある。しかし、今ある非正規の大半は法改正と関係なく昔からずっと自由で、日本は規制が全くない。昔はどこで非正規差別が広まったのかというと“主婦”。給料がどんなに低くても旦那に養われているという理屈でずっと正当化されてきた。これがどんどん広がり今大問題になっているが、こういうことは海外の労働組合では全部批判していった。日本の場合は、大きな労働組合が主婦ならばいいだろうということで差別に加担した。その結果として今の状況があるので、法律ではなく、そういう労働組合やどういう社会を求めていくのかという労働者のある種の主張の仕方に問題があった」との見方を示した。

■企業の労働分配のあり方が論点に?

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 今後、正規と非正規の差はならされていく方向に向かうのか。今野氏は「基本的には、正規と非正規の間の今のような賃金体系は合理性が低いと思う。もちろん全体としての賃金の総額はどうなるのかという問題はあるが、どちらにしても分配の仕方を変える必要はある。今の賃金体系で競争力が高く保たれているのかもすごく疑問」と指摘する。

 しかし、賃金体系の総額が変わらなければ、結果的に非正規が解雇されてしまわないだろうか。「裁判の中で、労働者の間の総額が変わらない前提での分配のあり方を変える必要があると言ったが、総額を変える方法は別にある。株主配当を減らしたり、経営が得ている利益を労働に分配するかどうか。あるいは内部留保を分配するかどうかがもうひとつの論点としては出てくるだろう」と述べた。

 株式会社である以上、配当などを減らすことは難しいのではないか。今野氏は「やはり自分たちの権利主張をするしかない。世界的にみても日本の労働分配率はものすごく低くて、日本だけ賃金が上がらない。ストライキの件数と比較すると、日本人は全然権利主張しないのでどんどん下げていいとなる。日本で利益を出している会社というのは、生産性を上げているのではなくただ賃金を下げているだけということがかなり指摘されるようになっている。経営努力の仕方というのもおかしな方向にいっているのではないか」との考えを示した。

ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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