「アベノミクスの継承か、修正か」 自民党総裁選、4候補の経済対策を検証
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 自民党総裁選は、各候補者が支持固めに奔走するなど、情勢はいまだ混迷している。

 29日の投開票まであと1週間。総裁選は中盤戦を迎える中、改めて4人の候補の「経済対策」について、テレビ朝日経済部の梶川幸司記者と検証する。

【映像】総裁選 経済対策を検証…給付金どうなる?

 まず主要国の平均賃金の推移(出典:OECD)を見てみると、2000年を100とした場合、韓国が約4割の伸び、アメリカとフランス、ドイツが2割前後の伸びとなっているのに対し、日本はほぼ横ばいで変わっていない。

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 一方で、企業はアベノミクスによって利益を増やしてきた。財務省「法人企業統計」によると、企業の経常利益は2012年度は48.5兆円だったが、アベノミクス推進後の2019年度は71.4兆円、コロナ禍の2020年度には62.9兆円とやや減ったものの、8年で大きく増えた。また、企業の内部留保は、2012年度の304.5兆円から、2019年度は475兆円に、さらに2020年度は484.3兆円と、コロナ禍でも増えている。

 日経平均株価は右肩上がりで上昇し、バブル後の最高値を更新する一方で、賃金は上がらず、富める人がより富むなど格差も広がっていった。梶川記者は「なんらかの分配というか、所得の再分配といったことを重視せざるを得なくなってきているのではないか。そうした思いが4人の候補の政策から見えてくると。大企業が潤えば中小企業も潤ってみんな潤う、という考え方がアベノミクスの当初にはあったが、そうした考えを修正しなければならないという思いは、何らかの形で持っていると思う」と話す。

 各候補者の政策キャッチフレーズと主な経済対策は以下のとおり。これらを踏まえ、梶川記者は各候補者の経済対策について次のように解説する。

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●河野太郎行政改革担当大臣【日本を前に進める】
<主な経済対策>
・変化の時代の成長戦略
・「デジタル」「脱炭素」で技術革新。5Gのネットワークでテレワーク
・賃金を上げた企業の税制優遇

 「河野さんは、成長戦略や規制緩和が大事だという姿勢は全く変えておらず、ここはアベノミクスや菅さんの路線とも似ている。ただ、これからは個人に目を向けていくべきだと言っている。個人の所得に視点を移す時期に来ている、ゆえに賃金を上げた企業には税制を優遇しようと。直接個人に支援金という形で配るのか、それとも企業と従業員との取り組みを見守りながら税を優遇するから賃金を上げてほしいとするのか。岸田さんとは(再分配で)アプローチの違いはある」

●岸田文雄前政調会長【新しい日本型資本主義】
<主な経済対策>
・新自由主義からの転換
・子育て世帯の住居費・教育費の支援
・看護師・介護士・保育士などの収入増

 「岸田さんは、アベノミクスは間違いだったとは言っていない。アベノミクスで間違いなく経済は成長したが、市場に任せるだけではうまくいかない部分もあったと言っている。総裁選で最大派閥の清和会(細田派)、ここは実質的なオーナーは安倍さんなので、安倍さんの支援を得るためにはアベノミクスが失敗だったとは言えない。その路線は大筋では踏襲するが、やはり規制緩和だけではダメだということで、子育て世帯に直接支援をすると言った形で、再分配が必要だと打ち出しているところに今回の特徴があると見ている」

●高市早苗前総務大臣【サナエノミクス】
<主な経済対策>
・大胆な危機管理投資。公共事業など10年で100兆円
・低所得世帯向けに「給付付き税額控除」

 「高市さんのサナエノミクスなるものは、アベノミクスの継続というよりは、加速と位置づけてもいいのかなと思う。アベノミクス“3本の矢”のうち、当初最も影響があったのが1番目の異次元の金融緩和。黒田(日銀)総裁を任命して、物価が2%になるまで金融緩和を続けると。しかし、この2%の目標というのは未だに達成できていないどころか、早期に実現できるとは、まともなエコノミストは考えていない。そこで高市さんが何を言っているかというと、物価2%が実現できるまでは、政府の財政再建の目標を凍結してもいいから徹底的にやると。何をやるのかというと、10年で100兆円の投資だ。成長戦略というのは規制緩和、構造改革というのがアベノミクスのポイントだったが、その成長戦略にも財政出動が必要なんだという趣旨が、記者会見などの説明から見えてくる。規制改革だけでは成長戦略は実現できない、とにかくお金を使って動かさなきゃいけないというのが高市さんの主張であるとするならば、サナエノミクスはアベノミクスよりも遥かに財政拡張的な性格を持っている」

野田聖子幹事長代行【多様性社会の実現】
<主な経済対策>
・国が積極的に子どもに投資。子ども対策は「成長戦略の根幹」
・すべての働く人に一律の給付金

 「野田さんも、『お金を使わないと底抜けして次がない』と、政府の財政再建の目標をペンディングして、今は気にせずにやらなきゃいけないと言っている」

 河野氏も岸田氏も政府の財政再建の目標は「先送り」せざるを得ないと考えていて、誰もが財政出動には前向きだ。河野氏は「GDPギャップ22兆円の解消」、岸田氏は「数十兆円規模の経済対策」を訴えているが、規模ありきの財政出動には懸念も出ている。

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 コロナ禍で国民の関心が高いのが、給付金だ。この点について、河野行革担当大臣は「コロナの影響を受ける世代に給付金(デジタルで早期に支給)」、岸田前政調会長「生活困窮者らに給付金」「中小企業に家賃支援・持続化給付金」、高市前総務大臣は「生活困窮者に10万円を支給」、野田幹事長代行は「すべての働く人に一律の給付金(クーポン検討)」などと、それぞれ前向きな姿勢を示している。

 しかし、梶川記者は2点注意が必要だと促した。

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 「速やかに配るということだが、特に時短営業に協力した飲食店への支援金を配るのが遅いという批判が今もあるし、去年は10万円の特別定額給付金の支給に手間取って、デジタルの遅れが批判された。デジタル化で給付金を支給するのは大いに進めるべきで、実際に今、低所得世帯の子育て支援で一部活用が始まっている。これを広範囲にやろうとなると、マイナンバーと銀行口座の紐付けであったり、マイナンバーカードの普及であったりと、一朝一夕にというものでもなく、年内の実現は厳しいと思う。できるだけ早く進めるべきだが、なかなか時間がかかってしまう。

 そして、もっと問題なのは、生活に困った人、困窮者とは一体どういう人のことを定義するのかということ。例えば、去年に10万円を配る前は、困窮する世帯に30万円を配るということだったが、困窮する世帯とはいわゆる住民税の非課税世帯などを1つ念頭におきながら、去年と比べてこれだけ収入が減った人たちという目安を示した。当時、それを取りまとめたのが岸田政調会長だが、結果的には分かりにくいということで、国民全員に10万円を配ることになった。何をもって10万円を配るのか、例えば、ひとり親など分かりやすい定義ではない場合、政治的に大きな論争、調整が必要になる。ある財務省の幹部は『選挙前に所得で線を引くなんてことができるわけがない。弾かれた人たちは黙っていない。だから政治的には無理だ』と。どれだけの人たちにいくらで、というのはみんな知りたいが、そこは多くの候補が言葉を濁している。困っている人に迅速に給付をするというのは非常に大切なことだと思うが、この線引きは難しいので、言うだけに終わらないように注意深く見ていく必要がある」

ABEMA/『倍速ニュース』より)
 

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