「百面相」という言葉がふさわしい。元乃木坂46メンバーで、現在は俳優業に力を入れている西野七瀬の魅力がまた一つ花開いた。テレビ朝日とABEMAが共同制作する主演ドラマ『言霊荘』で西野が扮するのは、言葉の力を信じ、人々の幸せを願う、夢見がちで天真爛漫な天然女子・歌川言葉。「喋るのが苦手」と公言する西野の静謐なイメージとは真逆のキャラクター。ところが西野は、サイコパス『あなたの番です』、キャバ嬢『孤狼の血 LEVEL2』で自我の殻を破ったように、ここでも新たな扉を開いている。
歌川言葉は女性限定マンション「レディスコート葉鳥」の7号室へ移り住んだことをきっかけに、マンション内で発した言葉が現実になるという怪奇現象に巻き込まれる。性格も職業もバラバラの女性住人たちが“言霊”の魔力に恐れおののくのだが、歌川言葉は怪異を前にしてもどこかあっけらかん。それは苦境にあっても常に前向きで、ポジティブな言葉の力を信じているからだ。ネガティブな言葉を発する住人をたしなめ、自分のみならず周囲に幸せが訪れることを心底願っている。天真爛漫を絵に描いたようなキャラクターだ。
その前向きな性格が一目でわかるのが、第1話冒頭で展開される動画配信場面。“底辺”動画配信主という顔を持つ歌川言葉は、言葉の実験と称して二つのリンゴに対してそれぞれネガティブな言葉とポジティブな言葉をかける。ネガティブな言葉をかけられたリンゴはすぐに痛み、ポジティブな言葉をかけられたリンゴは腐らないという非科学的な説を立証してみようとする。もちろんその説はもろくも崩れる。しかし歌川言葉はとにかく明るく、常に恵比寿顔。どんなことに対してもプラスの精神で真剣かつ朗らかに向き合うことが見て取れる。西野はいわゆる明るい人物像のパターンをなぞりつつも、冷静さを混ぜ込んでオーバーアクトすれすれのラインで抑える。天真爛漫さを表出する際の微調整が巧みだ。
西野のイメージといえば、積極的に前には出ず、周囲を俯瞰しながら冷静、ひょうひょうとしているというクールな姿。ところが『言霊荘』での西野はとにかく饒舌だ。自称霊能者の中目零至(永山絢斗)とのやり取りの中では、その饒舌さを活かして攻めのツッコミポジションに回る。二人の会話場面はさながら夫婦漫才。永山のボケに対して西野は、グループ時代に培ったリズム感とお笑い大国・大阪出身者ならではの抜群のテンポ感で応酬する。
ボケとツッコミの心地よいラリーの間を掴む勘と反射神経の良さは、これまでのキャリアの蓄積と西野持ち前のセンスのたまものだろう。演者としての偏差値の高さを垣間見ることのできる興味深いシーンだ。歌川言葉の配信チャンネルのタイトルは『歌川コトハの引き寄せチャンネル』。今回のドラマを通して、西野の新たな魅力に引き寄せられる視聴者も続出することだろう。