10月中旬以降、新型コロナウイルスの一日あたりの感染者が連日で3万人を超えているロシア。25日にはこれまでで最も多い3万7930人となり、過去最悪の感染状況となっている。死者は1069人だった。
こうした中モスクワでは、28日から11月7日までロックダウンが行われ、生活必需品を販売するスーパーマーケットや薬局などを除き、カフェやレストランなどが閉鎖される。
ここまでの感染爆発が起きている一方で、国民には緊迫感がほとんどないという。ロシアの状況について、ANNモスクワ支局の前田洋平支局長が伝える。
Q.ロシアは相当深刻な状況のようだが、市内の現状は?
モスクワ市内は28日からロックダウンになるが、そんな雰囲気もなく、人々はマスクをせずに歩いている。プーチン大統領は28日からの11日間(11月7日まで)、「非労働日」というものを設け、仕事をしないように呼びかけた。ロシアの人たちは怖がって家の中に閉じこもるかと思いきや、もう喜んでしまって、旅行業界がアップアップの状態になっている。特にエジプトなどは寒い時期に人気があって、エジプトの高級ホテルは満室になったというニュースも出てきている。
Q.街中のコロナ対策はどうなっている?
一部、ファーストフードのレストランや小さい店では、入店を制限して外に行列ができていることがある。ショッピングセンターなどでも、中に入る時は必ずマスクを着けるよう呼びかけて、していない人には手渡すということをやっている。ただ、ショッピングセンター内のフードコートのようなところでご飯を食べるとマスクを外してしまい、出てくる時にはみんなマスクをしていないというような、入口と出口で雰囲気がまったく異なっている。
一方で、ロシアが力を入れているのがワクチン。ショッピングセンターの中やそこら辺のスポーツ競技場など、至るところにワクチン接種会場が設けられている。ロシア人だったら身分証明証さえ持っていけばいつでも簡単に打てる体制はできている。
Q.ワクチンの接種状況は?
ロシアは世界で最初に作った国。なので一番早いと思いきや、まだ全国民の3割程度しか接種していない。ロシアはワクチンを世界で一番早く出すんだと焦って、治験といったものをすっ飛ばした。それにロシアの人は「これは危ないものなんじゃないか」と怖がってしまって、なかなか接種をしない。もともと政府が提供するものに抵抗があり、政府を信用していないという中で、まだ3割の接種に留まっている。
ロシア内では、基本的には国産のワクチンしか打てないが、「スプートニク」を打って仮にヨーロッパなどに行った時に、ワクチンを接種したと認められない。そのため、ロシアのビジネスマンや出張がある人などは困ったということで、今動きがあるのがセルビアだ。セルビアは旧ソ連圏でヨーロッパでもあるということで、ロシアからの人も受け入れてワクチンが接種できる。しかも、そこにはファイザーやモデルナなどヨーロッパのワクチンがあるということで、ロシアの人がセルビアに行って外国製のワクチンを打つということが流行っている。
Q.コロナ対策といえばよく話題にあがるのが「大規模イベント」だが。
私も相当気になって、今回大規模イベントに潜入取材してきた。モスクワで行われた大規模イベントだが、入る時にまずワクチン接種証明か、PCR検査での陰性証明が必要になる。私も急ぎ、4000~5000円かけて24時間で結果の出るPCR検査を受け、QRコードを取得した。
しかし、実際に行ってみるとほとんどチェックされなかった。ほぼスルーで入っていくと、イベント会場は席がぎゅうぎゅう詰めで、大変な興奮に包まれていた。さすがにアルコールの提供はないが、食事は売っているので、先ほど話したように食べながらマスクを取ってそのまま忘れてしまうのが実態だ。
これらを見ていて、私も感染が抑えられるとは到底思えない。さらに、ロシアはこれからどんどん寒くなっていく。建物の換気も悪いので、(感染者数が)急激に上がっていくのではないかと思われる。でも、ロシアの人々にはあまり緊迫感がない。
Q.イベントのチェック体制が甘いと不正も起こるのでは?
私がQRコードを取ろうと思った時に、ロシア人の知り合いが「君QRコードがないんだったら僕の貸してあげるよ」と声をかけてくれたが、さすがに断って自分で取った。そういったある意味善意の人もいれば、規制があるところにビジネスありということで、QRコードを売ったり作ったりするものも生まれている。
規制として、配達の人やタクシー運転手など、いろいろな人と接触する接客業の人たちにはワクチン接種を義務付けている。しかし、ワクチン接種に来ている人は「仕事でどうしても必要だから」という人が多く、中には嫌々やっている人も多い。こうした人の中で、QRコードの売買などが盛んに行われているのではないかと指摘されていて、ロシア当局も目を光らせている。
Q.それだけの感染状況で医療体制は機能している?
モスクワの人たちに緊張感がないことの1つに、実は医療体制がギリギリまだうまくいっているということがある。例えば、モスクワはかなり大きなコロナ専用の病床を作ったり、病院にコロナ対応をするよう簡単に指示ができる。毎回8割、9割埋まっているという報道は出てくるが、まだ多少余裕はあるという感じだ。
25日にモスクワでコロナ診療の拠点となっている病院に取材に行くと、1年前は患者が入れずに救急車が大渋滞を起こしていたが、今回は混雑しているとか救急車が渋滞しているような様子はなかった。一部地方ではすでに医療崩壊が起きていて、悲惨な状況になっているようだが、モスクワはそこを持ちこたえている。しかし、これからどうなるかというところだ。
これはロシアの人たちなりの感覚というのか、コロナで重症化することに関してそこまで恐れていない。ある人から聞いたのは、「それは病気でしょ。ここ1、2年見てきたわかったよ。ある程度は重症化してしまうかもしれないけど、それは病気にかかったってことだよね」と。極端に怖がってすべてを制限して、人との交流を断つということよりも、ワクチンを打つことよりも、普通に生活しようと思っているロシアの人は意外と多い。(ABEMA/『アベマ倍速ニュース』より)