「自分にも可能性があるんだなって」 女子少年院に入った少女、勉強を通して立ち直りへ 支援には課題も
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 関東の女子少年院で生活する、さくらさん(10代・仮名)。この秋、高校卒業程度認定試験、いわゆる「高卒認定試験」に向けて勉強していた。警察沙汰を起こして保護処分となり、少年院に入ったさくらさん。

【映像】女子少年院で生活するさくらさん(仮名)を取材

 「周りに流されたり自分の意見を持たなかったり、自分が面倒くさいと思ったら大事なことでもすべて投げ出していた。将来もずっと不安。不安定な生活設計しかできていなかったです」

 「自分勝手なことをしたと思います」、そう振り返るさくらさん。女子少年院には、窃盗や傷害などの非行で保護処分となった少女たちが生活している。平均の在院期間は約11カ月。女子の場合、男子に比べて親などから虐待を受けたケースが多いと言われている。

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 大人への信頼を作り直すため、個別担任の教官がじっくり関わり、家庭的な雰囲気のもとで教育や職業訓練に力を入れている。取り組みのひとつが高卒認定試験。合格すれば、大学への進学や公務員試験の受験など、社会復帰に向けた選択肢が広がる。

 試験が迫った11月。少年院と連携するNPO法人が、さくらさんの学習支援をしていた。使う参考書はその都度、入念にチェックされる。

 さくらさんはここで生活するうちに、大学に進学して児童養護施設の職員になりたいと考えるようになった。きっかけは、図書室で手に取った本だった。

 「子どもたちがいろんな思いで施設に暮らしているんだなとか、親にひどいことをされたのにそれでも大人を信じられるんだって。(私も)ここに入ってきてからすぐは、大人のことはあまり好きではなかったので。私も一緒だなと思います。子どもたちの心の支えになれたらいいなって」

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 自分の内面に向き合う日々。勉強は、なりたい自分になるための一筋の光だ。

 「自分でも勉強ができるんだと自信がついて。今までいろんな面で自信を持っていなかったんですけど、徐々に自分にも可能性があるんだなってことに気づきました」

 非行に走った少女たちの中には、親に育児放棄され、勉強から遠ざかったケースも少なくない。

 「勉強することによって何かを得られた経験も乏しい子が多いので、必然的に勉強はあまり好んで行わない子が多いですね。学びって人の基礎をつくる上では非常に重要なものになると思うので」(さくらさんの個別担任教官)

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高卒認定試験は、合格するまで何度でも受けることができる。そこで、法務省は民間と協力し、少年院を出ても希望すれば最長で1年間、個別に学習を支援する事業に乗り出した。少年院を出てからの生活には難しさもあり、大人が見守ることで心の安定につながる面もあるという。

 「社会に出た時に、『やっぱりここでは受け入れてもらえないんだ』と感じてしまうことは結構あるんですね。『受け入れてあげるよ』っていうふうに言ってもらえる大人たちの存在ってすごい大事なので。勉強を見てもらうことによって、『私はまだ見守ってもらえている』という安心感につながることは確実にあるんじゃないかなと思います」(同)

 11月、さくらさんは少年院で高卒認定試験を受けた。

 「試験当日は緊張してたんですけど。でも、2日目になってくると緊張がほぐれて、自分の力を発揮できたなと思います。(社会に)受け入れてほしいからこそ頑張るという気持ちでいます」

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 こう話したさくらさん。「(高卒認定試験に)もし受かったら?」という質問には、「まず最初に担任の先生に報告したい。そのあと家族に手紙を書いて……。『あんなにすぐに投げ出してたのに、よく頑張ったね』って、たぶん褒めてもらえるかなって」と話した。

 過去を背負いながら、過去と向き合いながら、さくらさんは少しずつ前に進んでいる。

■少女らの立ち直り支援には課題も

 女子少年院の知られざる実態について、さらにテレビ朝日社会部の内紀恵記者に詳しく話を聞く。

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Q.さくらさんの試験の結果は?
 今月、無事に合格通知をもらって、とても嬉しそうな様子だったと聞いている。今後は大学受験に向けて、勉強を頑張っていくということだ。

 今回、さくらさんからゆっくり話を聞くことができたが、小学校の頃に勉強についていけなくなったそうだ。少年院に入ってからすぐの頃は、高卒認定試験に対しても消極的だったようだが、担当の教官から少しずつ背中を押されて、だんだん勉強するようになって、徐々に自信をつけていった。勉強の機会がなかった女の子の場合には、その機会さえあればどんどん勉強できるようになるケースも多いということだ。

Q.そもそも女子少年院とはどういう施設?
 少年院は全国で約50施設あるが、女子少年院と言われているものは9施設しかない。少子化もあり少年院に入る子たちの数は年々数が減っていて、収容されているのは2019年の時点で男子が約1600人、女子は約130人。女子少年院に入るのは、おおむね中学生以上の12歳から20歳前後、23歳ぐらいまでの女の子で、非行の程度によって施設がざっくりと区分けされている。

Q.女子少年院の子どもはどういう生活をしている?
 女の子たちにはそれぞれ個別の担当教官がついて、非常にその人との距離が近く、まるで親子のようというか、信頼関係が成り立っているのが印象的だった。

 女子の場合は、男子と比べて親などから虐待された経験を持つ子が多い。法務省の調査では、男子の35%が虐待を受けた経験があると答えたが、女子の場合は55%がそうした経験があると答えている。そういう大人への信頼感が持てない環境で育ってきた子が多く、まずは担当教官がじっくり向き合って信頼関係を築くことが一番大事なことだそうだ。それから、落ち着いて自分の内面や将来について落ち着いて考えさせるようにしているという。

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Q.少女らの立ち直り支援の課題は?
 今回は高卒認定試験に焦点を当てたが、再非行や再犯を防止するためには、やはり社会での居場所が大事になる。大人でも同じだが、生活する場所、そして仕事が大事になってくるので、そのためにはある程度の学力も必要だろうということで、少年院では教育に力を入れてる。

 ただ、女子の場合、少年院を出ても就職する場所というのがまだまだ少ないと言われている。少年院を出たあと、女の子たちから「少年院では受け入れてもらえたのに、社会では受け入れてもらえない」という声がよく寄せられるそうだ。居場所が見つからず、生活基盤が不安定な女の子の場合は特に、心が弱っている時に悪い誘いがあったり、優しくされて付け込まれたりして、結局また悪いことをしてしまうという負の連鎖が起きやすい。ここは女子の特性だと言えると思う。

 教官の方々は、少年院を出た女の子たちのことを気にかけているが、これまではなかなかこちらからアプローチすることができなかった。この8月から法務省が学習支援をするというかたちで、出た後の1年間は勉強を通じて見守るような事業に乗り出すということで、少年院側としても期待しているとのことだった。(ABEMA NEWSより)

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