2021年、店舗やビルなどに車が突っ込む事故が相次いで報じられた。昨年12月26日時点で、テレビ朝日系列に入ってきた突っ込み事故は64件。月に5件のペースにのぼる。ニュースでは主に突っ込んだ側の事情は報じられるが、突っ込まれた側の情報はあまり伝えられない。そこで、車の突っ込み被害に遭われたある飲食店を追跡取材したところ、事故をきっかけとして、25年ぶりに音信不通だった娘との再会を果たし、幸せな再出発を果たしたオーナーに話を聞くことができた。
昨年8月、栃木県真岡市で職務質問から逃走した車両が焼き肉店に突っ込む事故があった。事故当時は営業時間外だったこともあり、幸いにもけが人はいなかったが、店舗は無残な姿に。およそ4カ月が経過し、店舗の改装は進むが、突っ込まれた店舗の外壁に張られたベニヤ板には『臨時休業』の文字が見て取れる。
美食磊茘(びしょく らいらい)の代表である稲川栄子さん(70)、マスターの操さん(84)を取材に訪れたのは12月。店内はまだ改装の最中だった。同店は栃木県内で飼育された黒毛和牛「とちぎ和牛」のみを提供する創業20年の店舗。栄子さんによると、車に突っ込まれたのは、コロナ禍で続いた苦境を一転すべく、店内を改装した直後の出来事だったという。事故直後に現場の様子を映像に残した稲川さんは、カメラを回しながら「あまりの変わり果てた姿に呆然としています。言葉も失いました。どう立ち直してよいかわからない。なかなか…なかなか…次への目的を探すのには時間がかかります」とあまりのショックで一時は絶望した心境を語っている。また、当時を振り返って稲川さんは「ただただコロナでも大変なのに、こんな事故が起きちゃうと先が真っ暗になった。(修繕費用は)完全に終わってないけど、1000万円くらいは」とも。
保険にも入っていが、適用されたのはおよそ500万円。足りないところは自腹だという。じつはこの店舗、これが初めての被害ではない。6年前にも飲酒運転の車に突っ込まれており、今回が2回目となる。1回目の事故も、店舗を改装した後の被害だったという。
度重なる突っ込み事故にもめげず、前を向いて立ち上がってきた稲川夫妻。災難にも負けず事故による廃材を生かして改装を進める中、嬉しいこともあった。それは、さまざまな事情から親子の縁を絶っていた娘さんとの再会だ。
およそ25年ぶりの音信不通を得て不幸な出来事が紡いだ親子の絆。そのことについて稲川さんが「約25年、26年ぜんぜん音信不通でした。何十年と顔も見ていなかった」と苦笑いを浮かべながら話すと、娘の愛美さんも「それぞれの道で、それぞれに」と多くを語らず、短く応じた。
愛美さんは事故をきっかけに稲川さんの孫となる自身の娘・弥桜さんを連れて母のもとへ手伝いに駆け付けた。「今まで放っていたことが多いので、これからは少しでも力になれればと思って。娘と一緒に頑張っていこうと思います」とその理由を明かした。
娘親子は、店をオープンできない両親をアイデアで手助け。通販サイトを立ち上げ、SNSの使い方も伝授するなど、PRを開始した。そのことについて「事故をきっかけに母との距離がぐっと近くなった。よい方に考えれば、引き寄せてもらったのかな。喧嘩もしたけど、楽しかったです」とは愛美さん。
すると、二人の横で「大いにケンカしてくれ。親子喧嘩なんだから」と操さん。マスク越しでもわかる満面の笑みで嬉しそうに話してくれた。
そんな操さんにはいま、ささやかな夢があるという。「楽しく長続きすればね。将来継いでもらえるようになってから…」と娘や孫に視線を遣りながら照れくさそうに話した操さんに対して、孫の弥桜さんは「継ぎたいな~、みたいな」と微笑み返す。娘の様子を見た愛美さんも「2人を支えて、お店を大きくしていければと思っている」と本音を明かした。
「こんな日が来るなんて思ってもなかったので、何とも言えません。大きな苦しみだったかもしれないけど、大きな幸せもつかみました。(娘親子の力を借りて始めた通販は)始まったばかりだから…売り上げは低いです。年金を投入しながら頑張っています」
幾度の困難を乗り越えてきた栄子さん。不幸の事故が繋いだ親子の絆の力を得て、再出発に向けて改めて前を向いた。(ABEMA『ABEMA的ニュースショー』)
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