北京オリンピック開幕まで3週間あまりとなる中、北京市は新型コロナ感染対策として、市民が大会関係者の車と事故になった場合に当事者同士で接触しないよう異例の注意喚起をした。
北京では大会関係者の入国が始まっている。北京市の交通当局は、大会関係者を乗せた専用車両と事故になった際に「車両や乗員との接触を避け、専門スタッフの到着を待ってほしい」と市民らに注意を呼びかけた。
感染対策として「バブル方式」を徹底したかたちだが、けが人の搬送や事故の処理が遅れる恐れもある。さらに、コロナの感染拡大で緊張が高まるできごとも。ANN中国総局の北里純一記者が現地から伝える。
Q.中国の感染状況は?
今、中国では複数の都市でコロナの感染が拡大している。その中でも問題となっているのが、北京市に隣接する人口1400万人の天津市。天津ではこの4日間で感染者が64人、そのうち2人がオミクロン株だと判明している。数自体は日本からするとそこまでだと思うが、“ゼロコロナ”の政策を続けている中国からするとかなり衝撃的な数字になっている。
それを表しているのが、天津で9日に撮影された映像。スーパーや市場が買い出しに来た人で殺到していて、棚からは商品がなくなっている。感染拡大を受けて買いだめに急いでいるという光景だが、今後ロックダウンで厳しい外出制限がかかることを警戒している。これは大げさではなく、少し前に別の街で起きた状況があまりに容易に想像できるからだ。
人口1300万の西安市では、先月中旬から全市でロックダウンが始まった。そのタイミングでは2日に一度の買い出しが認められていたが、その後禁止され、配送能力の不足もあってSNS上には「冷蔵庫の食料がなくなった」「食料が足りない」といった書き込みが溢れた。
さらに、食料がなくなったためこっそり買い出しに出た人が、帰ってきたところで係員に見つかり暴行を受けるシーンが撮影された。そしてもうひとつ、陰性証明の期限切れで妊婦が受診を拒否され、死産してしまうということが発生した。この妊婦の一件で市民からの批判が抑えられない状況となり、当局の責任者が会見で頭を下げて謝罪するという中国では異例の事態となった。
中国では基本的にSNSは検閲され、問題があると削除されたりする。それでも抑えきれないほどに批判、不満が高まっているというのが表面的にも見えてくるということは、実際にはかなりの問題だったことが容易に想像できる。
Q.なぜそのような状況になっている?
問題の本質は、地元政府が「感染対策至上主義」ともいえる対応をとったこと。いわゆるゼロコロナ政策を続ける中、感染対策の失策による処分を恐れ、対策をより厳しく、画一的に行ったことで、コロナとは別のかたちで命が奪われる結果となってしまった。
オリンピックの開幕まで3週間あまりとなった北京でも同じような傾向があると感じたのが、冒頭のニュース。大会の期間中、関係者はステッカーを貼った専用バスなどで移動することになるが、この車両と事故を起こした場合は、「相手車両から乗員を降ろしたりせず、専門のスタッフの到着を待ってほしい」との注意喚起を行った。当局としては、けが人の搬送や事故の処理が遅れる恐れがあるとしても、感染対策を最優先させるという方針を明確に示したかたちだ。
Q.選手や関係者は多少自由に外出できる?
東京大会ではそんなこともあったが、北京では不可能。建物は厳重に監視されていて、違反すれば参加資格のはく奪なども行われるだろう。数日前には「コロナに感染したスペインのオリンピック選手が繁華街で遊んでいる」といったデマが広まり、当局が対応に追われた。今北京でコロナの感染者が確認されれば、非常に厳しい措置が即座に取られることは間違いなく、市民は敏感になっている。
Q.会場への観客の受け入れは?
観客を入れる場合は「国内在住の人に限る」という方針はすでに発表されている。習主席も今年に入り、「現地での観戦は大きな制限を受けることになる」と発言しているが、チケットの販売や具体的な感染対策などについては、開幕まで3週間あまりとなった11日の会見でも組織委員会は「検討中」との回答にとどまっている。
ただ、今SNSがざわついているのが、実は水面下ですでに観客の登録などが進んでいるという指摘。SNSでは中国国営企業の中で配布されているというフィギュアスケートの試合への「招待状」が投稿されていた。招待状には試合を観戦するための感染対策が羅列されていて、「試合の14日前から北京を離れてはいけない」「試合の前後で複数回のPCRを受けなさい」といったことが書いてある。
コロナ対策を含め混乱を避けたい政府としては、チケットの販売を全国民に開放するよりは、身元がはっきりし、統制をより効かせやすい範囲にとどめたほうがスムーズという考え方もあるかもしれない。とはいえ、チケットを国内の誰でも買えるようなかたちで販売するとはこれまでも公式に言っていなかったで、ある意味矛盾してはいないのではないか。
Q.どんな感染状況でも北京五輪は開催される?
どんな手を使っても開催はすることになるはずだ。これを成功させることが、今年の党大会で異例の3期目に入る習近平総書記(国家主席)の実績づくりにも大きな意味がある。成功以外はありえないというのが大前提だ。