親が離婚した後の子どもの養育に関して総会を開いた「共同養育支援議員連盟」。ここで警察庁の担当者が、離婚を巡り、どちらかの親が合意なく子どもを連れて別居してしまう「連れ去り」、そして連れ去られた子どもの「連れ戻し」について、「正当な理由がない限り、未成年者略取誘拐罪にあたる」と明言したのだという。
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これを受け、会長の柴山昌彦衆議院議員(自民党)が「片親による子の連れ去りについて警察庁はこれまで『法に基づき処理』一辺倒だったが、昨日ようやく、同居からの連れ去りか別居からの連れ戻しかを問わず、正当な理由がない限り未成年者略取誘拐罪にあたると明言。これを現場に徹底するとした」とツイート。しかし、この投稿が波紋を広げているのだ。
■駒崎弘樹氏「これは本当にまずいことになる」
NPO法人フローレンス代表の駒崎弘樹氏は「これは本当にまずいことになる。本当はDVの加害者を捕まえるべきだが、現行のDV防止法は大変弱いため、被害を受けている方々は逃げることしかできないし、子どもを置いていくわけにはいかない。それなのに、柴山さんのツイートは“被害者が逃げたら犯罪になりますよ”ということを示唆するような内容で、政治家として何を考えているのだろうかと言わざるを得ない」と批判する。
一方、議連のメンバーでもある梅村みずほ参議院議員(日本維新の会)は「私も日々Twitterを使っている身としては、140文字の限界を感じることがあるし、言葉選びは大変難しい。柴山さんに関しても、そういう意図はなかったものの、そのように受け取られてしまったということだろう。私は女性という立場からも当然DVは許さないし、命の危険が及びそうな方には逃げていただきたい」とした上で、次のように説明した。
「特に共同養育支援議員連盟の中で問題になっているのは“子の連れ去り”で、ここには“虚偽DV”という問題も絡んでくる。日本が1994年に批准した『子どもの権利条約』の9条では“父母から分離されない権利”が謳われているし、やはり同意なく、いきなり子どもを連れ去るというのは問題があるし、連れ戻すことも含めて未成年者略取に当たると思う」。
しかし駒崎氏は「全く違う。DVによって殺されそうだという時でさえ、取れる手段は逃げることしかない。それを委縮させるような発言をしてしまっただけでも、悪質だと言わざるを得ない。政治家がやるべきなのは、被害者を守れていない状況を変える法整備をすべきだ。そして“虚偽DV”の話をされたが、年に何件あるのか。そのエビデンスなく、DVを受けた方々は嘘をついているかもしれないとおっしゃっているのではないか。“虚偽いじめ”という言葉や、“虚偽パワハラ”という言葉があるだろうか。なぜDVだけ“虚偽DV”という言葉が出てきて、加害者を守るかのような政策を議論するのか」と投げかける。
梅村議員は「いじめでも同様の問題は起こっている。昨年、愛知県で中学3年生の男子生徒が同級生に刺殺される事件が起きたが、加害者は“いじめを受けていた”“生徒会に立候補するにあたって応援演説をしてほしいと頼まれたのが嫌だった”と供述したという。よほど腹に据えかねることがあったのかもしれないが、多くの方は、これがいじめに当たるとは理解できないのではないかという意見もある。それでも、いじめ防止対策推進法では、被害者がいじめだと思ったらいじめだとされている。DVについても、立法府としては限界に挑むような議論を迫られることになるだろう。DVとは何なのか、線引きが大変難しい問題があるが、そこに挑まなければいけないのは確かだ」と答えた。
■梅村みずほ議員「DVがあったかどうかと合わせて考えることが必要だ」
ここでジャーナリストの堀潤氏は、駒崎氏の疑問を引き受ける形で「このままでは、本当に子どもを連れて逃げていいのだろうかと躊躇してしまうお母さんやお父さんが出てきてしまうかもしれないが、”そういうことはないから安心してほしい”という話なのか、”確かにそういう懸念もあるので、もう少し法律の中身や運用の仕方の議論が必要だ”という話なのか」と問題提起。
すると梅村議員は「刑法の224条に照らして、“正当な理由にあたる”という前提の下であれば、柴山議員のおっしゃる通りだと解釈するが、やはりDVによって身体に重大な危害が及ぶ可能性がある場合には、お子さんと一緒に逃げて未成年者略取にあたらない。警察でもいいし、コンビニだっていいので、とにかく逃げ込んでほしいというのが本心だ」と強調した上で、こう続ける。
「この問題は共同養育、共同親権の問題とも複雑に絡み合っているので簡単には説明できないが、子どもが片方の親とずっと一緒にいる状況が継続すると、後に離婚となった場合に親権、監護権に有利に働くという問題が出てくる。そうしたことも踏まえて共同養育支援議員連盟で提案したのは、子どもを連れて逃げてください、シェルターに入らなくてはいけない場合は入って下さいと。そういう時は親のメンタルが不安定に決まっているが、子どもも同じく不安定になってしまうはずだ。そういう時は、安全を最優先に考えて児童相談所に身柄を渡し、落ち着いた状態になってから、法に照らし、DVがあったかどうかと合わせて考えることが必要だと思う」。
堀氏は重ねて質問する。「ネグレクトなどの場合、外からは見えづらいが、現場に踏み込んだ警察官たちが判断できるだろうか。駒崎さんが指摘するように、当局が“安心してほしい。いきなり逮捕することはないから”と冷静に対処をしてくれるに違いないという前提で制度を走らせようとしているのか」。
これに梅村議員は「身体的DVに関しては配偶者暴力防止法で認定要件があるが、まさにご指摘いただいた点が危うい、不十分だということで、今国会にDV法改正案が出されようとしている。内閣府男女共同参画局も頭を悩ませながら一生懸命に議論している段階だが、皆さんにも意見を伺いたい」と応じた。
■梅村議員「子どもと長い間会えないというのは相当な精神的苦痛になる」
ここまでの議論を受け、千原兄弟の千原せいじは「そもそも僕は日本の感覚がものすごくずれているなと思っている。海外では加害者を逮捕したり、隔離したりして終わりで、被害者や子どもたちは今まで通り、住んでいなさいとなる。なんで被害者がシェルターに逃げ込んだり、隠れて生活しなければならないのか。虚偽DVがあるからと言うが、命を救うことが先にあるべきだし、後で虚偽だったとわかっても、それはそれで良いではないか。数字で言っても、虚偽よりも死ぬまで治らないような心の傷を受けた人の方が多いはずだ。傷ついていないのに傷ついたと言っている人がいる、それを見分ける方法が難しいからと言って、実際に傷ついている人を救うために時間をかけるのはひどいのではないか」と憤る。
これに駒崎氏は「おっしゃるとおり。DVの相談が20万件、実際にDVを受けて苦しんでいるケースが8万件という状況で、いったい何人が虚偽DVだったのか、という話だ。身体的な暴力しか認められなかったのが、ようやく精神的DVや性的DVにも範囲を広げて保護しようという方向になりそうな中、柴山さんは“精神的DVを加える際は要件を明確化し、認定プロセスの適正性を保障して、真に救済されるべき方を救うようにする”と発信した。すでに厳格過ぎて使い勝手の悪いDV防止法をさらに厳格にし、間口を狭くしようとしていることは本当に憂うべきことだ。被害者の立場に立つのではなく、むしろ加害者の側に立つような方向で話を進めてしまおうとしているという懸念がある共同養育議連は信用できない」と賛同した。
こうした意見に、梅村議員は「せいじさんはじめ視聴者の皆さんにも知っていただきたいのは、”虚偽だったね、ちゃんちゃん、でいいじゃないか”と思うかもしれないが、連れ去られた結果、血を分けた子どもと長い間会えないというのは相当な精神的苦痛になるし、命を絶つ人もいるくらいだ。もちろん、最初に共同養育・共同親権の話を聞いた時は、私も“あれ?命からがら子どもと一緒に逃げてきた女性はどうなるんだ”と引っかかった。でも、虐待事件で犠牲になった船戸結愛ちゃんの場合、“前のパパがよかった”という発言があった。前のパパと会えていたら命が奪われなかったという保証はないけれど、片方の親と会えなくなるということは、さらにその親である祖父母とも会えなくなるということだ。シングルマザーと内縁の夫と一緒に住んでいる小さなお子さんが命を落としたという事案にも、実は密接に関係しているのであろうというふうに思っている」と反論した。
■駒崎氏「被害者が逃げ続けなければいけない国なんだ」
さらに千原せいじは「先に連れ去った方が勝ちみたいになっているのであれば、そのルールを変えたらいいだけのこと。施設を経営している友達がいて、そこには助けてあげた子どもがいっぱいいるが、叩かれても叩かれても“ママのところに帰りたい”と言って戻り、しばらくしたらまたボコボコになってやって来る。そういう親とは引き離すようにしないといけないし、命に関わることだからこそ、ポンポンと進めなければならない」と主張。
駒崎氏も「船戸結愛ちゃんのケースを出されるのは不適切だ。結愛ちゃんの元父親は奥さんに精神的DVを加えていて、離婚後もお金をせびり、“お金を払わないんだったらキレるからな”と脅し続けてきた人だ。その人と会っていたら結愛ちゃんは殺されなかったかもしれませんというのは、このケースを本当に理解していないと言わざるを得ない。そんな単純なものではない。虐待死を防ぐためには児童相談所の強化や子育て支援の充実させるなど、やらなくてはならないことが本当にたくさんある」とした。
改めて梅村議員は「私は国会議員になって2年半になるが、司法はこんなにも杜撰だったのかと思うような事例もたくさん見てきた。一方が虚偽DVだと主張しているケースについて、適正な審判が下されていないと思うこともある。それは警察も同じだ。なぜこの件は罪に問われ、なぜこの件は罪に問われないのか、というものが散見される。実は私自身、父親が包丁を持って母親を追いかけている場面に遭遇したことがある。けれども立法府の人間としては、一方の主張だけを信じるということはできない。虚偽だった場合にも、命の危険性が及ぶことがあるからだ。やはり政治家としては、何がDVなのかという認定要件を定めなければならない」と主張。
一方の駒崎氏は「僕たちはDVシェルターを運営しているが、信じられないような暴力と人権侵害を受けて逃げ込んでこられる方々が日々いる。そうした方々に対して、この国はずっと冷淡だった。せいじさんもおっしゃられたように、加害者が逮捕されたり、どこかに行かされたりすべきなのに、被害者の側が子どもと一緒に逃げ続けなければいけない。そうした国なんだということを視聴者の皆さんも知っていただきたいし、この状況を我々は変えなくてはいけない。そのためのDV防止法の改正だ。一歩ずつでも進めていかないといけないと思うし、女性だからといって暴力の被害を受け続けるような、そんな社会はもう我々の世代で終わりにしたい」と呼びかけた。(『ABEMA Prime』より)
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