負けたからこそ、知ることができる。強くなれる。「第1回ABEMA師弟トーナメント」の決勝戦、チーム鈴木とチーム畠山の対戦が3月5日に放送されたが、チーム鈴木はフルセットの末にスコア2-3で敗れ、惜しくも準優勝となった。この最終第5局は、チーム鈴木・梶浦宏孝七段(26)が必勝とも言える局面から、まさかのトン死で逆転負け。これに師匠の鈴木大介九段(47)が勝負の厳しさと、将棋が対人ゲームであるからこそ気持ちが大事であることを示した言葉に、ファンが即座に“名言認定”することになった。
鈴木九段・梶浦七段の師弟にとっては、まさに痛恨の逆転負けだった。スコア2-2で迎えた最終第5局。大方の予想は梶浦七段と、チーム畠山の順位戦A級棋士・斎藤慎太郎八段(28)による弟子対決だったが、登場したのは畠山鎮八段(52)。これ以上ないほど気合十分に挑んできた畠山八段に対して、第1局でも同じカードで勝っていた梶浦七段は慌てることなく指し進め、中盤以降は優勢、さらに終盤は勝勢へと近づいていった。
最終盤には畠山八段の粘りに合い、ミスをすると瞬時に逆転されるというところまで差を詰められたが、公式戦の大きな勝負でもきっちり勝ちを収めてきた梶浦七段だけに、このまま無事に逃げ切ると思われた。ところが相手の最後の勝負手に対応を誤ったところで、まさかのトン死。これにはモニタ越しに観戦していた鈴木九段も、思わず「あっ!」と声を出すほどだった。
本人も呆然となる逆転負けを喫した梶浦七段が会議室に戻ってくると、鈴木九段は決勝で2敗してしまった自分の責任だと語った後、弟子に対して、勝負の厳しさ・怖さを語り始めた。
鈴木九段 将棋でガッツは1%しか意味ないんだけど、最後に勝負を分けるのは、その1%があるっていうことだよね。(自分が)20年前に竜王とか挑戦した時に(奪取まで)あと1勝、2勝となるんだけど、結局人間同士だから、技術だけじゃない。人間力がでかいね。
将棋ソフト(AI)の導入もあり、特に序盤の研究勝負はどんどん進む。ただ中盤、終盤で力戦に入ってからは、研究外の未知の世界。さらに1手間違えば奈落の底というような最終盤の1分将棋にでも入れば、そこは精神力のぶつかり合いだ。これは将棋を人間同士で戦う以上は、この先も変わらない。勝勢になっても焦らず守りすぎず、逆に敗勢になっても諦めずに指す。棋力は高いが、この最後の部分が足りずに勝ちきれない棋士も多くいたことだろう。鈴木九段が残した「1%」についての言葉はファンの心にも響いたようで「いいこと言うな~」「人間力!」「沁みる言葉だな」という言葉が多数寄せられていた。
◆第1回ABEMA師弟トーナメント 日本将棋連盟会長・佐藤康光九段の着想から生まれた大会。8組の師弟が予選でA、Bの2リーグに分かれてトーナメントを実施。2勝すれば勝ち抜け、2敗すれば敗退の変則で、2連勝なら1位通過、2勝1敗が2位通過となり、本戦トーナメントに進出する。対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで、チームの対戦は予選、本戦通じて全て3本先取の5本勝負で行われる。第4局までは、どちらか一方の棋士が3局目を指すことはできない。
(ABEMA/将棋チャンネルより)