多くの死者を出し、国際社会から厳しい批判を浴びているロシアによるウクライナへの軍事侵攻の裏で、にわかにその存在に注目が集まっている国がある。
それが、ロシアとウクライナ両国に接するベラルーシだ。アメリカ政府は、ウクライナへの攻撃に協力したとしてロシアとともに経済制裁の対象とし、日本もベラルーシ関係者の資産を凍結するなどの追加制裁を発表。また、現在行われている北京パラリンピックにも、ロシア同様、参加が認められていないなど、国際社会から厳しい目が向けられている。
こうした状況について、ベラルーシの人たちはどのように感じているのか。ベラルーシ出身で、現在は日本で翻訳家として活動している女性に話を聞いた。
Q.ベラルーシ出身の家族や友人は今回の侵攻をどのように見ている?
私の周りは全員、戦争に反対しています。確かに、ベラルーシ、ウクライナ、ロシアという3国は歴史的にも関係が近くて、私にもベラルーシ人とウクライナ人のハーフの友達やウクライナ人の友達がいます。おじいちゃんおばあちゃんがウクライナに住んでいる人も少なくないです。ベラルーシという国が戦争に使われていることがすごく恥ずかしいし、悲しい。本当に早くやめてほしいです。
国同士でいろいろなことがあって簡単ではないし、国際関係の状況は複雑だし、一人ひとりの気持ちも複雑なんです。ただ、「どんな理由があっても戦争はやっちゃいけない」という思いが私は一番強いです。ベラルーシ人の友達のSNSでも、「ウクライナ人に謝りたい」「すごく恥ずかしくて顔を上げられない」といった言葉を目にします。
Q.そうした国民の声に対して、ベラルーシ政府は逆の立場を取っているが。
残念ながら、ベラルーシの政府は国民の声を全然聞いてくれず、政府と国民の意見は真逆だと言っていいくらいの状況になっています。私の職場の同僚は(今の状況を)わかってくれているので、「大変ですね」と優しく言ってくれますが、「ベラルーシ人が全員悪い」という意見もネットで、特にヨーロッパに住んでいるベラルーシ人がよく聞くという話も聞いています。それはすごく悲しいです。「私たちはこの戦争に反対しています」って知ってもらいたいです。ルカシェンコ大統領がプーチン大統領を応援していても、国民はそうではないということを伝えたいです。
Q.1994年の初当選から再選を続け、現在6期目を務めているルカシェンコ大統領については?
私が生まれた時からルカシェンコ大統領だったので、自分の国に他の大統領がいたことがありません。正直、私たちもイメージでしか見ていないので、どんな人かと言い切れない部分もありますが、国民をすごく下に見ている感じが強いです。例えば、スピーチの中でも「もうこの国はダメだ」という言い方をしたり、「ベラルーシ人は羊のように騙されている」と言ったり。大統領が国民にこんなふうに言うのは、他の国では聞いたことがないです。
Q.なぜ6期続けて大統領に選ばれている?
最初の数回は勝利していたと思うんですが、最近は勝利していなく、2020年に大きなデモがありました。明らかに選挙の結果が操られていることをみんながわかっていたので、国民が強く反対を示しました。
ルカシェンコ大統領は警察が強い制度をつくって、その警察がデモに参加した人たちを拘置したり逮捕したり、殴ったりとひどい目に遭わせました。反対したくても自分の命が危険な状況なので、デモに参加する人は少なくなりました。
Q.SNSで自分の思ったことを発信するのも難しい?
特に2020年のデモの時から、「大統領反対」ということを書いただけで逮捕された人がいて、だんだんみんな怖くなってしまったんです。自分が発信したものでなくても、“いいね”を押しただけで逮捕された人もいるので、言いたくても言えないです。今ロシアも同じ状況になっています。
戦争が始まった先月24日、自分のTwitterのタイムラインで、ロシア語で発信していた人たちの言語が変わっていたんです。例えば、ロシア語で書いていたウクライナ人がウクライナ語にしたり、私自身もロシア語が多かったのをその日からベラルーシ語で書くようにしました。見る人が増えるという簡単な理由でロシア語を使っていましたが、今はロシアのイメージが国際的に悪くなっていて、「そんな国の言語を使いたくない」「私たちはロシアとは違うんだ」という気持ちを込めています。
Q.ウクライナに対する思いは?
(市民の抗議活動などにより親ロシア派政権を退陣に追い込んだ)2014年から自分たちの自由を取り戻した、というふうにウクライナを見ていました。2020年にベラルーシでデモが始まった時、「もう少しでいけそう」という気持ちもあったんですが、結局ダメになって。私たちにできなかったことをウクライナができたのは羨ましいし、戦争が始まった後のゼレンスキー大統領の姿に自国民への愛情を感じて、「そんなことを言ってくれる大統領がベラルーシにもいてほしい」と思います。
(ABEMA NEWSより)