ウクライナの国内外で1000万人の避難者が出ているとされる中、ポーランドの避難所では東日本大震災などでの経験や技術が活かされている。
ポーランド・ヘウムにある避難民滞在施設に、布で仕切られた簡易的な個室が作られた。プライバシーを少しでも守るための間仕切りシステム「ペーパー・パーティション・システム（PPS）」。考案したのは、建築家の坂茂氏（64）だ。
材料は紙の筒と布。持ち運びや組み立てが簡単なことから、これまでに東日本大震災や熊本地震などの被災地でも利用されてきた。
このシステムがポーランドの避難所にわたった経緯について、坂氏を取材したテレビ朝日社会部の冨田和裕記者が伝える。
Q.坂茂氏とはどのような人物？
1994年のルワンダ内戦、95年の阪神淡路大震災から被災地支援をしていて、その時は紙で境界を作ったそうだ。その後、2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震で間仕切りシステムを考案して、約2000ユニットずつ提供した。
1995年から1999年まで国連難民高等弁務官事務所（UNHCR）のコンサルタントを務め、ルワンダ難民キャンプのためのシェルターなどを提案。その後、インド西部の地震、トルコ北西部の地震、スマトラ沖地震で津波被害を受けたスリランカ、ニュージーランドの地震などでも支援。2014年には、建築界のノーベル賞といわれる「プリツカー賞」を受賞している。
Q.ポーランドの避難所への支援の経緯は？
今回坂さんは、報道などでポーランドに多くの避難民が押し寄せている様子を見て、たまたま仕事をしたことがあったポーランドの建築家と連絡を取り、この間仕切りシステムのことを伝えた。設計書をもらったその建築家が、ポーランド国内の工場や市内の政治家などに連絡をして、紙の筒などの手配をした。避難所にはボランティアの方が20人ぐらいいたそうだが、2週間ほどで間仕切りシステム運用の避難所が完成したということだ。
この間仕切りシステムは3月中旬時点ではポーランド内の2カ所で使われていて、1カ所が東部のヘウムという都市。ショッピングセンターとして使われていたところを避難所として運用しているのと、中心部の駅内に間仕切りシステムを設置して避難所として運営している。
Q.物資は送った？それとも現地で調達？
費用面に関しては、話を受けた工場が通常の業務を全て停止して、無償で紙の筒を作ったようだ。紙の筒というのは世界中で作られているほか、コストが低いというメリットもあって、迅速に現地で調達できたということだ。
Q.間仕切りに対する現地の人の反応は？
ウクライナから来た人はいろいろな避難所へ行くが、坂さんの間仕切りを設置したのはハブになっているようなところ。電車でウクライナから逃げてきて、ポーランドでいったん一泊、二泊した後、別の都市へ中長期的に避難するが、雑魚寝状態の避難所と比べてプライバシーが確保されていて、「ほっとする」といった声が多いそうだ。
坂さんは避難してきたある女性について、気丈な振る舞いから「気持ちが強い方だ」と思っていたところ、間仕切りに入った瞬間にその女性が泣き崩れたという。日常生活を奪われてわけもわからず避難してきた中、公衆の面前で緊張状態にあったのが、プライベートな空間に入ったところで抑えていたものが溢れてきたんじゃないかと。そういう意味でも「プライバシーの重要性を改めて確認した」と話していた。
Q.今後の間仕切りの展開予定は？
坂さんは日本に戻られているが、現地のポーランドの建築家は活動をしている。なかなか報道されていないがウクライナ国内にも多くの避難所があるらしく、そこにも送る準備をしているということだ。
