19日のABEMA『NewsBAR橋下』に、シリアで拘束された経験のあるフリージャーナリストの安田純平氏が出演。当時のシリアの状況と、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の類似点について指摘した。
安田氏がアサド政権下のシリアに入ったのは2012年。「反政府デモとそれに対する弾圧が始まって1年後の、内戦状態になり始めた頃だ。“政府を倒そう”、という流れに対して政府側が無差別空爆・砲撃をしていた」頃のことだ。
「今回のウクライナ侵攻のように、陰謀論やデマもいっぱい流れていた。やっぱりイスラエルと戦ってきたということもあって、日本の反米の人たちはアサドが大好き。新聞社にもそういう人がすごく多くて、“反政府運動なんてアメリカが仕組んだのだろう”とか、むちゃくちゃなことを言っている人もいる。
確かに色々な仕掛けはしたかもしれないが、ちょっとでも人が集まっているところには必ず秘密警察が入っていて、誰が何を言っているかが筒抜けの世界なので、デモなんかやったらとんでもないことになることも分かっていてやっている。そういう人たちがアメリカに言われたぐらいでやるわけがないし、どんなリスクを負って、どんな気持ちでやっているのかは、本人に聞かなくちゃいけない。
それで現場に行って地形、政府側と反政府側がどこにいてどんな武器を使っていて、どんな時間帯にどんな攻撃をしているのかを見ていくと、明らかに政府側が無差別攻撃を加えていることが分かった。暗くなってからも街の中に戦車でボコボコ撃ち込んでいる。反政府運動をやっているととんでもないことになるんだと、街をぐちゃぐちゃにして思い知らせる。そして住民を追っ払って制圧しにかかる。それがアサド政権、そしてロシアの手法だ。
今回もロシアは“人道回廊”を通じて住民を逃すと言いながら、逃した後は無差別攻撃を行うし、逃げる途中にも攻撃があったという話だが、それもシリアで起きている。そして化学兵器使用の心配もあるという言い方をし始めているが、シリアでもかなり使われていたし、“反政府側の陰謀じゃないか”みたいな話もあった。
しかも当時のオバマ大統領は“化学兵器の使用=レッドラインだ、超えたらダメだぞ”と言っていたのにビビっちゃって、はっきり言えば大したことをしなかった。だから政府側がその後いくら化学兵器を使っても話題にもならない。例えば戦略的に重要な場所に集中して塩素ガスを使う。これは空気よりも重いので、空爆で地下に逃げている住民たちの肺が爛れて呼吸困難になり、パニックになって逃げる。そして制圧にいく、というパターンだ」。
これに橋下氏は「そのようなことをウクライナの中でロシアがやるかも分からない」と応じる。
「ロシアがキーウ(キエフ)に包囲網を張っているが、歴史を振り返ると、こういうときは悲惨極まりない状況になりやすい。人道回廊のようなものを形式的に設置して住民を“逃した”ということにした上で、“後は戦闘員だけだから”と、非人道的な兵器を無差別に使うかもしれない。そういうことになったとしても、NATOはロシアと協議しないのか?ずっと見ているだけなのか?と。ロシアと話をするのは絶対に許さんという建前論で、どこまで西側は押し通すのか?と思う。不合理な犠牲を最小限にするというのが政治の力だと思っていたのだけれど。
これは首脳会議に出ていた人から聞いた話だが、プーチン大統領は、その地域を治める権力者を徹底して重視するそうだ。権力のない方が悲惨だと。無政府状態・無秩序状態になるよりも、少々悪くても抑えられる権力がある方がまだましだと。イラクだって、“フセインはダメだ”と叩き潰した結果、大混乱になった。確かに強権政治をやっていたけれど、誰もいないよりもましだったと。
だからシリアのアサド政権についても“なくなった時の方が悲惨だぞ”というのがプーチン大統領の思考だ。“とんでもない。アサドは非人道的だ。だから反体制派の方に兵器をどんどん供給する”と言った西側諸国に、“きちんとした統治ができていない側に兵器を渡したらどうなる。全部テロリストに流れるぞ”と反論すると、西側の首脳はみんな黙っちゃったそうだ」。
さらに橋下氏は「結局、全ては安全保障の話だ。シリアの話も、アサド政権と反体制派の安全保障の話であって、解決能力を持った人間しかケリをつけられないわけだ。だからこそ、第2次世界大戦終結後の秩序というのは、僕は腹立たしいけれども、5大国に核を与え、国連安全保障理事会での拒否権を与えて、そういう体制で秩序を作っていく形にしたのであれば、シリアでアサド政権を支持しているのはロシアなわけだから、世界の指導者たちが本気で考えるんだったらロシアと話をするしかない」、今回のウクライナ問題も、西側諸国が一致団結して経済的圧力でロシアを潰しにいこうとなっている。これでプーチン政権が瓦解すればいいけれども、中国が西側の味方に付かない以上は、いつ瓦解するか分からない。プーチン政権が本当に倒れるかどうか、誰も言えない」と指摘、西側諸国とロシアによる協議、妥結の必要性を強調した。(ABEMA/『NewsBAR橋下』より)