扉が開き、サングラス姿で現れた北朝鮮の金正恩総書記。25日、朝鮮中央テレビが新型ICBM=大陸間弾道ミサイル「火星17」の発射実験の様子を放送した。まるで映画のようなこの映像では、発射成功後に金正恩総書記が朝鮮人民軍の兵士らと喜ぶ様子なども公開されている。
【映像】金正恩の革ジャン姿は国内外に向けた“近代化アピール”か
発射された「火星17」は、着弾まで過去最長となる約71分をかけ、日本のEEZ(排他的経済水域)内に落下。朝鮮労働党機関紙によると、周辺国の安全を考え高角度で発射したという。
これまでも幾度となくミサイルを打ち上げてきた北朝鮮。しかし、今回の火星17は従来とは能力に大きな差があった。防衛省によると、この「火星17」が通常の角度で発射した場合、その射程は1万5000km超。つまり、アメリカ全土が射程に含まれることを意味している。
一連の出来事に、岸信夫防衛大臣も「これまでとは次元の異なる深刻な脅威」と発言。果たして「火星17」の発射は何を意味しているのか。ニュース番組「ABEMA Prime」では専門家とともに議論を行った。
公開された映像に、ネット掲示板「2ちゃんねる」創設者のひろゆき氏は「諸外国にとってみたら人を殺す長距離弾道ミサイルの発射練習だ。深刻な恐怖を与えるはずなのに、見た人は多分『北朝鮮やべえ面白い』で終わりだ。それに対して『深刻な脅威だ』と言って、政治家のほうがむしろ『こいつ分かってないな』と。空気が読めてない感じになっている。この演出すげえ、超頭いいと思う」とコメント。
このタイミングにおける「火星17」発射は、北朝鮮の技術力向上によるものなのだろうか。ウクライナの軍事侵攻を進めるロシアが“揺さぶり”をかけ、何らかの技術供与が行われたのだろうか。
軍事政策に詳しい東京大学先端科学技術研究センター特任助教の山口亮氏は「旧ソ連時代から、北朝鮮はいろいろな技術を取り入れている」とコメント。過去、中国や日本からも技術を手に入れているが「北朝鮮は絶対にそうだとは言わない」と話す。
「北朝鮮は『自国で自分たちが作った』と言う。タイミングがちょうど良かったというより、研究開発していろいろと試そうとしたときにロシアのウクライナ侵攻があった。『何なら今のうちにやってしまおうか』という考えはあったと思う」
山口氏は「北朝鮮は奇襲攻撃を仕掛けることに長けている」とした上で「車両または潜水艦から、いつでもどこでもミサイルが発射できる体制を整えてきた。映像にあったトラックも中国から手に入れたものだ。北朝鮮はまず輸入して、いろいろなタイプを自国で作ってきたので、車両を作る技術も上がってきたのではないか。そういう印象を受けた」と述べる。
公開された実験映像には、何度も金正恩総書記が登場するが、編集も含め、ここから何が分かるのだろうか。
山口氏は「ハリウッド映画と韓流ドラマを真似したのではないか」と回答。そして「完全にプランニングをしていて、ある程度の戦略があるように見える。金正恩総書記としては、やはり『俺がリーダーなんだ』『俺がこの国をリードしていく』とはっきりさせたい。金正日氏と違ってより力を示したいのだと思う。そしてもう1つ、国内的なメッセージもある。今、新型コロナと経済難で、北朝鮮内は相当参っている。金正恩総書記としては『厳しい状況だけど、俺は国のためにやっているよ』とアピールして、軍事力を強化したいのだろう。今までの北朝鮮は古臭い、より近代化した超モダンだと見せつけたいのだと思う」
ひろゆき氏も「社会主義の国として、金日成氏や正日氏は人民服で人前に出ていた。でも今回、金正恩総書記は1人だけ革ジャンを着た。『俺はお前ら人民とは違うぞ』というのを出してきて、それが許容されるようになってきた。北朝鮮の中でけっこう変化があったのでは。核で何十万人と死ぬ兵器ができているのに、そこに対する軽薄さもすごい」と見解を示した。
革ジャンを着ても問題ないほど、周囲を掌握したとも考えられる。山口氏は「10年前の平壌と今の平壌は全く違う」と指摘する。
「それこそ20年前30年前と全く違う。例えば、革ジャンを着る人だけでなく、毛皮のコートを着る人も増えてきた。そういったことを国内外にアピールしようとしているのでは。今までは、金日成氏と金正日氏が北朝鮮を作ってくれたが『俺らはさらに進化する、近代化する』と強調したいのだろう」(「ABEMA Prime」より)
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