夏の参議院選挙に向けて候補者擁立の動きが進む中、玉木雄一郎氏が代表を務める国民民主党のある動きに永田町では激震が走ったという。
今野党で起こっている動きについて、テレビ朝日政治部・野党担当の相沢祐樹記者が伝える。
Q.22日に可決・成立した2022年度予算。この採決で、自民党と公明党に加えて野党の国民民主党が賛成したが。
ガソリン税の一部を減税する「トリガー条項」凍結解除にメドが立ったとして、国民民主党(以下、国民)は2022年度予算案に賛成した。政府予算案に賛成するというのは、その1年の政権の政策などを全般的に信任したことになるとされているため、国民が衆議院で賛成した時は、異例中の異例の判断に永田町では激震が走った。過去に、賛成した野党がその後、実際に与党入りしたケースもあるからだ。予算案に賛成後、原油価格高騰対策を巡って岸田総理大臣と公明党の山口代表と会談するなどして、今は3党の検討チームも発足していて、国民は与党に一気に距離を縮めている。
これに対し、公明党には警戒感も漂っている。自民党としては、予算に賛成した国民と近づいて見せることで、参院選に向けた「野党の分断」ということを狙っている。実際、3党で党首会談をしたことについて岸田総理は、山口代表に対して「野党を分断するだけでも意味があるのではないですか」と説明したと周辺に語っている。
また、「自民党は玉木代表に来てほしいのではなく、国民を支援する労組が欲しいだけだ」と見ている人もいる。自民党は「連合など労働組合との政策懇談を積極的に進める」とした運動方針を決定していて、最近では連合の芳野会長が麻生元総理と会食するなど、国民などの支援団体から票を奪い取ろうという動きも出ている。
玉木代表は記者会見の場では「野党だ」と断言している。国民は支持率が1~2%と伸び悩んでいる状況で、玉木代表は「目立っていかないといけない」「立憲とも維新とも違うことをしないと埋没してしまうんだ」と周辺にこぼしたという。参院選で議席を減らすわけにいかない、という危機感の表れが、予算案の賛成につながったのではないか、という見方も出ている。
Q.こうした国民民主党の動きに他の野党の反応は?
かなり厳しい反応になっている。野党内からは、「これは与党入りだ」「玉木代表は自民党に入りたいだけだ」「参院選後は連立入りするんじゃないか」「自民党が参院選で選挙協力するんじゃないか」など、様々な憶測が飛び交うような状況になっている。
事実、国民は野党内で孤立し始めていて、与党でも野党でもない「ゆ党」とも揶揄されている。立憲民主党(以下、立憲)は先週、衆議院で立憲の質問時間を国民に譲るのをやめたほか、日本維新の会は衆議院選挙の後、国会での連携を進めていたが、「法案を一緒に提出することはかなり難しくなった」としている。また、共産党は「選挙協力の対象にならない」と突き放している。一方、国民の幹部は「『ゆ党』と呼ばれても政策を実現していく」として意に介していない。
Q.野党バラバラで、夏に参院選もあるのに大丈夫?
それがまさに今ジレンマとなっている。参院選の1人区で野党が乱立していると、票が割れてしまう。ただでさえ、1人区では自民党が強いので、「自民党に利するだけだ」といった悲痛な声は国民の一部からも聞こえてくる。この夏に選挙に挑む国民所属の参院議員は「(予算案に賛成という)判断が良かったのか悪かったのか、この選挙で審判が下される」と話し、評価を有権者に委ねている状況。
立憲も、距離が開きつつある国民と選挙での調整は進めていく考えだ。もともとは同じ民主党を源流としているので、両党は切っても切れない関係ではある。これについて、立憲関係者は「離婚した夫婦みたいなもの」と解説している。離婚した後も、子どもとの面会や養育費で協力する面はあると思うが、同じように、例えば無所属候補を立憲と国民が推薦するという選挙区もある。
ここでさらに複雑なのが、共産党との関係。立憲の衆院選総括で、野党共闘では「想定した結果を伴わなかった」としていて、立憲としては共産党から一定の距離を置きたい気持ちはある。ただ、票が割れては元も子もないという判断から、共産党への候補者調整を進めることにしている。
しかし、国民と共産党は、外交や安保などの政策面で考え方が違うとして、どちらも協力する気がない。両方とうまくやっていきたい立憲は頭を悩ませている。立憲と国民で候補者調整がうまくいったとしても、共産党がそこに候補者を立てる、ないしはおろさないとなると、交渉が難航することが想定されるからだ。
Q.野党は現在の方向性でいいと思っている?
政権交代が今すぐ実現できないことは、立憲の幹部もその点は素直に認めている。「民主党政権は失敗だった」と断じた上で、今は政権の受け皿としての力をつけていく時期だということだ。
なぜ野党でも国会議員であり続けるのかと言えば、この幹部は「政権監視を通じて民主主義を守るためだ」と主張している。主義主張や右・左に関わらず、どの政党が政権の座に付いていたとしても、野党はいつの時代も一定必要だということは言える。