プロの世界の団体戦は、これほどまでに熱いものか。香川愛生女流四段(28)の感想だ。棋士による「ABEMAトーナメント」では司会を務め、また自ら選手として「第2回女流ABEMAトーナメント」に出場、優勝も果たした。自分のためだけでなく、仲間のためにも諦めずに指す団体戦の魅力に心惹かれ、思い出すごとにこみ上げるものがある。「部活動的な高揚感がありますね。トップ棋士の先生方は、敗れても爽やかで潔く、素敵でした」と、また胸が高鳴る。「第5回ABEMAトーナメント」のドラフト会議が4月2日に放送されるが、その前に大会の魅力、さらには期待するチームについて話を聞いた。
第4回大会と第5回大会の間に行われたのが、女流のみで行われた第2回女流ABEMAトーナメント。今回から女流棋士の団体戦へと様変わりし、香川女流四段は加藤桃子清麗(27)と野原未蘭女流初段(18)とチームを組み、見事に優勝を果たした。最高の結果が出たこともあるが、普段は孤独に指す将棋を、仲間と一緒にできたことがとてもうれしかった。
香川女流四段 とにかく楽しかったですね。部活動的な高揚感がありました。普段だったら人に話さないようなことまで相談もしましたし、私たちのチームはとにかく笑顔が多かったです。将棋の話でも、ご飯の話でも、ころころ笑い合って(笑)。短かったですけど、濃密な時間をみなさんと過ごせて、目を閉じると懐かしい気持ちがこみ上げてきますね。
収録された内容を後日見た。当然ながら試合の内容も結末も知っている。控室でどんな会話をしたかも覚えているが、それでも改めて映像を確認していると、その時の興奮が蘇ってきたという。
香川女流四段 結果も何も知っているのに「未蘭ちゃん、頑張って!」とか、応援しちゃってましたからね。私はあまりスポーツ観戦などをしない方なのですが、誰かをこんなに応援することを、しかも将棋でするとは思わず、新鮮でした。立命館大学に通っていた時、将棋部の応援に行ったことがあるんです。団体戦で先輩や同期が戦っているのを見て「団体戦っていいな」と思った覚えがあります。仲間とともに戦って、泣いて、みたいな。なんとなく自分は体験できないものかなと思っていたものでもあったので、今回のことは人生の財産にもなりましたし、チームメイトには本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
棋士によるABEMAトーナメントでは、進行する司会として出演した。棋士たちが控室で和気あいあいとしつつ、いざ対局となれば、仲間の期待も背負って個人戦以上の気迫を持って指す。心に残ってるのは、勝ったチームよりも、負けたチームの方だった。
香川女流四段 司会をしていると、敗退していくチームのインタビューもしなくてはいけなくて、それがすごくつらかったですね。あんなにいい将棋を指していたのに、もう見られないのかと。でもトップ棋士の先生方は、敗れても爽やかで潔いんですよね。前向きな話をされる方ばかり。負けた悔しさもあるのに、短い時間でそれを受け入れて、考えて話していらっしゃるところは、向き合い方もやっぱりすごいと思いました。
新たな戦いの始まりは、香川女流四段も待ち遠しい。ドラフト会議を前に、1つ理想のチームを考えてみた。棋士も女流棋士も多い1993年生まれで揃えたチームだ。
香川女流四段 斎藤慎太郎八段がリーダーを務めるチームを考えてみました。高見泰地七段と三枚堂達也七段。全員、同い年のチームです。実は私も、この3人と同い年で、この他にも活躍されている方が多いです。小さいころから知っている方ばかりで、同世代の活躍はすごく励みになります。斎藤八段は、今期も名人に挑戦をされていて、同い年の棋士が名人戦の舞台に立つなんて、すごいことだと思うんですよね。
3人とも棋力はもちろんながら、その人柄のよさでファンからの人気も高いことで知られている。トーク力にも優れたものがあり、各種イベントなどにも引っ張りだこだ。
香川女流四段 皆さんサービス精神がありますよね。ファンはもちろん同じ棋士、女流棋士にも思いやりをもって楽しくお話をしてくれます。人として尊敬できますし、その人たち同士がしゃべっているのが微笑ましいので、控室やチーム動画でわいわいしているのを見てみたいです。全然将棋を知らない人が、その動画を見たら「棋士の先生、こんなにお話するんだ」とびっくりするんじゃないでしょうか(笑)。
今年もまた運命のドラフト会議を経て、全15チームが頂点を目指して熱戦を繰り広げる。自分も人生初の団体戦を経験した分、またこの戦いを伝える側に回ったら、全力でその魅力を届けたい。
香川女流四段 第4回の時、司会を通じてトーナメントのいろいろな部分を目の当たりにして、今でもこみ上げるものがあります。収録で丸一日そばで携わっていても、その後に放送でまたずっと見ていられるものは、そうそうないと思います。他の番組だと、自分が出ているのが嫌だなという気持ちもあって見ないこともあるんですが、この大会については何度でも見られるし、本当にそれだけ深い魅力があるし、思い出したくなる感動があります。本当に見ないともったいないですよ、という気持ちが一番ですし、これまでも見られてきた方は、待ちきれないことでしょう。私ももし司会をする機会があれば、前回よりちょっとでも上達しているところを見せたいですし、素晴らしい大会の魅力をより伝えられるように関われればと思います。
◆第5回ABEMAトーナメント 第1、2回は個人戦、第3回からは3人1組の団体戦として開催。ドラフト会議で14人のリーダー棋士が2人ずつ指名。残り1チームは、指名を漏れた棋士がトーナメントを実施、上位3人がチームとなり全15チームで戦う。対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。チームの対戦は予選リーグ、本戦トーナメント通じて5本先取の9本勝負。予選は3チームずつ5リーグに分かれて実施。上位2チーム、計10チームが本戦トーナメントに進む。優勝賞金は1000万円。
(ABEMA/将棋チャンネルより)