将棋界の早指し団体戦「第5回ABEMAトーナメント」の予選Bリーグ第1試合、チーム糸谷とチーム斎藤の対戦が5月7日に放送され、チーム糸谷がスコア5-3で勝利、本戦進出に王手をかけた。第1局からいきなり3連敗し、痛恨のストレート負けさえちらついた中、第4局で初勝利を挙げてから突如として息を吹き返し、優勝候補の筆頭にも挙げられているチーム斎藤を圧倒。怒涛の5連勝で、初戦突破に成功した。
これも滝行で培った精神力によるものか。チーム糸谷の糸谷哲郎八段(33)、黒沢怜生六段(30)、西田拓也五段(30)は、大会前のチーム動画で水温3度という極寒の中で、滝行を敢行。どんな苦難を迎えても、その辛さに比べればへっちゃらとばかりに、慌てず目の前の一局に集中する戦いが、逆転劇を生んだ。
反撃の口火を切ったのは、大会初出場で糸谷八段の弟弟子でもある西田五段だ。第2局では、同じ関西出身のA級棋士・斎藤慎太郎八段(29)と熱戦を演じて活躍を予感させると、スコア0-3で迎えた第4局、昨年準優勝メンバーの一人である佐々木勇気七段(27)と盤を挟んだ。「才能溢れる将棋で、非常に強敵」と戦前には相手の力量をしっかりと認めつつ、先手番から大の得意としている三間飛車を採用して、佐々木七段の居飛車との対抗形の将棋に全てをかけた。序盤からチャンスを迎えたと見るや、思い切りのいい指し手でぐいぐいとペースを握り、兄弟子・糸谷八段からも「最高な振り飛車の勝ち方」と絶賛されるほど。「最初から最後まで自分の思い描いた将棋が指せた」と、71手での快勝を振り返った。西田五段は、第7局でも佐々木七段と再戦となるが、ここでも糸谷八段から「ファイヤー西田」と言われるほど熱い攻めで圧倒。この一局も制し2勝1敗と活躍した。
弟弟子の戦いに、やはり兄弟子も刺激を受けた。第1局、昨年までチームのリーダーを務めていた木村一基九段(48)との一局は、後手番だったこともあり得意の一手損角換わりを目指していたが、木村九段が避けて乱戦模様に。「手順前後のやらかしをしてしまって、攻められる展開になってしまった」とミスを自覚すると、中終盤で怪しい手を放って逆転することも多い糸谷八段であっても粘りきれず敗戦。チームに勢いをつけられず苦笑いするしかなかった。それでも第5局で木村九段と再戦となると、今度こそ一手損角換わりとなり、豊富な経験と研究を武器に、木村九段の攻めを呼び込み受け止める将棋となった。これぞ「糸谷ワールド」とも言えそうな持ち味十分の内容で128手で勝利。個人としては1勝1敗で、リーダーとしての責務を果たした。
試合前から「エース」と期待され、尻上がりに状態をよくしたのが黒沢六段だ。第3局では佐々木七段と対戦、序盤こそ自分の土俵で指し続けていたが、相手の踏み込みに自らバランスを崩すような展開となり、103手で投了した。ただ大きかったのは第6局だ。相手のリーダー斎藤八段とぶつかり、得意の中飛車を選択し、相手の居飛車と対抗形の将棋に。美濃囲いの堅さを活かして攻めをつないでいくと、中終盤には猛追されたものの、なんとか振り切り今大会初勝利を挙げた。この1勝でスコアは3-3の振り出しに。星は五分ながら、明らかに潮目が変わったことを実感させるものとなった。第8局、この試合3局目に登場し斎藤八段と再戦したが、同じく序盤でリードしつつ中盤に巻き返されたものの、逆手を許さず133手で勝利。2期連続の名人挑戦者から2勝を奪う大活躍となった。
試合後、糸谷八段は「3連敗した時は生きた心地がしなかったので、ホッとしています。みんなで負けて、みんなで勝とうと言っていました」と語りつつも、滝行によって「メンタルにはあまりブレが出なかったと思います。みんな厳しい状況でも暗くならずに戦えた」と、きつい経験が勝負に活きたと実感した。滝行に加え出だしから3連敗という苦境に立たされた後、そこから巻き返しての逆転勝利。やはり逆境を知る者の底力はすさまじい。
◆第5回ABEMAトーナメント 第1、2回は個人戦、第3回からは3人1組の団体戦として開催。ドラフト会議で14人のリーダー棋士が2人ずつ指名。残り1チームは、指名を漏れた棋士がトーナメントを実施、上位3人がチームとなり全15チームで戦う。対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。チームの対戦は予選リーグ、本戦トーナメント通じて5本先取の9本勝負。予選は3チームずつ5リーグに分かれて実施。上位2チーム、計10チームが本戦トーナメントに進む。優勝賞金は1000万円。
(ABEMA/将棋チャンネルより)