政府は外交・安全保障政策の根幹である「国家安全保障戦略」「防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画」の3つの文書を年末までに見直す方針で、自民党は4月末に提言をとりまとめた。
岸防衛大臣は5日、アメリカを訪れ、日本の防衛力を抜本的に強化し、いわゆる敵基地攻撃能力の保有などを検討している状況を説明している。その上で、日米で戦略をすり合わせていくことを確認したということだ。
日本の防衛をめぐる動きについて、テレビ朝日政治部・防衛省担当の車田慶介記者が解説する。
Q.防衛費についてはどういう議論が?
NATO諸国がGDP比2%以上を目標にしていることを念頭に、「5年以内に防衛力を抜本的に強化するために必要な予算水準の達成を目指す」、ということが書き込まれた。要するに、アメリカやフランスなどのNATO諸国が目標にしているGDP比2%以上を、日本も5年以内に達成しようというもの。日本はこれまで防衛費をGDP比1%程度で保ってきていたが、それを5年以内に倍にするということだ。
Q.「2%以上」と「5年以内」という数字の理由は?
まず「2%以上」に関しては、アメリカやフランスなどNATO諸国が目指しているという点が根拠にある。「日本もあなた方西側諸国と同じ水準まで予算水準を上げて、防衛力をしっかり強化する努力をしますよ」、というメッセージだ。今回の提言案を議論する中で、自民党議員の頭の中にずっとあった課題が、“ロシアによるウクライナ侵略のようなことが日本周辺でも起こった時にどうするか”ということ。当然、自分の国は自分で守るということが基本だが、やはり同盟国であるアメリカなどの支援は必須になってくる。その時に、日本だけ防衛費はこれまで通りGDP比1%としていて、そのアメリカなどから「努力していない」と思われたらどうなるか、ということを危惧している。
「5年以内」については、明言をしている議員はいないが、おそらく中国が台湾に侵攻する台湾有事を念頭に置いているのではないか。中国の習近平主席は、中国共産党のトップの任期について異例の3期目を目指しているとされている。仮にそれが実現した場合、任期は5年後の2027年となっていて、それまでに歴史に残るような成果を上げる、つまり台湾統一をしようとするだろうという見方があり、そういう点が念頭にあるのではないかと思う。
Q.今の日本の防衛レベルはそもそもどのくらい?
防衛政策に明るいある自民党議員によると、何かあった時にアメリカが助けに来てくれるまで2、3週間ほどかかるらしく、そこまでを耐える程度のレベルしかないということだ。
ある防衛省関係者も言っていたのが、日本はミサイルなどとにかく「弾」が少ないと。例えば、日本にミサイルが撃ち込まれた時に迎撃する「PAC3」というミサイルがあるが、同時にたくさん日本に打ち込まれればすぐに弾がなくなって迎撃が難しくなるようだ。アメリカが来るまでに耐えられなくなってしまうレベルだと話していた。
Q.防衛費を2倍して何に使う?
迎撃ミサイルなどをさらに手厚くすることに使われる可能性は高い。ウクライナを見ていてもわかるが、戦争が起きると長期化しやすいので、そこに耐えられる体制を整えることに使われるのではないかと思う。
もう1つ重要なのは、サイバー分野の対策。現在の諜報活動はサイバー分野がほとんどと言われている中で、日本は特に弱いと指摘されている。日本はサイバー攻撃から守る能力は強化しているが、自分たちで情報を取ってくるハッキングができないと。これができなければ、「情報のギブアンドテイクはできない」とアメリカからも言われてしまっている。
例えば、台湾有事が起こった際に、アメリカが持っている情報を日本にくれないということになると、当然、日本の自衛にも関わってくる。なので、サイバー分野に関して予算を使うこともあると思う。
Q.防衛費以外の注目すべき点は?
あまり報道はされていないが、防衛装備品の提供について重要な記述がある。一部抜粋すると、「ロシアによるウクライナ侵略のような国際法違反の侵略が生じた際、侵略を受けている国に対して、幅広い分野の装備の移転を可能にする」ということが書いてある。日本はウクライナに防弾チョッキやヘルメットなどを提供したが、ウクライナはミサイルなどの提供を求めてきたという話もあった。日本としては殺傷能力のある武器や弾薬は法律で送れないという事情もあって、防弾チョッキやヘルメットを送るという案をひねりだしたということがある。提言案を議論している自民党の議員の中から、台湾有事があった時に「武器を送ってやれないということで本当にいいのか」という声が出ていた。
今回の提言案には武器など具体的には書いていないが、おそらく「幅広い装備の移転を可能にする」というのは、将来的に武器の移転も可能にすることを念頭に記述したのではないかと取材をしていて感じた。
Q.今後、政府の検討はどうなる? 自民党の提言案はどの程度盛り込まれる?
おそらく議論はかなり紛糾すると思う。というのも、政府案としてまとめる時には、自民党だけではなくて連立を組んでいる公明党の意見も取り入れる必要がある。公明党は特にGDP比2%以上について、財源確保の面などから無理があると否定的なので、ここをどう折り合いをつけるのか難しいところ。岸田総理が聞く力を発揮して公明党の意見を取り入れすぎても自民党の顔がつぶれてしまうし、どういう書き方になるのか今後注目すべき点だと思う。(ABEMA/『アベマ倍速ニュース』より)