ポーランドの首都・ワルシャワに、ウクライナから避難してきた子どもたちが遊べるキッズスペースがある。
壁には破壊された街や戦車、ミサイルなどを描いた絵が飾られていた。これは、すべて子どもたちが描いた絵だ。
【映像】ロシア軍を攻撃する「ウクライナの戦車」の絵(画像あり)※0:57~
ロシア軍によるウクライナ侵攻開始からおよそ2カ月半、隣国ポーランドには多くのウクライナ国民が避難している。現地を取材したANNバンコク支局・久須美慎記者はこう語る。
「絵には壊れたビルや戦車、爆弾を落とす戦闘機などが描かれていました。ウクライナの国旗をつけた戦車が、ロシアの国旗をつけた戦闘機に砲撃している絵など『ロシアをやっつけている』という構図の絵もありました」(以下、久須美慎記者)
ワルシャワにはウクライナ避難民の支援団体拠点があり、久須美記者によると、ここに多くの支援物資が集まっているという。避難民であれば、物資を自由に持ち帰れる場所であり、大人たちが物資をピックアップしている間、子どもたちが自由に過ごせる場所として、このキッズスペースが作られた。
「絵は支援スタッフから『こういう絵を描きましょう』といった指導はなく、子どもたちが大人を待っている時間、自由に描いたものです。もちろん、きれいな風景の絵や、かわいいハートが入った絵もありましたが、やはり目を引くのは戦争の絵ですね」
久須美記者は、ポーランド国内で避難してきた子どもの心理ケアに取り組むカウンセラーを取材。この心理カウンセラーも、南部クラクフでの活動の中で印象的な子どもの絵が見られたという。
「現地の心理カウンセラーに話を聞くと『子どもたちは実際に見聞きしたもののほかに“見たいもの”を描く』と言っていました。ある日、幼稚園の授業で『お母さんのためにかっこいい絵を描こう』というテーマで絵を描いてもらったところ、ある4歳の男の子が紙一面に黒だけを使ってテレビを描いて、画面の中に“箱のようなもの”を描いたそうです」
心理カウンセラーが「何を描いたのか?」と聞くと、男児は「軍の基地だ」と回答。続けて「兵士には水が足りないから、水をあげたい」と、そこにボトルの水を描き加えた。
「4歳でそういう絵の発想を生んでしまうこと自体が『まさに戦争が起こっているからこその状況だ』とカウンセラーは話していました。ウクライナ侵攻によって、子どもたちの心になんらかの影響が現れているように見えます」
心理カウンセラーによると、心の傷が子どもの行動に現れるケースはあるが、その反応もまちまちだという。
久須美記者が取材した幼稚園では、1クラス25人あたり3人のウクライナ避難民の子どもを受け入れていた。施設によって違いはあるものの、この幼稚園では、戦争に関しては触れないように過ごす方針だった。
「避難によって、環境も大きく変わります。直接の戦争体験がなくても、環境の変化が大きなストレスになることも考えられます。中にはフリーズしてしまい、情報をシャットアウトして無反応・無気力になる子どもや、逆に自分の感情を抑えられず、コントロールできない子どももいるそうです。対応によっては、逆に子どもの心の傷をえぐってしまうこともある。子どもの微妙な変化を先生も気にしている。幼稚園の先生でも判断が難しいことから『子どものケアは専門家の力を借りる必要がある』と言っていました」
戦争によって生まれた子どものストレス。周りの大人はどのような対応をするべきなのだろうか。
「心理カウンセラーは、子どもが孤独を感じないように『寄り添うことが大事』だと何度も話していました。避難してきた子どもたちは、物理的にも精神的にも孤独を抱えやすい。大きく環境が変わって、周りにいた友達もいなくなる。その孤独に気づかずに過ごしてしまうと、心の傷が大きくなってしまうと。『孤独じゃない』と子どもたちに感じてもらうのが必要で、必ずしも絵を描くことがいい、お話することがいいとは限らない。専門家の力を借りながら、長期的にケアをし続けることが大切だと思います」