日本、アメリカ、インド、オースラリアの各国の首脳が一同に介して行われた「クアッド首脳会合」では、インフラ支援やワクチン、そして、海洋状況把握のためのパートナーシップなどが打ち出された。
アメリカのバイデン大統領は今回、韓国、日本を歴訪したが、最大の目的はこのクアッド首脳会合への出席だったということだ。なぜクアッドを重要視しているのか、また、日本にとってどのような成果があったのか。テレビ朝日政治部で外務省担当の澤井尚子記者が解説する。
Q.バイデン大統領はなぜクアッドを重要視している?
バイデン大統領は初のアジア歴訪だったが、中国には立ち寄らず、中国を含まないインド太平洋の経済枠組み「IPEF」の立ち上げをきのう日本で発表するなど、「対中国」の姿勢を鮮明にしている。岸田総理としても、バイデン大統領がこうしてインド太平洋での関与を強める姿勢を示していることを歓迎している。外務省幹部は「もう台風の目は、ウクライナではなくアジアに移っている。アメリカにとっては台湾有事が最大の関心事だ」と話していた。
そこで、この「対中包囲網」ともいわれるクアッドの枠組みをアメリカは重視している。このクアッドとは、「FOIP」と呼ばれるFree&Open Indo-Pacific、「自由で開かれたインド太平洋」を実現するための、日本とアメリカ、オーストラリア、インド4カ国の枠組みで、インドが入っているところが最大のポイント。「このクアッドという枠組みは、インドを抱き締めるためにある、と言っても過言ではない。インドをこちらに引き寄せるための枠組みだ」と外務省の幹部は一様に話している。
Q.「インドを抱き締める」とは?
ある政府関係者は「ロシアとこのまま深い関係を続けてもいいことがない、というのはインド自身もわかっていて、別れる・離れるとしたら、その時には『我々クアッドがいる』と伝えておくだけでも大きな意味がある」と話している。
インドというのは、非同盟の国でありながらもロシアの伝統的な友好国で、ロシアから兵器を大量に購入するなど、繋がりが深い。そのため、国連総会などでもロシアを非難する採決で一貫して棄権し続けている。実際のところは、「インドというのは一筋縄ではいかないが、徐々にスタンスがこっちを向いてきている」と分析する人もいる。
Q.発表された共同声明には結局、ロシアを非難する文言は入れられなかったようだが。
インドへの配慮の結果、「ロシア」や「侵略」の文字はない。ただ、政府関係者は「ウクライナでの戦争はやがて終わるだろう。でも、中国との闘い、インド太平洋地域での取り組みは終わらない。インドとの関係は、目先の事ではなく、もっと長い目でみていないといけない」と話している。今回の共同文書で、ロシアによる侵攻を非難する文言を無理やり入れさせてクアッドの関係が崩壊するようなことになるよりは、すべての国の主権と領土の一体性は守られるべきだ、という国連憲章に基づいた一般論として言及するに留めたかたちだ。
ただ、ウクライナの「侵略」という言葉ではないにしても、「ウクライナでの悲劇的な紛争が激しさを増すなか」という文言は盛り込むことができたので、今回の議長国である日本政府としては十分成果は勝ち取れたという感じだ。
Q中国とインドの関係は?
人口で世界1、2位の大国同士で、国境を接している。これまでも小競り合いはあったが、2年前に国境地帯でインドと中国の軍が衝突して以降、緊張関係が続いている。そのタイミングで、日米豪の3か国としてはクアッドという対中国の構想により強く引き込んだかたちだ。
Q.この「中国包囲網」に、中国はどういった反応を示している?
激しく反発している。中国の王毅外相は「他国、つまりはアメリカのために、火中の栗を拾うべきではない」と日本をけん制している。アメリカのこうしたインド太平洋戦略については、「分断を生み、対立をあおる戦略であり、最終的に必ず失敗する」などと断じている。
ただ、こうしたハレーションが起きることを配慮して、実は先週、林外務大臣はこのクアッドに先立って、約半年ぶりに王毅外相とテレビで外相会談をしている。中国に対して、言うべき懸念は伝えた上で、今年は国交正常化50年の節目でもあり、隣国として「建設的かつ安定的な関係を構築していきましょう」ということでは一致している。(ABEMA/『アベマ倍速ニュース』より)