逮捕された国税局職員は“親友”に犯行持ちかけられたか “知人関係”を土台に若者らが申請 持続化給付金詐欺の背景
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 国の持続化給付金100万円をだまし取ったとして、東京国税局職員の男ら7人が逮捕された事件で、被害金の大部分が中東のドバイに出国したリーダーの男に渡っていたことがわかった。

【映像】国税局職員も…持続化給付金詐欺が相次ぐ背景は

 次々と逮捕者が出ているこの事件。その背景について、テレビ朝日社会部・警視庁クラブの藤原妃奈子記者が解説する。

Q.驚いたことに国税局職員の逮捕も…。事件の構図は?
 背景には「同級生の国税同期」という関係がある。今回7人逮捕されたが、その中の1人、東京国税局の職員・塚本晃平容疑者(24)は、横浜市の税務署で税金を集める徴収担当として勤務している。そして、同じく持続化給付金詐欺で逮捕・起訴された中村上総被告(24)。この2人は熊本の小中学校の同級生で、高校では分かれるものの、公務員の試験を受けるための専門学校でまた同じになる。その後、税務大学校に一緒に入り、東京国税局に同期で入局した。働き始めてからは、今年2月までマンションで同居していた「親友」とも言える存在だ。

 塚本容疑者はこの親友とともに、犯行グループの主犯格の1人とされている元大和証券社員・中峯竜晟被告(27)の「トレードオンラインサロン」という投資の教室に出て、グループと関わりを持つようになった。その後、親友の中村被告から犯行を持ち掛けられ、確定申告の書類を作成する役割を担うようになったという。中村被告は塚本容疑者が税務署で働いていることから、こういった書類の作成に精通しているということで誘ったとみられる。

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 塚本容疑者は確かに税の専門知識を持つ職員とはいえ、自分でスキーム考案したという背景はなく、あくまで主犯格に近い幼馴染に誘われて犯行に加担するようになったとされている。ただ、本人は完全黙秘しているということで、動機などは明らかになっていない。

Q.事件の手口は?
 今回逮捕されたのは塚本容疑者らを含む7人。この7人のうち5人は「マイニングエクスプレス」という暗号資産投資を行うグループのメンバー。彼らが10代~20代の大学生、高校生など若者を中心に、「給付金をビットコインに投資すれば2倍に増える」「投資すれば個人事業主になるので、給付金の申請ができる」と声をかけて、不正な申請をさせていたという。

 申請の名義は、その話に乗った大学生や高校生らだったが、実際の手続きは塚本容疑者が確定申告の書類の作成をするなど、それぞれのメンバーが代行していた。申請の名義本人の口座に100万円が振り込まれるので、その後、回収役が「投資をする」という名目で、その金を受けとるというかたちになっていた。

 犯行グループはこの手口を繰り返し、200人分の申請を代行して、約2億円をだまし取ったとみられている。投資グループでは、自分の紹介で投資を始める会員が増えればボーナスがもらえる、というかたちになっていたという。紹介で自分にお金が入ってくるマルチ商法と同様に申請者を増やしていき、金を集めていたという実態がある。

 逮捕されたメンバーは全員20代、申請者も10代~20代がほとんどだったとみられていて、もともとの友達、知人の関係が土台となって広がっていった。

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Q.この事件が発覚した経緯は?
 この事件が明らかになったのは、ある家族の出来事がきっかけ。2020年8月、大学生の少年が父親に連れられて、目白警察署に出頭してきた。少年が持続化給付金詐欺にどうやら加担しているようだ、ということで父親が連れてきた。

 この父親がなぜ気づいたかというと、自宅のポストに息子宛てのはがきが届いて、そのはがきが「持続化給付金の振込のお知らせ」だった。「息子は個人事業主でもないし、何でこんなものが届くんだ」と問い詰めると、少年が経緯を説明したという。この出頭を契機に警視庁が捜査を始めたところ、芋づる式に今回の犯行グループの存在がわかり、逮捕に至った。

Q.グループのリーダーはどうしている?
 このグループの「リーダー」とみられる31歳の男は、今年2月にドバイへ出国している。捜査関係者への取材では、この男は、今回の事件で逮捕・起訴された元大和証券社員・中峯被告が考案した持続化給付金詐欺のスキームを実行しようと指示した人物だという。

 さらに、この事件では、投資の名目で申請者から100万円を回収していた「現金回収役」がいる。すでに逮捕・起訴されてるこの回収役が、ドバイに出国したリーダーに「2割の手数料を除いて全額を渡していた」という主旨の話をしていることが新たにわかった。100万円の給付金で、手数料は20万円、主犯格のメンバー4人が5万円ずつ分けていたが、残り80万円を毎回、リーダーに渡していたという。2億の不正受給があったとされているので、相当な額がこのリーダーの手に渡っていたとみられている。

 メンバーの多くは、リーダーがこの金を投資に充てていると認識していたということだが、では投資で得た利益を他のメンバーが得ていたかというと、実は持続化給付金の申請の手数料以外の金は得ていない。捜査関係者も詳しい金の流れはまだわかっていないということで、実際のどの程度の額が投資に充てられて、どれくらい利益が出たのかも明らかになっていない。

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Q.「持続化給付金詐欺」の立件が相次いでいるが、これまで立件された件数は?
 まず、どれくらいこの不正受給が横行しているかというと、2020年7月に最初の摘発があり、今年4月末までで、全国で3655人が詐欺などの容疑で摘発されている。立件されただけで総額は31億8400万円に上るという、かなりの額の税金が不正に流れてしまった。実際の金額はもっと多いとみられている。摘発されている人の中には、今回の国税職員や、税理士など専門知識を持った人、経産省のキャリア、会社員、学生などもいる。

Q.捜査側はなぜここまで広がったと分析している?
 複数の捜査関係者に取材したところ、当時は「とにかく困っている人に早く支給しなければならない」ということで、厳重なチェック体制、不正を防ぐ体制を作れていないまま、給付が進んでしまっていたという背景があると話す人もいる。

 今回のように、大学生や高校生など、そもそも個人事業主として事業をやっている実態がない申請も簡単に通ってしまっていた。申請に必要なのは、(1)身分証のコピー、(2)通帳の写し、(3)確定申告書の控え、(4)収入増減がわかる売上台帳の写し。しかし、事業主でなくても、持続化給付金ではこの内、確定申告書の控えや売上台帳のうつしの偽造が見抜けていなかった。

 「困っている事業者にいち早く給付金を届ける」ということで、まさか悪用する人がいないだろうという性善説で作られた制度が、楽をして金もうけをしたいと考える人に悪用されてしまったということのようだ。また、「給付金がもらえるよ」と知り合いから紹介されて、違法性の認識なく、また「違法かもしれない」と思いながらも、誘いにのっかって、詐欺の指南を受けてしまう人も多く、同様の犯罪が横行してしまったとみられている。

 こういったニュースを見て、「自分もやってしまった」という人もいるかもしれない。経産省によると、2022年5月26日時点で2万1814件の返還の申し出があり、1万5427件、総額約166億円がすでに返還されている。

Q.返還すれば立件はされない?
 自主返還したら立件されないとは言い切れない。ただ、起訴されない可能性はあるということで、ぜひ返還していただきたい。(ABEMA NEWSより)

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