将棋界の早指し団体戦「第5回ABEMAトーナメント」の予選Cリーグ第3試合、チーム豊島とチーム山崎の対戦が6月11日に放送され、チーム豊島がフルセットの末にスコア5-4で勝利、予選2位で本戦出場を決めた。最終第9局は千日手・指し直しもあり、都合10局で決着がつく大熱戦。両チームが死力を尽くした一戦に、ファンからも称える声が大量に寄せられた。
少しでも長く、このチームで戦いたい。その思いが積み重なって都合10局というロングゲームが最後まで熱気を帯びたまま続いた。試合を制した方が予選突破、負ければ敗退。最後に笑ったのは豊島将之九段(32)、丸山忠久九段(51)、深浦康市九段(50)のチーム豊島だった。
タイトル6期の実績を持つ豊島九段は、この試合でも苦しんだ。過去2年、リーダーとして大会に出場しながら、どちらもあと1勝という対局を落として予選敗退。今年は後輩ではなく先輩2人を指名し、何かを学び取りながら予選突破を目指すというプランだった。第3局・阿久津主税八段(39)との一局がこの試合の初対局になったが、阿久津八段が角交換からの四間飛車に進むと、「出だしはちょっと作戦負け気味」と躓いた。中盤には巻き返し、終盤には形勢が二転三転する混戦になったが、最後は指運に恵まれない形で惜敗した。なんとかリーダーとしての役割を果たそうと奮起したのが第5局だ。山崎隆之八段(41)とのリーダー対決は、決着までに207手を要する熱戦に。「もうちょっと早く決めないといけない将棋」と優勢、さらには勝勢まで進みながら、最終盤で危うくなってしまったことを反省した。第8局では山崎八段に敗れ、個人では1勝2敗と負け越したものの、静かに闘志を燃やして戦う姿を先輩2人に見せ続けた。
丸山九段は、朗らかにかつ重厚に戦い続けた。豊島九段と同じく個人としては1勝2敗の負け越しに終わったが、一番の仕事は第2局だ。対戦した山崎八段は、この一局までに個人3連勝と乗りに乗っていた。相手のリーダー兼ムードメーカーに対して、相居飛車の力戦模様に進むと、序盤から見たこともない指し手を続ける山崎将棋に動揺することなく、どっしりと落ち着いた指し回し。「あまり見たことのない形になって、時間を使ってしまいました。時間がなかったので勢いよく行ってみました」と、前に出る積極性も功を奏し、108手で勝利。「ABEMAトーナメント自体であまり勝てなかったんで、ホッとしています」と、優しい顔をさらに優しくするような笑顔になった。
そしてこの試合のMVP、かつ決着をつけたのが深浦九段だ。第1局で松尾歩八段(42)とぶつかったが、先手番から得意の雁木を選ぶと、指し慣れた戦型だからか、それともフィッシャールールへの対応がさらに高まったのか、慌てることなく実力を発揮。勝負どころのために持ち時間を残しておくペース配分も完璧という内容で、チームに勝利を持ち帰った。すると次の出番は、間に5局挟んで第7局。阿久津八段との一局は深浦九段が居飛車、阿久津八段が向かい飛車の対抗形になったが、ここでもまるで危ういところがないような快勝ぶり。さらに充実していった。そして最大の見せ場が最終第9局。阿久津八段と再戦すると、先手番から始まった一局は千日手・指し直しに。後手番に回った指し直し局は角換わりになったが、終盤までチャンスとピンチが行き来する激戦。「最終局なんで、思いの強い方が勝つと思った」と、自分の頬を張って気合を入れながら指し続けると、130手でついに勝利を手にした。
豊島九段にとっては、3大会目にしてついにつかんだ本戦出場のきっぷ。試合後は「すごくうれしいですし(チームメイトが)心強かったです。対局を見ている間も、いろいろとお話をさせていただいて、だんだんチームワークもよくなりました」と微笑んだ。また、その様子を丸山九段、深浦九段がうれしそうに眺めてもいた。3人で乗り越えた困難が大きい分だけ、チーム豊島の力はさらに強く大きくなり、本戦でも大暴れする。
◆第5回ABEMAトーナメント 第1、2回は個人戦、第3回からは3人1組の団体戦として開催。ドラフト会議で14人のリーダー棋士が2人ずつ指名。残り1チームは、指名を漏れた棋士がトーナメントを実施、上位3人がチームとなり全15チームで戦う。対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。チームの対戦は予選リーグ、本戦トーナメント通じて5本先取の9本勝負。予選は3チームずつ5リーグに分かれて実施。上位2チーム、計10チームが本戦トーナメントに進む。優勝賞金は1000万円。
(ABEMA/将棋チャンネルより)