今アメリカでは、1973年に連邦最高裁が「中絶は女性の権利」と認めた判決を覆したことで、抗議デモが激化している。一方、中絶禁止を歓迎する人々はトランプ氏を絶賛し、分断が深まっている。
【映像】「受精した段階で中絶禁止」罰金は約1250万円…定められた主な刑罰(画像あり)※3:50ごろ〜
ANNニューヨーク支局の記者・中丸徹支局長は「最高裁がくだした『中絶禁止』をめぐる議論は、連日トップニュースで扱われている」と話す。
「アメリカには中絶に関して、さまざまな意見がある。中絶に賛成している人からは半世紀経って判決が覆され『アメリカはどうなってしまうんだ』という危機感を持っている」(以下、中丸記者)
そもそも、なぜ今になって判例が覆り「中絶の権利」を認めない判決になったのだろうか。
「前トランプ大統領の影響が大きいとみられている。アメリカでは、司法制度が複雑だが、最高裁判所では9人の判事がいて、決定がくだされる。前トランプ大統領の時代に3人の判事が指名された。前トランプ大統領の考えに近い、保守派の判事たちだ。今、最高裁判所では9人のうち6人が保守派で、3人がリベラル派。それぞれに微妙な考えの違いはあるが、多数決で基本は保守派の考えに近い判決が出やすくなっている」
中丸記者によると、アメリカでは前トランプ大統領の登場によって、保守派が勢いづいているという。
「すでにさまざまな州で人工中絶を禁止する法律が出されている。ミシシッピ州では『妊娠15週以降の中絶禁止は憲法違反ではない』と最高裁で判断され、合衆国憲法は『中絶の権利を保障していない』とされた」
中絶禁止に関する州法があるとその州では中絶ができず、ニューヨーク州などのリベラル派の州に移動して中絶処置を受けることになる。すでにニューヨーク州では、中絶を受ける人のためのサポート活動が始まっているという。
「グローバル企業も、最高裁の判断について『時代遅れで古いものだ。アメリカが古い価値観に戻ってしまった』と思っている。社員の中絶処置にかかる旅費を負担すると表明した企業もある。中絶の権利を『州や各企業で守っていこう』といった運動も起きている」
世論の割合はどのくらいの比率なのだろうか。
「アメリカの公共ラジオなどの調査によると、中絶の権利を認めない最高裁の判断について『支持しない(中絶容認)』と答えたのは56%。一方で『支持する(中絶反対)』と答えた人は40%だった。『支持しない』と答えているのは主に民主党の支持者で、『支持する』と答えているのは、主に共和党の支持者だ。ざっくりいうと、こういった形でアメリカの世論が二分されている」
イギリス、カナダといった国からも遺憾の意が示されている中、国際社会からの批判を最高裁はどのように受け止めているのだろうか。
「中絶に反対している人はキリスト教の考え方に基づいている。過去に中絶反対派の人を取材したことがあるが『キリスト教の教えでそうなっているから』という答えで、議論の余地がなかった。だから、中絶反対派の人は他の国から何を言われても関係ないと思っているだろう」
最高裁の判事の発言には性的少数者らが懸念を示している。26日にニューヨークで行われたプライドパレードでは参加者から「同性婚も同じように廃止される可能性がある」「政府は我々の私生活に関与しないでほしい」といった抗議の声が寄せられた。
「アメリカでは一度判事に指名されると、自分から『辞めます』と言わない限りは一生判事だ。大統領のように4年に1回の選挙で替わることがない。これが、制度を変えづらくしている要因でもある。リベラル派が増えるまで、変わらないだろう」