海賊版サイトの“タダ読み”で去年度1兆円の被害、トップ3サイト閉鎖もまだ月に億単位のアクセス 利用が「犯罪に加担する」という意識を
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 漫画などを違法にアップロードする「海賊版サイト」。政府は13日、こうした海賊版サイトへのアクセスの抑止に向けた検討会を開いた。

【映像】海賊版サイトの現状と課題を記者解説

 海賊版サイトといえば「漫画村」などが話題になったが、現状や課題はどうなっているのか。テレビ朝日政治部の小野孝記者が解説する。

Q.現在の海賊版サイトをとりまく状況は?
 ABJ(Authorized Books of Japan=「正規の出版物」を意味するマークを出している一般社団法人)の調査によると、海賊版サイトへのアクセス数が、去年10月だけで4億アクセスを超えた。しかも、上位10サイトうちトップ3だけで大半を占めていて、特定の海賊版サイトへのアクセスが集中する傾向が明らかとなった。翌11月にはトップだった「漫画BANK」が出版権利者などの取り組みによって閉鎖。いったんは減少したが、その翌月の12月以降はまた3.9億アクセスに盛り返し、トップ2が大半を占めるという状況に戻った。今年に入って、政府と連携した出版社の対策チームの活動でトップ2が閉鎖し、4月以降は1.8億アクセスに減っているが、それでもまだ億単位が続いている。

 さらに、ABJは「タダ読み」された金額について、去年1年間で1兆19億円にもおよぶと試算した。東京都のコロナ対策予算が1兆820億円なので、それに迫る勢いということから、コミック市場では「決して無視できない金額」と警戒を強めている。

Q.どういった人や組織が何の目的で海賊版サイトを運営している?
 悪意のない、または違法だとわかっていてもおもしろいコンテンツを無料で見たい、という利用者が多数いることがわかった上で、違法に画像ファイルを複製してアップロードする個人、あるいは組織が存在する。こうした海賊版サイトの運営者は、データ保存、サイトへの誘導、コンテンツの配信という流れを整え、アクセスを稼ぎやすい仕組みを作って広告収入を得る。

 運営者は海外、特にベトナムに拠点を置くと推測されるサイトのアクセス数が多いことが注目されている。去年12月のアクセス数トップ10のうち、3億1000万アクセスがベトナムにあるサイトだった。トップ3閉鎖後の今年4月でも、ベトナムのサイトが5000万アクセスと、まだかなりの影響力を持っている。

Q.海賊版サイトを利用するユーザーにとってはどんなデメリットがある?
 今回紹介された調査結果によると、利用者は「海賊版サイトを利用したくない」という意思を十分に持っているのがうかがえる。海賊版コンテンツをアップロードすることと、ダウンロードも違法だということは大体わかっている人が多いが、「違法にアップロードされたサイトへのアクセス自体がいけないことだ」というところまでは、なかなか追いついていないようだ。

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 例えば、もともとの正規版が無料の場合、これの海賊版をダウンロードすると違法だが、もともとが無料なので刑事罰には問われない。しかし、もともとの正規版が有料なら、違法かつ刑事罰に問われる。例外的に、海賊版のスクリーンショットを撮っただけとか、数十ページのほんの一部だけダウンロードしたとか、画像が鑑賞に堪えないぐらい粗雑だとかの場合も、犯罪にはならない。パロディや犯罪予防のような特別な事情がある場合も、不問となる。

 ただ、違法ダウンロードは、著作権者の告訴があれば「親告罪」として成立する。違法ダウンロードを行う者は不特定多数となるため摘発が難しいのが現状だが、ダウンロードとアップロードを合わせた「併合罪」として加算されれば、最大で12年以下の懲役、もしくは1200万円以下の罰金となる。

Q.13日の検討会で、政府はどんな対策を打ち出した?
 ネット上の誹謗中傷やフェイクニュースへの対策と似ていて、原則「表現の自由など民主主義の観点から、国が介入するわけにはいかない。しかし放置はできない」というスタンス。

 大前提としては、利用者に対する情報モラルやITリテラシー向上のための啓発。利用する人がいるから違法サイトがはびこるわけで、著作権侵害を行う海賊版サイト全体へのアクセスを思いとどまる観点からの普及啓発を行っていく。

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 次に、利用者が自覚せずにアクセスすることを防ぐために、アクセス抑止機能を導入していない事業者に対し、この導入を働きかけるもの。「これは違法だ」と警告画面が自動表示されれば、見た人は思いとどまるだろう。

 さらに、ネット上の誹謗中傷対策として、「改正プロバイダ責任制限法」が10月から施行される。これに基づき、発信者情報を開示させることができるようになるので、これを機に関係機関との連携や周知を進めるとしている。

Q.海賊版サイト取り締まりの課題、障壁は?
 対策のところでも触れたように、海賊版サイトの運営者は、大勢の利用者がいることを知っているから、いくら取り締まってもいたちごっこを続ける。最初の段階として、利用者がその違法性を重く受け止め、犯罪に加担することになるという意識と、正規の事業者にわたるべき1兆円のお金が消えてなくなることで、日本経済にも大打撃を与えていることなどを知ってもらうこと。

 さらに、海賊版サイト運営者の発信者情報についても、10月からの法改正をはずみに、官民一体で取り組みを強化していくことを広報していく。これらがどこまで届くかというところが現状の課題。

Q.海賊版サイトの運営は海外が多いということで国際的な連携も必要?
 インターネットのドメイン管理などを行う非営利団体の「ICANN」などにも働きかけて、ドメインの不正利用への対策で連携していく。特定のサイトの運営者が「ドメインホッピング」といって、ネット資源を悪用していたり、特定のサイトの運営者の登録情報を登録団体が正確に把握することの必要性で、共通認識を図っていく。この他にも、二国間や多国間の国際会合で協議を行っていくとしている。

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 去年11月と今年2月に、EUとの間で戦略会合や政策対話を行って、日本側から総務省による対策を紹介している。今年4月にはドイツとの間でも同様の対話を行っている。問題となっているベトナムに対しても、去年12月、発信者情報の開示制度改正など、制度整備を提案し、現地の捜査当局との情報共有も進めている。

 日本は、アニメ・漫画の世界的な人気を誇るコンテンツ大国。今回の問題は、日本の世界戦略に直結する課題だと捉えても、決して大袈裟ではないと思う。(ABEMA/『アベマ倍速ニュース』より)
 

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