母親から授乳を受けられない低体重の赤ちゃんのために、ドナーから寄付された母乳を届ける「母乳バンク」という取り組みが始まっている。
その取り組みの内容について、新たに開設された都内の施設とドナーとなった女性を取材した、テレビ朝日の林美沙希アナウンサーとテレビ朝日社会部の岩本京子記者が伝える。
■「母乳バンク」の認知度向上へは医療機関への周知も課題
日本財団が4月に開設した中央区の母乳バンクは、善意でドナー登録をした母親たちから、余った母乳を「ドナーミルク」として寄付してもらう。利用するのは、早産などで産まれた1500g未満の赤ちゃんで、母親が体調不良などで母乳が十分に出ない場合に無償で提供される。殺菌処理が済んだドナーミルクは、医療機関の要請に応じて冷凍で届けられる。
取材した母乳バンクでは、開設から3カ月で143人がドナー登録を済ませ、これまでに13人の赤ちゃんにドナーミルクが提供された。毎年、約5000人の赤ちゃんがドナーミルクを必要としており、母乳バンクの取り組みがさらに広がること、認知度の向上が期待されている。
母乳バンクの認知度向上について、「認知度以上に理解を広げていく難しさを痛感した」という林アナは、「他人の母乳をあげることについて、企業のアンケート調査の中では『抵抗がある』という方が6割いた。ドナーミルクを使ったとしても、その後の母親の心のケアといったところを同時に進めていかなければならないと、母乳バンクの方も話していた」と説明。
この点に関して、母乳バンクの水野克己理事長は「これはあくまでも赤ちゃんの治療として、つなぎとして使う一時的なもの。そして、お母さんの母乳に変えていくための準備段階だとわかっていただくと、安心していただけるのではないか」と話している。
また、母乳バンクへの理解は医療機関にも広げていく必要があるという。岩本記者は「NICU(新生児集中治療室)を持っている医療機関すべてが母乳バンクを導入しているわけではない。取材時の話では、『粉ミルクでいいのではないか』という考え方をする医療機関もあるようで、ドナーミルクは栄養価も高く、新生児を救うために適しているということを知らせていくことが求められている」とした。
■ドナー申し込みから登録までに2カ月…運営に課題も
4月に開設された中央区にある母乳バンクのドナーとなった、佐藤彩織さん(31)。知人が超低体重の赤ちゃんを出産したことをきっかけに、自らの母乳を提供することを決めた。「(息子が)飲まなかったタイミングに母乳が余るので、それを搾乳する。捨てるはずの母乳が小さな赤ちゃんに届いて成長に役立つと思うと、すごくうれしい」。
佐藤さんは開設当初の4月にドナー登録を申し込んだが、施設に医師が常駐していないため、問診を終えて登録ができたのは6月だった。ドナー登録できる施設も全国で8カ所に留まっている。また、運営は日本財団の支援のほかは寄付で成り立っているため、資金面でもハードルがある。
ドナー登録がスムーズにいかない現状について、林アナは「佐藤さんは初産だったので、その時に母乳が出ているのかどうかという不安はあったそうだ。6月にようやくドナー登録が完了したものの、1日ごとに自分の体は変わっていく中で、母乳が一番出ていた時期に協力できなかった不甲斐なさというのはおっしゃっていた。その(ドナー登録)期間が短くならないかというのは感じた」と話す。
では、国などが支援することで運営体制を整備することはできないのか。岩本記者は「難しさがある」と説明する。
「厚労省は2014年から3年間、研究班を立ち上げて母乳バンクの安全性に関する研究をするなど、整備に向けた下支えはしていた。海外ではドナーミルクを食品として販売しているような国もあるそうだが、母乳は人により成分も異なり、日本では食品衛生法で食品とするか、薬事法で薬とするか、それとも臓器とするかなど、法的な位置づけがすごく難しい。日本財団が支えている母乳バンクを国のシステムとして運用できないのかというのは、検討されているものの、国が表立ってやる難しさはあるようだ」
一方で、母乳バンクは研究機関としての機能も持っており、栄養価を分析してオーダーメイドのドナーミルクを作る研究、災害時などに備えてドナーミルクを粉末化するような取り組みも進められているという。
母乳バンクの大きな課題は認知度の向上と医療機関への周知だが、林アナはこれに加えて、「母乳バンクのカンファレンスも聞いた中で、女性だけでなく男性にも知ってほしいという話があった。実際にドナーミルクを使う状況になった時、女性側はつらい状況にあって決断がしづらい部分があると思う。そこで男性側が情報を持っていたら後押しができるかもしれない、背中を押してあげられるかもしれないと。女性だけでなく男性にも広がるといいなと感じた」とも述べた。(ABEMA NEWSより)