メッセージアプリで「春奈」と名乗るアカウントとやりとりしていたのは、50代の日本人男性。「十数万円をだまし取られた」と訴えている。恋愛感情や親近感を抱かせて現金などをだまし取る、いわゆる“ロマンス詐欺”の被害者だ。
この事件の裏にいたのは、タイを拠点とするグループ。タイ警察は5月、中国人20人、タイ人4人をオンライン詐欺などの疑いで逮捕した。被害者は少なくとも10人、1人あたり10万~100万円をだまし取っていたとみられる。タイ警察は「摘発されたグループは美しい女性になりすまし、アプリを使って投資を持ちかけて現金をだまし取る」「被害者の多くは日本人」と話す。
このロマンス詐欺とはどのような手口なのか、なぜ日本人が狙われるのか。現地を取材したANNバンコク支局の久須美慎記者が伝える。
Q.詐欺の手口はどんなものだった?
(1)出会い系サイト・マッチングアプリを通して若い女性になりすましたアカウントがターゲットと接触、(2)サイト・アプリからLINEのやり取りに誘導、(3)投資で成功しているように自身を見せたうえでターゲットにも投資を勧め、(4)投資ブローカーを紹介する、というもの。このブローカーも実は詐欺グループの仲間。実際にターゲットから現金が振り込まれたところで連絡を絶ち、振り込まれた現金をだまし取るという。
Q.メッセージの日本語が拙く、日本人ではないと想像できそうな気も。なぜ騙されてしまう?
まず「春奈」という人物のプロフィールの一部について説明したい。「東京在住/2年前に戻るまでカナダ在住」という部分、摘発された24人の中に日本語が話せる人物はほとんどおらず、翻訳アプリでコミュニケーションをとっていたとみられる。この「カナダに長く住んでいた」というプロフィールはその違和感をなくそうという意図があるとみられる。
被害に遭った男性も、日本人ではないのではないかと薄々気づいてはいたそうだが、特に気にせずやりとりを続けていたという。お互いの生活についてやりとりする中で、高級車の写真が送られてきたり、母親と寿司を楽しんだというメッセージがきたりと、節々に「春奈」には“裕福さ”を感じたそうだ。グループが拠点としていた宿泊施設から押収されたパソコンには高級車や札束などの写真が保存されていたが、これらの写真を相手とのやりとりで頻繁に使うことで、「春奈」=“投資で成功した若い女性”というイメージを作り上げていったと思われる。
別の被害者にも話を聞くことができたが、「本当に好きになった」「この女性のためにお金を払う」とまではいかなくても、コミュニケーションをとる中で親近感が湧いてきたという。恋愛感情をもつようなレベルに至らなくても、やり取りをする中で徐々に相手に対する警戒心が解かれていったところで投資の話が持ち掛けられたという流れだったようだ。
Q.一度も会ったことのない人の“投資話”に疑問を持たないもの?
摘発時の映像で、パソコンの画面の中にLINEのメッセージウインドウがいくつも並んでいた。「春奈」だけでなく「奈子」など女性アカウントを大量に用意し、複数の人とのやり取りを同時進行で行っていたとみられる。“100人が100人だまされなかったとしても、1000人だったら1人は反応するかもしれない”というように、詐欺グループはとにかく多くの人物と接触し、メッセージのやり取りをしていたとみられる。
Q.摘発されたグループは日本語が不自由な中でどうやってそれだけの作業をしていた?
押収されたデータの中から、中国語の資料が見つかった。投資に関する想定問答のようなものが13ページにわたってまとめられている。例えば、「じっくりと考えたい」と言われたら『優秀なビジネスマンはチャンスを手放さない』だとか、「妻に相談すべきか」と聞かれたら『ビジネスで一番大切なのは、その瞬間をつかむ決断力』など、状況に応じたセールストークが記されている。これをグループ内で共有して、相手の背中を押すようにやり取りをしていたと思われる。
現金を口座に振り込ませる形式の詐欺の場合、犯罪に使われている口座が凍結されてしまえば詐欺グループは現金を引き出すことができなくなる。かなりスピード勝負のようなところがある。相手に考える隙を与えずに、現金を振り込ませようとしてくる。今回のケースも、やり取りの中で「すぐ口座を作りなさい」としつこく迫っていた。
Q.なぜ日本人が狙われる?
いろいろなグループがあると思うが、今回摘発されたグループに関しては日本人をターゲットにしていたと思われる。タイ警察によると、日本はLINEなどのコミュニケーションツールが広く普及しているため、個人間のやり取りにつなげやすい面がある。また、インターネットバンキングやアプリを使った投資など、お金のやり取りが携帯1つでできるような非常に便利なサービスも広く使われている。スピードを求める詐欺にとっては現金振り込みや入金の便利さ・手軽さがつけ込むチャンスになっているかもしれない。
Q.出会い系サイトやマッチングアプリ等による国民生活センターへの相談件数は急増しているが、被害にあわないようにするためには?
国民生活センターは「面識のない人からの投資話や金銭のやりとりの話には応じないで」と呼び掛けている。これが一番の被害予防の方法。
今回、取材に応じてくれた被害者の男性から、実際のやりとりの詳細を聞くことができた。具体的なやり取りがどんなものだったのかを知っておくことで、もしこの先、自分の身に起きた時に「これは詐欺だ」とイメージでき、この先の被害防止につなげることができると感じる。(ABEMA NEWSより)