「本人とデジタル的な分身の区別が困難に」 総務省で研究会発足も…“メタバース”は誰が管理する? 法と哲学に問題は
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 今月、総務省で「Web3(ウェブスリー)時代に向けたメタバース等の利活用に関する研究会」が行われた。

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 「メタバース」とは「インターネット上の3次元仮想空間」のことで、こうした仮想空間を作る試みは1980年代から始まり、オンラインゲームSNSとして発展。近年ではオンライン会議も普及し、新しいインターネットの潮流として注目されるようになってきた。

 総務省で、同研究会が行われた目的と理由について、テレビ朝日政治部・総務省担当の小野孝記者はこう話す。

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「これまでの『Web2(ウェブツー)』と言われる時代では、GoogleやMeta(Facebook)といった少数のプラットフォーム事業者がサービスを独占していました。ここにきて、寡占状態によるさまざまな弊害が指摘されていて、分散管理型を目指す動きが加速しています。システムを動かすプログラムやデータを仮想通貨に使われる『ブロックチェーン』と呼ばれる技術を使って、公共的に登録していこうとする動きが出てきました。ただ、そうなると、より自由度が高まる一方で、偽情報の判断や、なりすましの判別が難しくなる可能性もあります。今後、利用者が不利益なく使えるようにするためにはどのようにするべきか、その課題を整理する目的で、総務省で初会合が開かれました」(以下、小野孝記者)

 そもそも「Web3」とは、一体どのようなものなのだろうか。

「まず『Web1』は、使う道具はパソコンのみで、扱うデータはほぼテキストのみです。パソコンでメールをしたり、ホームページを閲覧することで精いっぱいです。次に『Web2』になると、道具がスマートフォンに進化し、扱うデータもSNSまで拡大しました。やりとりが双方向になり、画像や動画がふんだんに使えるようになりました。そして、次の『Web3』はパソコンやスマホに限定せず、VRゴーグルなども含めて、メタバースと呼ばれるネット上の3次元仮想空間にアクセスし、臨場感や没入感が味わえます」

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 政府はなぜ「Web3」や「メタバース」の発展・活用に力を入れようとしているのだろうか。

「一言でいうと、応用範囲の広さです。公共的な手続きからビジネスまで、例えば、わざわざ役所に行かなくてはできない煩雑な手続きや行事への参加が、いつでもどこでも手元の端末で完結できます。こういった仕組みは、いままでにもありましたが、より高度にできるようになると、時間の節約、コストの削減にもなり、不在者投票など、障害者の社会参加を促すことにもつながります。ほかにも、自動車の運転や、危険な作業のシミュレーション、訓練など、応用範囲はものすごく広いといえます」

 会議の冒頭、金子総務大臣は「メタバースが実現すれば、画面越しという表現を超え、あたかも実際に目の前にあるかのように会議や仕事をしたり、様々なイベントをバーチャル空間で開催することが可能となる。私たちの社会を大きく変えていくエンジンになる」と期待を示した。

 実際にメタバースの世界市場は、2021年の389億ドルから2030年に6788億ドルまで、約17倍に拡大すると予想されている。すでに政府の「メタバース」活用例やこれから活用しようとしている具体案はあるのか。

「国土交通省では『デジタル秋葉原』で知られるように、現実の都市空間を仮想空間上に再現する『デジタルツイン』というプロジェクトが立ち上がっています。自治体が保有する情報をもとに都市の3次元情報を整備し、現実の街をメタバースとして仮想空間上に再現、その空間でイベント等の実施が可能です。すでにリアル空間への訪問を促す試みが複数の地域で進展しています。また、一部の大学等では、メタバース上で講演や授業を実施したり、民間では製造業や建設業をはじめ、あらゆる産業分野で仮想空間の利用が進みつつあります。テレワーク用のバーチャルオフィスを提供する事業者も出現していて、人事研修にメタバースを利用する会社も出始めています」

 今後「メタバース」の発展・活用で、社会はどのように変わっていくのだろうか。

「これまで物理的に難しかった体験が仮想的に容易になるという点から、旅行のメタバース化などの発展が期待されています。コロナ禍や高齢化など、健康上の理由で、自由に海外旅行に行けないストレスを技術的に解消するようなビジネスに拡大が見込まれています。そのほか、原子力発電所の運転や、高い所から飛び降りるようなスポーツ、危険を顧みることなく実現できる体験分野には、特に活用が広がるでしょう

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 注目が集まるWeb3やメタバース。しかし、小野記者は新たな問題について、こう指摘する。

「どうしても技術的な側面に目が行きがちですが『もう一つの世界を作り、そこで活動する』ことにもなります。よって、社会の中で起こり得るあらゆる差別への対応も含めた基準作りが重要になってきます。すでに、ネット上で問題になっている誹謗中傷をはじめ、仮想空間の中で『アバター』を攻撃したり、殺害したりした場合、これを法的・哲学的にどのように考えるべきか。そして、誰が規制するのか。どの国の管轄であるべきか。答えのない新たな問題に直面することになるでしょう。これまでにも出ている問題ですが、メタバースの世界では、本物そっくりのアバターが登場したり、AIが自動的に文章を作成したりと、その本人とデジタル的な分身との区別が、より一層難しくなっています。直近の課題としてとらえられているのは、なりすまし問題です」

 総務省の研究会では、高齢者のメタバース活用にも言及された。小野記者は「まずは課題を整理していくべきだ」と話す。

「研究会でも『100歳のお年寄りでも使えるようにしないと意味がない』という指摘がありました。デジタル技術に詳しい若者だけが使うのではなく、高齢者も役所の手続きや選挙の投票、買い物など、生活全般に関するあらゆる場面で使えるようにならないといけない。そうしないと、コストばかりがかかって、社会全体が使える便利なツールにはなりません。総務省では、期待の裏返しとして、多くの不安の存在もまた事実だとした上で、メタバースの具体的な利用場面を丁寧に想定しながら、わかりやすく利用しやすいサービスの実現に向け、まずは課題を整理していくべきでしょう」

ABEMA/「倍速ニュース」)

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