永野芽郁と奈緒が出演する映画『マイ・ブロークン・マリコ』が9月30日(金)より公開される。2人が共演するのは朝ドラ「半分、青い。」以来4年ぶり。さらに、2度目の親友役となるが、今回2人が演じるのは、ブラック企業に勤める主人公・シイノトモヨと、その親友で虐待されていた過去をもつイカガワマリコ。ある日マリコの死をテレビで知ったシイノが、マリコの父親から彼女の遺骨を強奪したことから物語が始まる。
一筋縄ではいかないキャラクターと物語に2人はどのように挑んだのか。「手を繋いで飛び込んだ」と語る永野と奈緒に、撮影を振り返りお互いの魅力について語ってもらった。
「手を繋いで飛び込んだ」新たな挑戦となった再びの親友役
――朝ドラ「半分、青い。」以来の共演ですが、出演が決まったときはどのように感じましたか?
永野:元々「半分、青い。」が終わってからも交流があったので、また親友役で今回のお話がきたときは、お互いに「縁があるね」と話していました。前回とは違うタイプの親友役だったので、そこでもわたしたちを求めてくれるという嬉しさもありましたし、そこに全力で応えていこうという気持ちでした。
奈緒:また芽郁ちゃんとお芝居をして時間を共にできればと思っていたので、嬉しかったです。それが私がこのお仕事を続ける上での目標の一つになっていました。
私はシイノ役を芽郁ちゃんがやるということ自体にすごくワクワクしていたので、その側にマリコとしていられるということはすごく光栄に感じました。お話を頂いたときに、2人だからできるものが生まれるのではないかなと思いました。
――共演が決まったときに連絡を取り合ったりしましたか?
永野:最初にお話いただいたときに「マリコ役は奈緒さんにお願いしたいと思っています」と聞いていて、でもお互い言っていいのかわからなくて。(奈緒に向かって)仲良いけどやっぱりお仕事だし、お互いなんとなく探り合ってたよね。「これ知ってる?」「もしかしたら来た?」みたいな(笑)。
奈緒:そうそう(笑)。
永野:奈緒ちゃんも今回は難しい役ですし、私自身もいろいろな葛藤があったのですが「私たちなら大丈夫とだね」と一緒に挑戦しようという気持ちになりました。
奈緒:手を繋いで飛び込んだね。
スムーズにいった役作り 永野芽郁「ここまで元々の関係性が影響する作品ってあるんだ」
――「半分、青い。」のときに感じていたお互いの役者としての凄みと、今回共演して新たに気づいたことを教えてください。
永野:奈緒ちゃんは繊細だけど強さもあって、優しくて温かさもある人。「半分、青い。」のときにも、その素の人柄が役に反映されているなと思っていたんですけど、今回さらにそれが強まりました。マリコは複雑なバックボーンを持った特殊な役柄で、見ていて苦しくなる瞬間も多々あるのですが、それがただの可哀想な、悲しい人に見えない。それだけじゃない、ちゃんとマリコの人生を感じさせてくれる。だから、マリコのそばでシイノは頑張れる。シイノを突き動かしてくれるのが、奈緒ちゃん演じるマリコだったから、すんなりと演じることができました。マリコを奈緒ちゃんがやってくれなかったら、私はもっと苦労しただろうなと最初から思っていました。
奈緒ちゃんは、お芝居だけどお芝居じゃないと感じる瞬間が多い方。同じ職業をやっていますけど、現場にいながらシーン一つ一つに立ち向かう姿を見て刺激を受けました。
奈緒:会った時から芽郁ちゃんはすごかったので、あれから4年も経ったのかと思うくらい、当時のことは鮮明に覚えています。当時も今回も座長として立ってくれて、その器の大きさに毎度のことながら驚いています。可愛らしい華奢な体の中にものすごく大きいお皿を持っていて、全部受け止めてくれる。しかも、それを会ってすぐに感じさせてくれる。年齢とか経験とか関係なく芽郁ちゃんには度量がある。そんな凄みを感じて心から尊敬してます。
永野:なんか私たち褒めあってるね(笑)
奈緒:(笑)
――2人の元々の関係が役に立ったのでしょうか?
永野:間違いなくありました。ここまで元々の関係性が影響する作品って存在するんだなと思いました。これが初めましての相手で、そこから距離を縮めていかないといけない方だったら、そっちに一所懸命になりすぎて「シイノとマリコ」になるのに時間がかかったと思います。撮影期間は約20日間だったのですが、その短い間でここまでできたのは奈緒ちゃんだったからだと思います。
奈緒:今回、私の出演シーンは過去の回想シーンと幻影のシーンだけ。回想シーンは、生きてるときのハイライトとして描かれるので、役の背景を演技で描かなければいけないので難しいんです。でも、シイノが芽郁ちゃんだったので、感情を作る必要がなかった。芽郁ちゃんだから、この関係性だから絶対に描けたものがあると演じているときにも実感が湧いていました。
――実際の2人とはかけ離れた役柄かと思いますが、お互いに見ていて役のこの部分は重なるかもというところはありますか?
永野:うーん、マリコか(笑)。
奈緒:(笑)
永野:奈緒ちゃんは本当に優しくて繊細な人なので、我慢している部分があるかもしれない。そこを私は守りたいと思うので、そういうところは似ています。
奈緒:喫茶店のシーンでマリコにシイちゃん(シイノ)が怒るシーンがあるんですけど、芽郁ちゃんもほわんとした空気を持ちつつも、人のために怒れる人なんです。もし、私が自分を大事にしてなかったら、芽郁ちゃんはきっと私より先に泣いて怒ってくれるかもしれない。シイちゃんの強さの真ん中には優しさがある。その芯の強さの部分は芽郁ちゃんに重なります。
「自分の気持ちをまっすぐ、相手にとっても嫌じゃない伝え方で」座長・永野芽郁が意識していること
――マリコは抱えている事情ゆえにめんどくさいところもあるけど、愛すべきキャラクターですよね。自分のここがめんどくさいと思うところはありますか?
奈緒:私はめちゃくちゃめんどくさいです。
永野:え?どこが!?(笑)
奈緒:考えすぎちゃうところ。「まぁいいか!」って言える自分になりたいと思って生きてるんですけど、気がつくと考えすぎちゃう(笑)。
永野:そうか、私は考えられる人が好きだけどね。
奈緒:芽郁ちゃんはそういう風に言ってくれます(笑)。
永野:台本があって言葉をすごく大切に扱っている仕事をしているので、ちょっとした言葉のニュアンスが大事だなと思っています。それゆえに、自分で言ったときも「あ、今の伝え方間違ったかも」とか、人に言われたときも「それってどういう意味?」って考えちゃうときがあります。私も考えすぎかな(笑)。初めましての人が多い現場に飛び込むので、傷つけないで伝えるにはどうしたらいいんだろう?とか、自分の気持ちをちゃんとまっすぐ、でも相手にとっても嫌じゃない伝え方を…と日々考えているので、そんなに考えないでいいんじゃないかと自分でも思います。
奈緒:わかります。自分の言葉が自分が思っている範囲以上に届くので、仕事を始めてより考えすぎてしまうようになったかもしれないですね。
――先ほど奈緒さんが永野さんの受け皿が大きいと言ったのは、そういうところが出てるんでしょうか。
奈緒:そうだと思います。すごく考えて、周りのことを見てくれているのにそれを見せない。それで私たちは飛び込んでいけるんだと思います。
周りの人のためにまずは自分を大切に…永野芽郁と奈緒の共通する思い
――お互いのやさしいエピソードを教えてください。
永野:そんなのお互いの秘密ですよ!(笑)でも、誰が見たって奈緒ちゃんは優しい人じゃないですか。人のことを素直に褒めて、いいところを見つけて言えたり、自分が嬉しかった話を本当に嬉しそうに話してくれる。奈緒ちゃんのお母様ともお会いしましたが優しい穏やかな方で、奈緒ちゃんのこのオーラはお母さんからきているのだなと感じました。いろんな経験してきているはずなんですけど、その苦労を全く感じさせない、雲の上で育ったみたい雰囲気を持っているんです。
奈緒:雲の上(笑)。
永野:うん、雲の上。水蒸気だから乗れないはずなのに、乗れる(笑)。おおらかでみずみずしくて、一緒にいたら優しくなれて、自分のことを好きになれるんです。
奈緒:私も同じです。芽郁ちゃんといると、自分でいていいんだと思わせてくれる。自分らしく、自分を大事にしようと思わせてくれる。自分の存在を肯定してくれる人なんです。私以上に私のことを考えてくれる瞬間がある。余裕があるときならそれができるかもしれないですけど、芽郁ちゃんだっていつも大変なものを、責任を抱えているのに。
毎回一緒にいることで助けられています。
――シイノとマリコのように、お互い大切な存在なんですね。
永野:そうですね。
あの2人も共依存ではなくて、友情というものを超越した関係なんです。家族にはなれないけど、家族みたいに切っても切っても切れない、特殊な2人。それとは違う形ですが、私たちもずっと一緒にいると思います。
――シイノにとってのマリコのように、人生をかけて守りたい存在はいますか?
永野:難しいですね(笑)。ただそうなると自分ってなっちゃいます。自分のことを守れないと人のことを守れないので、まずは自分のことを大切にしていきたいと思っています。
奈緒:私もそうです。ずっと家族だと思ってたんですけど。家族の幸せってなんだろう?って考えたときに、私が幸せでいることが大事だなと感じたんです。母と一緒に暮らしているので、母は自分の鏡だなと思うんです。私が疲れて帰ると、母も疲れている。なんで元気がないんだろうと最初は思ってたんですけど、「あ。私が疲れてる、私が元気ないからお母さんも元気ないんだ。私が笑うとお母さんも笑ってくれるんだ」と、一緒にいることで気付かされることがありました。
永野:自分でモチベーションを上げられたら素敵だなと思います。自分が傷ついたときに、自分で励ませる人になりたい。自分は自分で何かできる人でありたい。これから経験して考え方も変わってくると思いますけど、今の私は自分のことをちゃんとできないと人のことを考える余裕もないので、そういう人間でありたいと思っています。
写真:You Ishii
文:堤茜子