ドラマ『透明なゆりかご』、朝の連続テレビ小説『おかえりモネ』など多くの作品に出演し、その確かな演技力で人気を獲得してきた女優の清原果耶が、この秋演じるのは水墨画界の新進気鋭の絵師。映画『線は、僕を描く』が10月21日(金)より公開される。主演を務めるのは横浜流星。辛い背景をもつ大学生の青山霜介(横浜)が、水墨画の巨匠・篠田湖山(三浦友和)と出会うことで水墨画の世界に魅力され、過去を乗り越えていく物語で、清原は湖山の孫・篠田千瑛を演じる。
清原と横浜が共演するのは映画『愛唄 ー約束のナクヒトー』(2019)以来3年ぶり。さらに、メガホンを取った小泉徳宏監督とも『ちはやふる -結び-』(2018)でタッグを組んでいる。再びの横浜、小泉監督との現場で清原はどんな成長を見せたのか。撮影期間を振り返り、また演技に対する思いを語ってもらった。
横浜流星とは『愛唄』以来の共演「背中が大きくなっていました」
――千瑛を演じる上で準備したこと、意識したことを教えてください。
清原:クランクインする前に、監督と二人で何時間も脚本について話し合いました。なぜ千瑛はこんな言葉の言い回しなのか、この時期は霜介にどのくらいの強さで当たっていたのか、など。細かいすり合わせを丁寧にさせていただきました。そこから私なりに千瑛を構築していって、現場で霜介にどういう印象を与えたいかによって“柔らかさ”を調整していきました。
――千瑛は霜介のライバルとしての立ち位置にあたりますが、清原さんはどのように二人の関係をとらえましたか。
清原:私の中で、霜介と千瑛の関係は「同じ悩みを抱えている同士」という印象が強かったです。それぞれに過去にトラウマを抱えていたり、悩んでいることがある上で、水墨画で繋がっている。それによってお互いに強くなっていく。
――霜介役の横浜さんとの共演は『愛唄 ー約束のナクヒトー』(2019)以来ですよね。印象に変化はありましたか。
清原:背中が大きくなっていました。この数年で様々な現場を経験して、いろいろと吸収されたんだなと感じました。でも、変わらないのは、真っ直ぐさ、誠実さ、ストイックな部分。役者さんとして本当に素晴らしい方だなと思いました。
『線は、僕を描く』は、霜介がどう成長していくかという話だと思っているので、私が千瑛を演じることで、霜介も流星くんも助けられる部分があればいいなと思いました。
――横浜さんと現場で演技について話し合うことはありましたか。
清原:はい。監督と流星くんと話しながら、作っていきました。
――清原さんは『愛唄』のときから、さらに大人っぽくレディになられているように感じました。
清原:ありがとうございます(笑)。でも、流星くんにもプロデューサーさんにも「大人になったね」って言われました!「ハタチになりました」と(答えました)。あのときは16歳くらいだったと思うので。流星くんには「びっくりした」って言われました(笑)。
――(笑)横浜さんの方が変化に驚いていたんですね。江口洋介さん、三浦友和さんとの共演はいかがでしたか。
清原:お二方とも今回の現場が初めましてでした。江口さんは男気あふれる、太陽のような方でした。すごく面倒見が良くて、現場で暖かく見守って、鼓舞してくださりました。私が「コーヒーを挽いて飲んでみたいんです」という話をしたときがあったんですけど、次の撮影のときに江口さんが「俺、これ愛用してるんだよ!」ってドリップする道具をプレゼントしてくださったんです。江口さんは、とても多趣味な方でコーヒーにも詳しくて。「果耶ちゃんは一人暮らしだから、俺はもっと大きいの使ってるんだけど。よかったら使って!」と。世間話程度にしかしてないのに、そこまでしてくださったことに感動しました。
三浦さんが演じた湖山は、千瑛にとって師匠でもありおじいちゃんでもあるという難しい距離感でした。なので、まずは、三浦さんがどのような方なのか知りたくて、撮影の休憩中に、隣に座りに行ったんです。それで様子を伺っていたら、三浦さんの方から「小泉監督とやったことあるみたいだけど、どうだった?」と話しかけてくださって。私がその監督と仕事をしたことを知ってくださっているんだと、嬉しかったです。私が現場でうまくいかない日があったときも「そんなときもあるよ」と励ましてくれたり、本当に暖かいお二人です。
――皆さんに愛されていたんですね。先輩俳優の皆さんと仲良くなるために意識していることはありますか。
清原:基本的には私はうまくやれない人間なんです。何か企んだらすぐバレると思います。なので純粋に、お話聞いてみたい、作品の感想を伝えたいとか、そういう気持ちだけで。緊張するんですけど、あまり身構えないように現場に入るようにしています。
小林東雲先生から学んだ水墨画マインド「失敗はない。全部がそれぞれの個性」
――小泉監督は清原さん演じる千瑛にどのような期待をしていたのでしょうか。
清原:クランクイン前に、「千瑛はこの作品のヒロインなんで」と念押しされました。私も「ですよね」って(笑)。「監督が思うヒロイン像はどんな感じですか?」と話し合った思い出があります。
千瑛は一見、怖そう、強そう、シールド張ってそうというイメージ。だけど、この作品の中でのヒロイン感をなくしてほしくないから、怖くしないでほしいというオーダーがありました。監督の思う細かいヒロイン像を作るのが大変でした。何回もテイクを重ねました。
――「ヒロインだから」という言葉は女優としてプレッシャーを感じるのでしょうか?
清原:プレッシャーというよりも、「ヒロイン」も人それぞれだから、どういうヒロインなのだろうという思いがありました。私の場合は、朝ドラ『おかえりモネ』をやった直後にこの作品があったので、「“ヒロイン”って…あれでいいの?」と悩みました(笑)。あの作品だとちょっと違うのか?と(笑)。なので、監督のヒロイン像をよく聞くようにしています。
――役作りの中で小林東雲さんに水墨画を習われたそうですね。清原さんご自身の描く線はどのように変化されたのでしょうか?
清原:実は、私は(練習を)1ヶ月くらいしかできなくて。そのときにプロデューサーさんから、「この短期間で水墨画をうまく描くようにはなれないから、千瑛として現場に立つ上での所作や立ち振る舞いをちゃんと身につけてください」という話になりました。なので、その練習をしていました。元々、水墨画をずっとやっていた人に見えるような動作。もちろん私自身は絵を描けるようになりたかったので、先生のお話を聞いて練習していたんですけど…自分で上手とは言えないです。先生も励ましてくださったので、なんとかやっていけたのですが、自分の線がどうなったのかは分かりかねます(笑)。
初めは白い紙に墨を使って描くのも、失敗してしまうのではないか、間違えてしまうのではないかと怖かったのですが、練習していくうちに先生が「失敗は本当にないので。全部がそれぞれの個性で正解なので、何も気にせず楽しくやってください」とおっしゃってくださいました。そこからは「今のどうだったかな」と思っても、「次、いいの描けばいいか!」くらいの気持ちで水墨画を楽しめました。
『あさが来た』『おかえりモネ』朝ドラで受けた刺激「私も負けないようにしないと!」
――千瑛にとっての湖山のように、清原さんが演技の面で師匠と呼びたい方はいますか。
清原:『あさが来た』(2015)という朝ドラに出演させていただいたときに、そのとき初めてのドラマで、お芝居もやったことがなかったので、どうしたらいいんだろうと思っていたのですが、宮﨑あおいさんのお芝居を間近で見させていただいて感動ってこういうことなんだと、すごく影響を受けました。どうしたら自分の中で納得できるのか、監督はOKと言ってくれるのかと、お芝居のことをもっと知りたいと思ったきっかけの人です。
――素敵な先輩ですね。同世代の方との現場で刺激を受けたこともありますか?
清原:私、実は学園ものとかもあまり出ていなくて、あまり同世代の方と現場で一緒になる機会が少ないんですけど…『おかえりモネ』でありました。幼馴染の恒松祐里ちゃん、永瀬廉くん、前田航基くん、高田彪我くん、そして妹の蒔田彩珠ちゃんとぶつかるシーンがあったときに、みんなが個々でじわじわと燃えたぎる熱と言いますか、若い青い炎が燃え上がっていたんです。モネは一歩引いたところでみんなを見て、包み込むようなキャラクターだったんですけど、内心「私も負けないようにしないと!」と燃えていました(笑)。
マネージャーからの言葉で意識するようになった「柔らかさ」
――この作品の登場人物たちのように、ご自身の中で成長したなと実感するところはありますか。
清原:昔はもっと頑固でした。私はよく言えば「負けず嫌い」「真っ直ぐ」、悪く言えば「独りよがり」「頑固者」。でも、あるとき「いろんな人の話をちゃんと聞き入れながらお仕事をしたほうが楽しいんじゃない?」と言ってもらえたことがあって、自分の中で「確かに」とすごく腑に落ちました。2年前くらいの話なんですが、「柔らかく現場で過ごすには、どうしたらいいんだろう」と考えるようになりました。それから振り返ってみると、現場で「この人すごく優しい」とか「あったかいな」と居心地の良さを感じさせてくれた人は、みなさん柔軟性のある人でした。
――その言葉をいただいたのはどなたでしょうか。
清原:マネージャーさんです。女優とマネージャーは違うお仕事ですし、両極と言っても過言ではないんですが、マネージャーさんの助言を受け入れて、そういった部分を身につけていたらいいなと思いました。
――素敵な関係ですね。最後に本作の見どころを教えてください。
清原:私がこの作品を見て努力って大切だなと改めて感じました。「努力は裏切らない」とまでは言えないですけど、頑張り続ける美しさというのは確実にあると思います。何に対しても諦めないこと。人それぞれ、学校や仕事、人間関係、色々悩みはあると思うんですけど、自分が向き合うことを教えてもらった作品だったので、皆様にも見ていただきたいです。
(c)砥上裕將/講談社 (c)2022映画「線は、僕を描く」製作委員会
写真:You Ishii
取材・文:堤茜子