俳優の東出昌大が、山から下りてきた。久々の主演映画『天上の花』(12月9日公開)PRのために。入山法子とW主演した『天上の花』で東出が演じるのは、純粋な文学的志向と潔癖な人生観の持ち主である達治。達治は師として仰ぐ萩原朔太郎の美貌の末妹・慶子(入山)と恋に落ちるのだが、彼女はあまりにも奔放だった…。萩原朔太郎の娘・萩原葉子による小説『天上の花-三好達治抄-』が原作。達治の悲しみと破滅を東出が具現化する。
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芝居で自分自身をボコボコに
──愛を求め拒絶され…。凄まじい役柄を見事に体現されました。しかし撮影中はメンタルもきつかったのでは?
まさにその通りです(笑)。精神的に自分を追い詰めないと演じられない役柄はしんどいです。慶子に愛してほしいのに理解されず、達治が憤りを表す場面では役を通してではあるけれど憤る感情を自分の中から呼び起こさないといけません。慶子を殴ってしまったことへの後悔から自分をボコボコに殴る芝居では、気持ち的にも肉体的にも削られます。でも俳優とはそれがあって当たり前の仕事。その精神的痛みと共生しながら演じていきました。
──しかも脚本家の一人は、性愛を通して男女の本質を鋭く描いてきた荒井晴彦さんですからね。
僕は『火口のふたり』など荒井晴彦さんの脚本が大好きで、破滅的というかデカダンというか、荒井さんの脚本には危険な色気のようなものを感じます。「愛とは何だ?」「愛と恋との違いはわかるか?」など色々とお話をさせていただきました。撮影に入る際には「お前がこの映画を繋ぎ留めろ」とわざわざ激励のメールをくださったりして、気合が一段と上がりました。
──『福田村事件』(来年公開)にも出演されますね?その縁を繋いだのは本作ですか?
そうです。そうですけど、実は偶然3年くらい前に森達也さんが実写映画を初監督するというニュースを目にして「出たい!」と勝手に思っていました。その話をこの映画の撮影中にスタッフさんたちにしたら「それ俺たちも関わるよ」と教えてくれてマジか!?と(笑)。それで念願叶いました。まさに縁だと感じました。
──本作もそうですが、東出さんは好んで非商業的な映画に参加していると感じます。
俳優として勉強をしていく中で、インディペンデント映画って面白いなと思うようになったのがきっかけです。インディペンデント映画の魅力は何よりもその作家性です。広く大衆に受ける商業映画も素晴らしいけれど、インディペンデント映画は自分たちの魂をスクリーンに焼き付けんばかりの情熱を持って取り組んでいる方が多い。そういう方々や作品と共鳴することができたときに俳優としての喜びを感じます。
野生動物たちから得た人生訓
──今年2月にフリーになられましたが、今はどのようなお気持ちですか?
フリーになってみると気楽なところもあり、フレキシブルに動ける分、能動的になっているような気もします。同時に今までいかに大事にされていたのかということも痛感します。請求書を発行しないとギャラって振り込まれないんだ…と思ったりして。これまで事務所の方々が代行していたことも自分でやらなければいけないので、社会の仕組みを理解している最中です。スケジュールも自分で管理していますが、周囲の方々におんぶに抱っこ状態です。僕は今電波の届かない田舎の山に引っ込んでいることから、お仕事をくださる皆さんも「あいつはどうやら山に住んでいるらしい」と理解してくださっているので、返事の遅延にも寛容でいてくれます。里に下りたときに電話やメールを一気にしています(笑)。
──最近は出演作も増えてきていますが、フリーになった当初は不安ではありませんでしたか?
それはあまり考えませんでした。ここ数年山に通う中で思ったのは、動物たちは食べることと子孫を残すことしかやっていなくて、すごくシンプルだなと。そんな姿を見ていると、生きているだけで十分じゃないかと思えたというか。フリーになってどうだとか、俳優人生の展望が開けるか開けないか問題とかも深刻に考えることはせず、いただいた仕事に対していい芝居を心掛けるだけ。とにかく生き永らえることが大事で、そんな考えもあって事務所を辞めるとなっても、あたふたはしませんでした。見えない未来を考えても仕方がないし、暗闇で見えない鬼を探そうとしたって無理な話ですから。
──俳優としての今後の展望をお聞かせください。
仕事が多忙で頭が狂いそうになるということは今後ないと思うので、細く長くやっていければいいかなという考え方です。しかしいただいた仕事は誠心誠意準備を尽くして、一つ一つの作品で役を全うしたと言えるような仕事をしていきたいです。
取材・文:石井隼人
写真:You Ishii
『天上の花』は12月9日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
(c)2022「天上の花」製作運動体
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