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 人気グループ・Kis-My-Ft2のメンバーであり、ミュージカル『ドン・ジュアン』でも主演を務めるなど俳優としても活躍する藤ヶ谷太輔。そんな藤ヶ谷が“人生を懸けた逃避劇”を演じる映画『そして僕は途方に暮れる』が、2023年1月13日(金)より、全国公開される。2018年にシアターコクーンで上演され、各所から絶賛を浴びたオリジナルの舞台を、脚本・監督・三浦大輔×主演・藤ヶ谷太輔が再タッグを組み映画化。

 本作で藤ヶ谷が演じるのは、ほんのささいなことからあらゆる人間関係を断ち切っていく主人公のフリーター・菅原裕一。逃げて、逃げて、逃げまくった藤ヶ谷に、舞台から3年が経過して映画撮影の様子、俳優として演じる喜び、グループへの思いなどを語ってもらった。

三浦監督との再タッグは「精神的にも今までにないぐらい追い込まれた」

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ーー舞台から今回の撮影まで、3年経ちました。役作り・同じ役を演じる点での準備はどのようにされましたか?

藤ヶ谷:舞台の台本を何度か見返しました。“この時にどういう気持ちだったか”というのを読んで思い出しました。今回の現場では、舞台からご一緒させていただいていた方もいらっしゃれば、新たにご一緒する方もいらっしゃるので、「こうだ!」っていうのは決め付けずに、でも、「3年前はこういう感覚だったな」と何となく思い出しながら現場へ向かいました。裕一の最初の逃げ出すシーンまでの頭の部分も大事なんですよね。彼は彼なりに一生懸命生きているだけなので、人を困らせようとか逃げてやろうと最初から決めているわけじゃなくて、何か嫌なことがあると逃げてしまう、それが真面目にやればやるほど滑稽に見えるというので、真面目に真面目にやりました。

ーー撮影時大変だったエピソードを教えて下さい。

藤ヶ谷:三浦監督が求める細かいニュアンスに、お芝居を当てていく作業がすごく難しかったです。例えば、扉を開ける動きや、何かセリフひとつにしても、その時の監督の「あ、今ここでやってほしい!」っていうところに当てていくという。こういった細かい違いを表現するのに、何度もテイクを重ねて、時間もかなりかかりましたし、精神的にも今までにないぐらい追い込まれました。ただ監督は、「今日の撮影長いね~」って何気なく言ってきたりして、「この人どういうつもりなのかな」って思ってました。(笑)でも、時間が押してるからOKとかそういう妥協は全くなくて。今思うとやっぱりすごく素晴らしい経験をさせていただいたなっていう気持ちもありますし、“三浦組を耐え抜いた男”として誇りに思っています!(笑)よく他の俳優の皆さんと番組とかでご一緒することもあるんですけど、舞台でも映画でも、「あれ、三浦組やりましたよね?」っていう何かちょっとシンパシーを感じることがあったりとか。多くは語らなくても、あの空間をクリアした人達なんだっていう。そういう組でしたね、三浦組。(笑)

ーー撮影はハードだったんですね。

藤ヶ谷:そうですね。スケジュール感もそうですし、コロナ禍で他の共演者の方と表立って私語ができるわけでもないし、打ち上げがあるわけでもないから、“解放された、役が終わった”っていう今まで当たり前のようにあった打ち上げができないので、そういうのが重なって、余白の部分というか、遊び心とか良い適当さというか、そういうのを大事にしたいなと思いました。そういう30代、40代にしたいですね。そういう人って、趣味があったりするとそれが発言の説得力になって、「なんか分からないけどあの人魅力的だな」とか、そういう風にうつったらいいなと思います。

芝居をしたい思いが強過ぎた20代を経て辿り着いた「表現をする」という考え方

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ーー藤ヶ谷さんにとって演じる喜びはどういうことですか?

藤ヶ谷:相手と一緒に芝居をやったりすると知らない自分に出会える面白さもありますし、チームで作っていく物作りの面白さ、現場の面白さというのもすごくあって。例えば現場で2時間話してこういうシーンにしようって言っても視聴者の方は2時間話したことを知らないし、結果が全てじゃないですか。そのシビアなところ含め演じるのって面白いなっていうのはありますね。知らない自分に出会えるし。あとはなかなか伝わらない面白さ、俺はこういう気持ちでやってるけど、伝わらないとか。自分も人生の中でこの作品に出会ってよかったなとか、ふとした時にあの作品のあのセリフを思い出すとかってあるじゃないですか。より多くいろんな物に自分も触れていたいし、そこで救われることもあるし。おこがましいけどそういうお手伝いできるような職種なので、自分が何かをすることによって誰かの何かになれたら良いなと思います。

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ーー俳優として、目標などはありますか?

藤ヶ谷:芝居の世界は生半可な気持ちじゃできないし、でもお芝居だけやりたいと言っても僕はベースとしてグループがあるし、バラエティもある。さらに今はMCの仕事をいただいたりとか、新しいジャンルでいうと30過ぎてからミュージカルのお話が来たり、「なんで自分だろう」と思うことが結構あるんです。20代の頃は自分は「芝居に挑戦したい」という思いが強過ぎて、バラエティやってる時も「この時間に他の俳優さんは芝居やってるんだろうな」という気持ちになってしまったんですけど、大人になって芝居だけじゃなく“表現をする”という大きな括りだと自分の中で考えられるようになりました。そうするともしかしたら死ぬ前に「MCをやっていたからこういうお芝居ができるようになった」とか、「バラエティをやっていたからもしかしたら…」って、「自分にしかできなかったな」って思えたらいいなというのもあって、表現に繋がるために色々挑戦させていただいています。今すぐに答えは出ないですけど、死ぬ前に「色々やらせていただけてよかったな」って思えたらいいなと思います。

ーー色々な経験の蓄積が作品に活きてるんですね。

藤ヶ谷:そうなんですよね。ジャニーズはアルバイト禁止なのでアルバイトをしたことがないので、働くシーンとかは相当練習しないといけなかったりします。そういうのも含め無駄なことはないと思うので。

現場では逃げ出すことを妄想していた「窓から飛び降りて走ろうかなとか(笑)」

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ーー三浦監督の作品に出演して大変な分、面白さもありましたか?

藤ヶ谷:知らない自分とか、自分はこういうことができるんだというのを引っ張り出してくださる監督で、三浦さんのパワーはすごいです。あとは、三浦さんは不思議な人で、オールアップした時も俺は解放される喜びと安堵と、色々あって「やったー!」っていきたかったですけど、俺よりも最後喜んでいました。最後、路上で夜中に終わったんですけど、飛び跳ねて喜んでたんです。あれ見ると愛くるしいし、この人面白いな、またやりたいな、という気持ちにさせられます。三浦さんはそれわざとやってるわけじゃないんで。でもあれを見た時に一瞬また三浦さんとやりたいな、と思ったけど、いやいや、1回冷静に考えた方がいいな、10年くらいは空けた方がいいんじゃないか、と思いました(笑)。でも確実に新しい扉を開いてくださる監督さんですね。

ーーハードな現場で自分の心を保つために心がけていたことは?

藤ヶ谷:個人としての成長ももちろんそうですけど、やっぱりグループへ還元しないと意味がないと思います。このお芝居を見て初めて僕のお芝居を見る方もいらっしゃると思うので、この人ってこういうお芝居をするんだ、この人って誰なんだろう、って思った時に、キスマイなんだ、番組見てみようかな、とかライブの時はどうなってるんだろうと広がりに絶対繋げたいです。自分からキスマイを知って他のメンバーのファンになってくれたりしたら理想ですね。「僕を知って僕だけを応援してください」って気持ちは一切ないです。結局この映画は主題歌がキスマイなわけでもないですし、僕のやってるジャンルで還元って難しいと思うんですけど、絶対あると信じて挑戦しているって感じです。役は逃げる役ですけど、現場では一切逃してくれなかったですね。僕が裕一だったらとっくに逃げてるな、と初日から思いました(笑)。僕だったら窓から飛び降りて走ろうかなとか、マネージャーさんに車の鍵もらってそのままアクセル踏んで家帰ろうかなとか…。でも家もマネージャーさん知ってるから結局家にも来るし、その報告が事務所にもいってジャニーズ事務所で仕事もできなくなるし、グループになんて説明しようとか色々考えるから逃げていないだけで、かっこいいなと思いますけどね、裕一は。真面目に生きているので。

改めて決めたベース「グループ活動に支障が出るソロの仕事はしない」

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ーー映画の中で裕一が父親を見て直したりするシーンがありましたが、人のふりみて我がふり直した経験はありますか?

藤ヶ谷:自分でも無意識ですけど、打ち合わせで何か一つ案が出た時に「それ違うと思う」と拒絶から入る人を見ると、こういう人と話したくないな、と思います。自分もそういうとこあるのかな、と思うとめっちゃ怖いですよね。意識として拒絶はしない、求めない、というのを30過ぎてからするようになりました。俺はこう言ったんだからお前はこう言ってくれよ、って求めるとその乖離でどんどんずれていってしまうので、その人がそう言いたかったら言うし…。そう考えるとすごくシンプルになってその乖離に対するイライラもなくなりました。

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ーー仕事で良いパフォーマンスをする上で心掛けていることはありますか?

藤ヶ谷:僕はプライベートも仕事と同じくらい大事にしたいんです。基準としてはグループ活動に支障が出るソロの仕事はしないようにはしていましたけど、でもこの作品をやってみた結果、支障が出てしまったんです。もう一度自分のキャパを見直して、ベースであるグループ活動に支障が出るようなソロ活動はしないと改めて決めました。普段のプライベートの充実さが心の余白を作ると思っていて、その余白の部分で遊べるからこそ遊び心ができると思っています。一杯一杯になっちゃうとそこが埋まっちゃって心が動かなくなっちゃうので、自分の心と相談しながらお仕事をできたらそれが一番幸せですね。今はそれがどれくらいだったらできるのかな、というバランスを試行錯誤しているところではあります。しんどいと結果的に誰も幸せにしないし、自分も家に帰って1日を振り返ると、最近あまり人に優しくないなとか、自分もうちょっと優しいはずだなとか、もうちょっと温かい人だったんだけどなとか、もっと人を好きだったんだけどな、というのに気づいて、映画が終わってから今までの自分というか、フラット(な状態)に戻るまで半年くらいかかりました。

怖がらずに一歩踏み出したからこそ出会えた縁

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ーー今まで逃げないでやったからこそ、よかったことはありますか?

藤ヶ谷:たくさんありますね。この撮影もそうですけど、大変そうだからいいですって断ることはきっとできたけど、断らなかったからこそこうして映像として素晴らしいものが残って、こうして発言できているということがそうですね。ジャンルでいうと『A-Studio+』のMCとかは、今までMCやりたいと思ったこともやったこともなかったので、オファーいただいた時に、「僕できますかね?」って話になって。ゲストで出た時の鶴瓶さんとの掛け合いを見て「なんだこの子は」ってなったと聞きました。その時はミュージカル『ドン・ジュアン』のPRで出させていただいたんですけど、もっと戻ればその『ドン・ジュアン』のミュージカルだって自分にはできないと思っていたんです。でも、何も見ないでやらないと言うのは失礼だと思って望海さんが宝塚でやられた『ドン・ジュアン』を見たんですよ。大阪でライブやってる夜に、部屋で一人で見て、その時にめちゃめちゃ清々しく「あ、これ無理だな」となんの後悔もなく思いました(笑)。初めてお仕事をお断りすることになるんだな、と思いました。

自分じゃなくてもっと経験がある方がやった方が絶対良いし、マネージャーさんに「流石にこれは1カ月半で無理なので」と言って。演出の生田さんがお話をしたいと言うので初めてお会いして、その旨を最初に伝えたんです。「僕絶対できません」って。せっかく選んでいただいて、お会いせずに断ったで終わると失礼じゃないですか。だから筋は通そうと思って直接お会いして、初対面ですけど「僕はできません」って言って。そしたら生田さんが、「ジャニーズで初対面の自分にこんなに正直に気持ちを話す人いるんだ」と燃えちゃったみたいで。色々話して「僕と一緒に冒険に出ませんか」って言われて、この人面白いなと思いました。この人だったらと思って「僕でよければ」って言ったら、いきなり「失礼します」って鍵盤を持ってきた方がいて、「じゃあ歌のキーの確認しますね」って言われて…。あれ、今日話し合いだけだと思ってたんだけど、生田さん的には説得する流れだったのか、と決まったかどうか分からない気持ちでキーのテストしました。

そこでやってみて演じること、ミュージカルの難しさ、そのパワーを体感して、自分にとっては個人で初めてカンパニーというのが出来て、出会いがあっていまだに連絡を取り合ったり。最近はコロナで行けていないですけど、ご飯行ったり旅行に行ったり、そういう出会いがあったので、断らずに怖がらずに一歩踏み出してよかったなという経験はすごくありますね。

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ーーなんで自分がと思っていても、理由を聞いて頑張れるものなのですか?

藤ヶ谷:ミュージカルに関しては正直次にお断りするための理由を作ろうと、そのほうが筋通ってるかなって自分の中で思っていました。今後ミュージカルのお話が来たときに「一度やって失敗したんで、自分に合わなかったんでごめんなさい」はまぁありえるかなと。食わず嫌いとか「僕そういうキャラじゃないんで」とかで、やりませんだと筋が通らないかなと思います。自分のイメージ的には、やって恥かいて終わって「だから言ったでしょ、でも俺はやったよ」っていう感じを想像してたんですけど、好評いただいて2年後に再演して、宝塚からDVDが出て、すごいことになって改めて踏み出したからこそいろんな縁と出会いがあって、逃げなくてよかったなって思います。

ーー逆にやってみて恥をかくことへの恐怖はないですか?

藤ヶ谷:今は無くなりましたけど、30過ぎて初ミュージカルというのは自分の中で引っかかってしまって。今思うと出来ないのが当たり前で、恥をかくのが当たり前で、稽古場で恥をかいて、それを減らしていって本番お見せするという感じでした。今は結構スッキリしてて、何も出来ないんで、最初から。それでもお話いただけるっていうのは、その縁を大事にしたいって思います。

――素敵なお話をどうもありがとうございました!

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『そして僕は途方に暮れる』
2023年1月13日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほか 全国ロードショー

配給:ハピネットファントム・スタジオ
(c)2022映画『そして僕は途方に暮れる』製作委員会

取材・文:斎藤あやか

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