昨年は“産後パパ育休”がスタートするなど、男性の育児参加にも注目が集まったが、なかなか進まないのが日本の現状。一方、北欧のスウェーデンでは男性の育休取得率が約9割にも及び、育児参加が進んでいる。その秘訣はどこにあるのか。ニュース番組『ABEMA Morning』では、スウェーデンで子育てをする日本人に話を聞いた。
スウェーデン在住で、スウェーデン人の夫をもつヨウコさんとマホさん。ヨウコさんは在住16年で、北欧雑貨を日本に輸出する会社を経営。12歳と7歳の男の子の子育てをしている。マホさんは在住3年で、ITコンサルタントとして現地の企業に勤めている。2022年2月に女の子を出産し、現在は育休中だ。
YouTubeで子育てを含む様々な北欧事情の発信をしている2人に、スウェーデンで男性の育児参加が進む“秘訣”を聞いた。
まず、スウェーデンと日本の出産で違うところはあるか。
「一番思うのは、“パートナーありきの出産”」――ヨウコさんによると、スウェーデンではパートナーが出産に立ち会う“立ち会い出産”が一般的なのだとか。
ヨウコさん「出産中もパートナーがどうやって(女性を)サポートするかがすごく重要視されている。産んだ後も『2人で頑張ってね!』と、突然病室で3人だけにされた。私たちが初めてオムツを替えるときには、2人しかいないから『これ、どうやってオムツ替えるの?』『え?え??』といった感じで。病院にいるのに、やり方がわからなくて(笑)」
マホさん「陣痛や出産で眠れなかったときに(夫はそれを)ずっと隣で見ていた。産んだ後も一緒に泊まれるので、彼も入院していた。夫は『あ〜、俺も何かやらなきゃ!』という感じだった」
出産前からパートナーを巻き込んでいるという意味では、日本の出産と少し違うのだろうか。
ヨウコさん「スウェーデンにはあまり里帰りの習慣がないので、本当に助け合えないと難しい」
マホさん「夫に(日本には)里帰り出産という考え方があると伝えたら、『俺から赤ちゃんを取るのか!』と言われた。『僕の子じゃん!やっと生まれてきて会えるのに、なぜその大事なときを取るの?』と聞かれて、スウェーデンの人はそう考えるのかと思った」
2人のパートナーは、どのくらいの期間育休を取っているのか。
マホさん「私が今(13カ月)取っていて、夫はそのあと半年取る。夏休みを入れて半年取って、夏が明けたときに娘を1歳半ぐらいで保育園に入れる予定」
ヨウコさん「うちの場合は、パートナーが生後すぐから1年間取った。1年経って、保育園に入れた。私は自営業なので、会社員とは違い完全に休みを取るのは難しい。だから、何日か休みをはさんだ」
スウェーデンでは、男性も育休を取得するのが当たり前。約9割の男性が育休を取得しているという。日本の男性の育休取得率13.97%と比較すると、その差は歴然だ。
では、なぜスウェーデンでは男性の育休取得率が高いのか。スウェーデンの育休制度で特筆すべき点は、“取らないと損をする仕組み”になっていることだ。
マホさん「(育休は夫も妻も)子ども1人あたり480日もらえる。その480日をどう使うかはカップルによって異なるが、90日はお互いに譲り合えない」
つまり、あらかじめ父親に90日、母親に90日の育休期間が割り当てられていて、そこはお互いに譲り合えない仕組みになっている。そのため、例えば父親が育休を取得しなかった場合、その90日分の給付金を受け取る権利は消滅し、損をすることになる。
しかし、制度の面でいえば決して日本もスウェーデンに劣っていない。ユニセフが2021年に発表した報告書によると、日本の育休制度は41カ国中1位となっている。
※スウェーデンは9位
それでも多くの男性が育休を取得しないのは、“取りたくても取りづらい事情”があるからだ。金銭面や会社での地位を考えると、男性が育休を取得するのは難しいことなのだろうか。
マホさん「スウェーデンでは、ポジションを確約することが(法律などで)決まっているので、それは大丈夫。育休中にもチームミーティングに出たり、会社のマネージャーに今どのような状況になっているかを聞いたりするなど、(職場へ)戻ることを前提に話ができる。自分が戻ったときのモチベーションになり、イメージもしやすい」
また、日本では会社や同僚に負担をかけてしまうことを懸念して育休の取得を躊躇する人もいるが、スウェーデンでは代役を雇ったり業務を引き継いだりすることで、仕事を回しているそうだ。その背景について、マホさんは次のように述べた。
「スウェーデンは有給消化率がすごく高い。みんな夏休みは4~6週間、多い人は8週間取る。そうすると、その人が8週間いない間にどうやってそのタスクを割り振るか。そういうマニュアルができている」
「ワーク・ライフ・バランスが整っているから育休が取りやすいのもあるかもしれない。だから、(仕事での)属人化が少ない。『この人にこれだけ頼っているよ。これはすごいリスクだよ』と言われることをなくそうとしている」
こうした背景もあり、男性の育休取得率が高いスウェーデンだが、ヨウコさんは「実は積極的に育休を取りたいと思っている男性は少ないのではないか」と推測する。
「子どもの学校や保育園の親と話しているときに育休中のお父さんがいるが、お迎えで会うと『めっちゃ大変』と愚痴をこぼしている。『仕事をしていた方が超楽』『早く職場に帰りたい』と言っている人も多い。みんながみんな大喜びで育児休暇を取って育児をしているかといわれると、そういうわけでもない。ただ、女性がかなり強い社会だから『私の仕事はどうなるの?私が働きたいから、あなたが取るしかないんじゃない?』というバランス感覚」
「夫も『当時、育休を取るか取らないかという選択肢があれば、取らなかったかもしれない』と言っていた。別に赤ちゃんが大好きだったわけでもなく、育児がしたかったわけでもないから。だけど今、(子どもが)7歳・12歳になったら『あのときに育児をやって本当に良かった』と言っている。傍から見ても、子どもと夫でお互いにわかり合っている様子が感じられるから、後々実感するのだと思った」
スウェーデンと比べて、日本も“こうなったら良い”と期待することはあるか。
マホさん「(日本の)友達からは『自分はほとんどワンオペでやっている』と聞く。パートナーが朝早く家を出て、夜10時ぐらいに帰ってくる家庭が多い。疲れて帰ってきて『家事をしろとは言えない』と言っていた。それを聞いて、『そうだよな。人間として無理だよね』と思った。そう考えると、やはり労働時間の見直しが必要。スウェーデンではみんな夕方3時半~4時に帰るので、5時にオフィスに残っている人はほぼいない」
マホさん「スウェーデンは働き方の効率が良いと言われるが、『これしか働かない』ということが決まっている。優先順位をつけて後回しになることは、一生経っても起こらないみたいな(笑)それでもどうにか回るので、いらないことはどんどんなくなっていく」
ヨウコさん「お手上げにしちゃうことが多い。もう『できない』とはっきり言われる。『できないけど、頑張ってやる』のではなくて、『できない。無理だから、代わりにどうするか』という考え方になる。できない人を責めることは、あまりない」
マホさん「日本人は、真面目に頑張ることで成り立っている。完璧主義のような人が多いのは素晴らしいことだが、それで(苦しく)なってしまう」
完璧主義からの脱却は、家庭においても重要になってくるのだとか。
ヨウコさん「“手抜き家事”や“手抜き育児”を良しとする空気感はすごく必要だと思う」
例えば、スウェーデンでは食事の準備にあまり時間をかけないという。マホさんは「一品料理でパパパ~って感じ」、ヨウコさんは「1個のプレートの上に穀物・タンパク質・野菜って、ご飯・肉・サラダみたいなものを全部載せる形」と教えてくれた。
子どもが幸せで、食べたいものがちゃんと食べられる。そこを誰かが批判したり、世間体を気にしたりする必要はないのかもしれない。
ヨウコさん「(世間体は)なくていいというか、それを気にしていたら辛すぎる。子どもが小さくてまとわりついているのに、ちゃんとした食事を作ろうと思ったら、本当に大変だと思う。それを理解するには、パートナーも自分でやればいい。そうしたら『食事を作れ』『これしかないの?』なんて言えない。スウェーデンは女性がかなり強いので、そんなこと言おうものなら、、」
マホさん「離婚!離婚!!」
家事や育児、掃除などをパートナーと分担する際に、言い争いに発展するケースも少なくない。2人はどのようにして関係を築いているのか。
マホさん「期待値設定は大事。自分がここまでやって、(パートナーに)やってほしいのはこのぐらい。家がぐちゃぐちゃでも、この子が生きて元気だったらいいやという感じ」
ヨウコさん「手抜き家事、手抜き育児、脱完璧主義。日本の人は基本がすごく真面目で完璧主義なところがあるから、それを心がけないと。自分にチャレンジする感じでね」
マホさん「もし男性と女性両方の稼ぎが良かったら、月に1回の掃除を代行してもいい。スウェーデンだと、掃除・家事を代行している人はすごく多い。手抜きOKじゃないとやっていけない。お母さんでも自分の時間は大事」
(『ABEMA Morning』より)