“会えなくなる絶望感”が引き金に? 禁止命令後の事件 「理性で止まらない一部の人を見分けることが重要。警察官はそこがあまり得意ではない」
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 16日、福岡市のJR博多駅近くで、川野美樹さん(38)が刃物で十数カ所刺され殺害された事件。逮捕された元交際相手・寺内進容疑者(31)には去年11月、警察からストーカー規制法に基づくつきまといの禁止命令が出されていた。

【映像】防犯カメラに並んで歩く2人の姿が

 警察幹部によると、川野さんは去年10月から4度にわたり警察に相談。警察もその都度、パトロールの強化や川野さんへの緊急通報装置の貸与、寺内容疑者を事情聴取し指導を行うなど、手は尽くしたという。しかし犯行直前、防犯カメラには2人が並んで歩く姿が。

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 1999年、埼玉県桶川市で女子大学生が元交際相手の男に殺害された事件がきっかけとなり、翌2000年に制定されたストーカー規制法。以降3度にわたり改正が行われ、SNSやGPSを使ったつきまといも規制対象になるなど強化されてきた。

 禁止命令に効果はあるのか、どのような対処が必要なのか。19日の『ABEMA Prime』で議論した。

 今回の事件について、ストーカー被害者・加害者双方の相談にのるNPO法人「ヒューマニティ」の小早川明子理事長は「喉から手が出るほどほしかった禁止命令をもってしても事件を防げなかったのは、非常に苦しい」とコメント。

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 禁止命令後の事件は、2021年11月に福岡県北九州市、2022年12月に福岡県春日市、今月9日に沖縄県名護市でも起きている。小早川氏は「禁止命令は罰則付きなので抑止力はものすごく強く、警告で止まらなかった加害者がやめることも非常に多い。今回出されたのは緊急禁止命令なので、非常に重いストーカーとみていいのでは。ただ、禁止命令によって『相手ともう会えないんだ』『会ってはいけないんだ』と突きつけられ、ある種の絶望感、それに対する拒絶過敏や喪失・痛みが最高度に達する状況は危険だ。そういった場合は禁止命令が効かない可能性がある、という心構えをしておく必要があると思う」と注意を促す。

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 また、相手がつきまといを続ける人物かの見極めについては、「福岡県警もチェックリストを持っていると思うが、被害者から聞き取った内容をもとに危険度を判定するシステムがあって、そこで最高危険度が出れば禁止命令が効かないことは想像できる。私がカウンセリングをしていても、“この人は理性より欲求が強い”というのは一目瞭然だ。体感、9割方は禁止命令が効くが、理性では止まらない残りの1割を見分けることがすごく大事。実は警察官はそこがあまり得意ではなく、医療の関係者や専門家などが面会したり、チェックリストをより有効的に使って見分ける必要がある。禁止命令を出すのは法的に正しいが、それだけでは事件を防げない」との見方を示した。

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 フリーアナウンサーの柴田阿弥は「私はアイドルだったのでつきまといに悩む子が身近にいる環境だった。家や学校、駅で待たれていたり、直接自宅に手紙やプレゼントが届いたり、きょうだいなどを通じて接近しようとすることが普通にあって、人の話を聞いてもトラウマだなと思うことはけっこうある。被害者が気をつけるべきこともある程度あるかもしれないが、“そんな人と付き合うからだ”“こういう仕事をしているから仕方ない”という雰囲気、今のところ何もできないという状況にずっとモヤモヤしている。稀有なことではないので、周囲の人も『気にし過ぎだよ』などと言わずに、できる限りの対応をとるように促してほしい」と訴えた。

 2021年に警視庁管内で禁止命令が出されたのは139件、それに従わず接近を図って検挙されたのは15件ある。文文筆家の内澤旬子氏は、著書『ストーカーとの七〇〇日戦争』でつづっている自身の被害経験を次のように振り返る。

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 「別れ話をしていて、最初は懇願していたが、『警察に相談する』と言ったとたんに相手が豹変した。メッセージが罵倒に変わり、5秒に1回ぐらいの頻度で送られてくるようになった。警察に相談したら被害届を書くように言われたが、逆怨みが大きくなるんじゃないかという恐怖と、書かないのであれば警察も手を引くという板挟み状態。私はフリーランスなので仕事を変えることはなかったが、被害届を出したら仕事を変えなきゃいけない、引っ越しもしなきゃいけないという状況も待っている。今回の被害者はお子さんがいらっしゃるということで、学校のことを考えると避難や被害届まで踏み込めなかったのもよくわかる。それで悲劇が起こってしまったのは本当に残念というか、自分も一歩間違えたらそうなっていたのではないか」

 元ストーカー加害者の男性の話では、「着信拒否やSNSのブロックは、逆に“会いに行く”行動を思い立たせることになり危険だ」「会った時に驚いて拒絶されて、カッとなる可能性もある」という。

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 加害者との関係を断つ方法として、小早川氏は第三者を介在させることを勧める。

 「“警察に言うとハレーションが起こるんじゃないか”という不安や、実際に危険性が高まるのは確かだと思う。なので、別れると決断したら、弁護士やカウンセラー、親でも構わないと思うが、第三者を置く。『それを飛び越えて本人に連絡を入れたら警察に言うしかない』と事前に伝える段階を経れば、“これは弁護士の入れ知恵なんだな”“カウンセラーがついていたんだな”とリスクが分解されて、被害者の“警察に言うのは嫌だな”という感情も緩和される。加害者の中に溜まっているマグマのようなモヤモヤを少しずつ流していくことも必要だと思う」

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 一方、内澤氏はGPSの活用を訴える。

 「弁護士からうかがった案で、どうしても危険だという加害者については双方にGPSをつけて、一定距離圏になったら警察と被害者にアラートが行くシステムにする。今回みたいな事件に関しては、どう説得するかというよりも物理的に止める策が必要だと思う。ストーカーは被害者と加害者だけの関係なので、効果は非常にある」

 弁護士の菅野志桜里氏は「本人や弁護士が『必ず治療をするので執行猶予を付けてほしい。罪を軽くしてほしい』と主張することがよくあるが、それが言葉どおり担保されない状況がある。犯罪という側面と、依存症という疾患的な側面があり、後者の治療にどうやって道筋をつけていくかについても本当に考えなければいけない」と述べた。(『ABEMA Prime』より)
 

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